第24話 風間沙織⑤
本日二本目投稿
光に包まれると、強い浮遊感を覚えた。
かと思えば何かに引っ張られるような感覚があり、目の前が徐々に暗くなっていく。
転移が終わった……? 前回の召喚よりも、なんだか少しアッサリしていたな。
そう思いながら目を開くと、そこには、明日香と山吹さんがいた。
「明日香……山吹さん……」
「葉月に……沙織ちゃん? 何してんの?」
明日香が頬を引きつらせながら放った言葉に、未だに沙織の体を抱きしめたままであることを思い出す。
私は「うわぁ!」と情けない声を発しながら、慌てて手を離す。
すると沙織はフッと息を吐き、立ち上がって眼鏡の位置を正す。
「ひとまず落ち着きましょう。ところで……不知火さんこそ、その恰好は何ですか?」
「え? あぁ、これ?」
沙織の指摘に、私は明日香の格好を見た。
何やら運動がしやすそう恰好だが……どうした?
「これはこのお城の兵士の人達が訓練の時に着る服みたいな感じ。運動したいから動きやすい服が欲しいって言ったら何着かくれたんだ」
嬉しそうな口調で言う明日香。
なるほど、これで練習していたわけね。
よく見ると額に汗が滲んでいるし、呼吸が微かに乱れている。
どれだけ激しい運動していたんだか……。
「そうですか。山吹さんは、特に何も無いですか?」
「え? う、うん。大丈夫」
そう言って頷く山吹さんに、沙織は微かに表情を緩めた。
先ほどまで和やかに話していた彼女ではない。
学校と同じ、冷静沈着な生徒会長だ。
オンオフの激しさよ……。
「ひとまず全員無事、ですね。それで、ここは一体……」
「……城門の前、かな?」
私達の後ろにある何かを見上げながら言う明日香に、私は後ろを振り向く。
そこには、巨大な城門の扉があった。
「静かに」
重厚な扉に言葉を失っていた時、沙織が口に人差し指を当ててそう言った。
一斉に黙った時、森の方から何かが近づいて来る音がした。
ガサガサと、こちらに向かって、真っ直ぐ。
「ウギィィィィィィッ!」
そんな金切り声と共に、巨大な猿の化け物が森から飛び出してくる。
突然のことに、私は固まった。
しかし、すぐにそんな私の前に沙織が立った。
「沙織……!」
名前を呼んだ瞬間、目の前がカッと明るくなった。
三人が変身したのだ。
光が止むと、そこには、魔法少女に変身した三人がいた。
今更だけどさぁ、変身バンクとか無いわけ?
「不知火さんと山吹さんは挟み撃ちで敵を追いつめて下さい。後衛は私がします」
「オーケイ! 蜜柑ちゃん行くよ!」
「う、うん!」
沙織の指示に従い、明日香と山吹さんが左右に分かれる。
巨大猿はその様子にニマニマと口角を上げている。
……何あれ、気持ち悪いんだけど……。
「葉月は私より前に出ないでくださいね。危ないですから」
「りょ、了解」
沙織からの指示に、私は従う。
その間に明日香と山吹さんは徐々に巨大猿への距離を詰め、攻撃体勢を取る。
明日香も山吹さんも攻撃力は半端ない。
しかし、微動だにしない巨大猿に、私はなぜか焦燥感に駆られた。
何より、沙織が有事のために弓を引いて構えているのが、凄く気になった。
「はぁッ!」
「でりゃぁ!」
明日香の覇気のある掛け声と、山吹さんの可愛らしい掛け声が同時にした。
直後、巨大猿が突然、かなりの高さまでジャンプした。
「ぅぁッ!」
「ひゃッ!」
あの状態から攻撃を止めることなど出来ず、明日香と山吹さんはぶつかる。
二人がよろめいている間に、沙織が魔力で矢を生成した。
そして空中にいる巨大猿に向けて、矢を放つ。
一筋の矢は巨大猿の体を貫く……かに思われた。
しかし巨大猿はそれすらも体を捻って躱し、地面に着地する。
「くっそぉ! このッ!」
着地した巨大猿に、明日香が強引に殴りかかろうとする。
「待って! 明日香!」
「不知火さん!」
咄嗟に私と沙織が制止するが、それすら聞かずに明日香は巨大猿に向かって拳を放った。
しかし巨大猿は素早くジャンプをしてそれを躱していく。
俊敏過ぎる。魔法少女の力でも、あの猿の速度に追いつくことは出来ない。
つまり私達に出来ることは……。
「……猿の動きを予測して、矢で行動不能にする……?」
私の呟きに、沙織の表情が微かに固まった。
跳び回る巨大猿を見つめ、拳を強く握り締めた。
「……私に、そんなこと……」
「でも、一番確実な方法は、これしか……」
「……そうですね。私もそう思います」
そう言いながら、沙織は弓を構える。
魔力で矢を生成し、猿を狙う。
しかし、俊敏に動き回る猿を捕らえるのはかなり難しい。
おまけに、下手したら明日香や山吹さんに当たるかもしれない。
その緊張からか、沙織の頬に冷や汗が伝った。
「沙織ちゃん! これどうすればいいの!?」
「風間さん!」
明日香と山吹さんが困惑した様子で沙織を呼ぶ。
確かに、この状況で沙織を頼るというのは正しい判断ではある。
この場で頼れる相手は、沙織しかいない。
でも……。
「私は……私は……」
そう呟く沙織の手が震えた。
これでは、矢の標準がずれてしまう。
緊張が彼女の判断を鈍らせる。
ただでさえ巨大猿に矢を命中させられる可能性なんて低いのに、それに加えてこの緊張。
この状況で猿に矢を当てるなんて、不可能に近い。
……万事休す、か……?




