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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第1章 魔法少女編
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第26話 山吹蜜柑①

 あの後、小屋に行くと城門を開ける役の兵士の方々がいたので、事情を話し開けてもらった。

 それから歩いて城に戻ったのだが……なんとも愉快なことになった。

 道の両端に人が捌け、土下座で私達を出迎えてくれたのだ。

 まぁ、明日香は変身した状態のままだったし、私が黒髪で目立つため、仕方のないことではある。

 ここの国では魔法少女ってかなり重宝されているみたいだし。

 おかげで、明日香にお姫様抱っこされたままの沙織が崇められるような状態になっていたのだ。

 そして密かに心の中で同志とか思ったのは内緒。


 沙織、かなり恥ずかしがっていたなぁ。

 私や明日香は一度経験したからまだしも、山吹さんとかもすごく恥ずかしそうだった。

 まぁ、あんな経験することなんて無いだろうし、しょうがない。

 しかし初の城下町でお姫様抱っこを崇められた沙織は本当に運が無い。


 そういえば、その後で、今回の転移について聞いてみた。

 使用人さんの言葉によると、アリマンビジュの能力によって、敵が御神体まである程度の距離に近付くと、自動で魔法少女を転移させるらしい。

 まだまだアリマンビジュの謎は深い。


「ふわぁ……」


 昨日の出来事を思い出していると、突然欠伸が出た。

 私は小さく欠伸をして、伸びをする。

 今日はかなり長く寝ていたような気がする。

 まぁこの広い城を歩き回ったりしたし、疲れていたのだろう。

 でも一昨日もかなり体は動かしたんだよなぁ……やっぱり山吹さんに癒し能力でもあるのだろうか。

 そんな風に考えながら、ベッドから出て、リビングに向かう。


「……マジっすか」


 しかし、そこに朝食はなかった。

 まさか全然起きなさすぎて片づけられた?

 どれだけ長く寝ていたんだよ、私。

 日本にいた頃は朝食くらい平気で抜いていたけど、この世界では昼食とか出ないからなぁ。


 城下町に行ったら何か軽食とか売っているかもしれない。

 外套で頭を隠せば下手に目立たなくて済むかもしれないが……そもそもこの世界での金を持っていない。

 言ったらもらえるかなぁ、お小遣い。

 でもトップスリーならいざ知らず、私って変身もロクにしてないし……。

 ただ飯喰らいなのに金強請るって、流石に図々しい気がする。


「……?」


 その時、どこからか焦げ臭い匂いがした。

 何かが焦げている? そこで私の視線が向いたのは、リビングと繋がっているキッチンの扉だった。

 誰かが料理でもしているのかな、と思い、私は扉を開けた。


「……山吹さん?」

「は、林原さん!?」


 そこには、山吹さんがいた。

 よく見るとテーブルの上には何やら材料だとか器具だとかが乗っていて、彼女の手には銀色のトレーがあった。

 トレーの中には、黒い煙をあげる炭のようなものがあった。


「……暗黒物質(ダークマター)?」

「ぃぁ……見ないでぇ……」


 涙目でそう言って銀色のトレーを背中に隠す山吹さん。

 ほぼ小学生の彼女にそんな顔をされると、なんだか自分が悪いことをしてしまったような気分になる。

 でも私がやったことって台所に入っただけなんだけど。

 ここ、まさかトップスリー限定とか、そんな制約無いよね?


「えっと……ごめんなさい?」

「あ、いや、林原さんは何も悪くないよ! ……私が勝手にやっただけだから」


 そう言って目を逸らす山吹さん。

 私はそれに「はぁ……?」と微妙な反応を示してしまう。

 すると山吹さんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、トレーをテーブルに置いた。

 一体ここで何を、と視線を動かすと、テーブルにカラフルなノートが乗っているのを見つけた。


「山吹さん。これ見るよー」

「ん……って、ちょっと待って!」


 なぜか慌てる山吹さんを無視して、私は彼女のノートを見る。

 そこには、クッキーのレシピのようなものが、写真やイラスト付きで乗っていた。

 ……何これ可愛い。


「クッキー作ってたの?」

「ぅぇ……ぅぅ……」


 私の質問に、なぜか彼女はますます顔を赤くして呻き声らしき謎言語を発した。

 しかし、少しして、彼女は小さく頷いた。


「へぇ、なんで?」

「え……っと……あの……」


 まだ赤くなる余地があったのか、と思うくらい、彼女の顔が赤くなる。

 赤面症なのかな。

 視線をキョロキョロと彷徨わせ、たまに「ぅぇ」とか「ぇぅ」みたいな呻き声をあげる。

 しばらくして、彼女は私を見た。


「に、日本にいた頃から、お菓子作りが、趣味で……それで、皆にも食べてほしい、って……思って……」

「お菓子作りが趣味!?」

「ひゃぅ!?」


 驚きのあまり、つい大きな声を出してしまった。

 肩をビクリと震わせて驚く山吹さんに、私は咄嗟に自分の口を手で押さえた。

 しかし、まさかの、お菓子作りが趣味。

 山吹さんって可愛いと女子力が具現化した生物じゃないか?


「私料理とかそんなにやらないのに……すごいよ山吹さん!」

「ぇぁ……そうかな?」

「うん。でも、お菓子作りが趣味な人が作った物には見えないんだけど……」


 そう言いつつ、私は彼女の背後にあるトレーに視線を向けた。

 すると山吹さんは「うぅ……」と言って目を伏せる。


「この世界の食材って日本とは勝手が違って……上手く出来なくて……」

「あー……なるほど」

「レシピを見ながら調節はしていたんだけど……」


 そう言って服の裾を掴む山吹さん。

 正直、お菓子作りなんて専門外だ。

 バレンタインの時にネットで調べたレシピで手作りはするが、精々その程度。

 ……でも……。


「じゃあ、手伝うよ」

「えっ」

「あ、戦力としては心配かもしれないけど、料理全くしたことないわけじゃないし、私何やっても平均だから、少なくとも滅茶苦茶不味いものを作ることにはならないと思うよ」


 私の言葉に、山吹さんはしばらくキョトンとした後で、フワッと嬉しそうに笑った。


「じゃあ、よろしく! 林原さん!」

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