第22話 風間沙織③
本日二本目投稿
「怖い、ですよね……」
私がどう答えようか迷っている間に、風間さんはそう言った。
口元を隠していた本を机に置き、悲しそうに目を伏せた。
それに私はハッとして顔を上げた。
彼女は続ける。
「分かってるんです。私が、一般生徒の方から恐れられているのは……それほどまでに厳しく、接したつもりでした……」
「えっと……風間さん……」
「私はいつもそう……自分の気持ちを隠して人に厳しく接することでしか、自分の威厳を示せないから……だから、私は……」
「怖く無いよ!」
咄嗟にそう反論する。
すると風間さんは驚いたような表情で顔を上げ、私を見つめた。
だから私はそれに微笑みながら、彼女の近くに歩み寄る。
「いや、前の厳しい風間さんは怖いと思っていたけど……でも、今の風間さんは怖くない。……今の風間さんが、本当の風間さんなの?」
「え、えっと、私は……」
「じゃあ私は……今の風間さんと仲良くなりたい」
私はそう言いながら、風間さんの隣の椅子に腰かけた。
それから風間さんの顔を見てみると、彼女は不思議そうな表情で私を見ていた。
少しして、首を傾げる。
「それは……友達になりたいってことですか?」
「え? うん。あ、もしかして嫌だ」
嫌だった。そう聞こうとしたところで、私は固まった。
なぜなら、風間さんの顔がカァッと赤くなったからだ。
彼女はまたもや本で顔を隠し、目元だけを覗かせながら続けた。
「ご、ごめんなさい……その……私、今まで、友達とか……いたことがなかったから……」
なんていうか、これは、アレか? ギャップ萌えか?
今朝までは、冷静沈着でクールで綺麗で……人間味の無い完璧な人間だと思っていた。
しかし、実際の中身はこんなに脆くて……って……アレ?
「友達がいなかった?」
「はい」
「一人も?」
「はい」
「……ずっと一人ぼっち?」
「……はい」
私が聞き過ぎたからか、徐々に風間さんの目に涙が滲んでいく。
それに私は慌ててしまい、なんと取り繕えば良いのか分からない。
その間に、風間さんは涙を拭い、「良いんです」と答えた。
「私は、お母様やお父様から、様々なことを学びました。お勉強や、作法や……他にも、色々なことを」
「へぇ……」
「でも、その……友達の作り方は、習いませんでした。それに、学校にはお母様達はおられませんから、私はお母様達から習ったことを活かして、気高く振舞うことしか出来ませんでした。風間家の一員として、自分の弱みを見せず、不安を隠し、完璧な自分を演じることしか」
そう言って強く拳を握り締める風間さん。
どこか憂いを帯びた目で目の前に置いてある書物を見つめながら、彼女は続けた。
「その事に執着し過ぎて、他が疎かになってしまったのは、単なる私の力不足ですから」
「力不足……では無いんじゃない?」
「はい?」
私がつい口を挟むと、風間さんは不思議そうに首を傾げた。
だから私は握り締められた彼女の拳に自分の手を添えて、口を開いた。
「風間さんは充分凄いよ。成績は常に一位だし、生徒会長やってるし、この世界に来てからもずっと冷静に皆を纏めてくれた」
「そんな……私なんて……」
「謙遜しないでよ。……私さ、今日ちょっと思ったんだよね。風間さんって、弱点とか全然ない完璧な人だから、本当に人間なのかなって」
「……人間ですが?」
「そこじゃなくて! ……風間さんは、充分頑張ってる。充分凄い人。ここまで出来て、弱点が無い人の方がおかしいもん」
そう言いながら、私は彼女の手を優しく撫でる。
強く握られた拳が、私の手の中で少しずつ緩んでいく。
……彼女の冷たい心が、徐々に溶けていく。
私は続けた。
「それに私はさ、何やっても平均並で、弱点は無いけど、特技とか強みも全然無くて。だからさ、私は風間さんが羨ましい。風間さんは強みが多いもん」
「……そう、ですか……?」
「あ、はは……自分でも言葉が上手くまとまらないんだけどさ……私は、風間さんと仲良くなりたい。風間さんをもっと知りたい。……ダメ、かな?」
そう聞きながら、私は解れた彼女の手を握る。
優しく、包み込むように。
私の言葉に、風間さんは驚いたように目を丸くしてから、嬉しそうに笑って、私の手を握り返してくれた。
「私の方こそ……もっと、林原さんと仲良くなりたいです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「よし……って、あ、ごめん! 手握りっぱなしだった!」
私が慌てて風間さんは少しキョトンとした後で、優しく笑って「良いですよ」と言って私の手を握って来る。
不思議に思っていると、彼女は恥ずかしそうに俯きながら続けた。
「こ、こういうの……友達っぽいな、って……ずっと、憧れていて……」
「……そうなんだ……」
「はい……あの、もう一つだけお願い、良いですか?」
そう言ってオズオズと私を見る風間さん。
私はそれに「なぁに?」と言いながら首を傾げて見せる。
すると彼女は私の手を握る力を強くして、口を開いた。
「私の、ことを……不知火さんのように、名前で呼んでくれませんか?」
「……うん。じゃあ、私のことも名前で呼んでよ。沙織」
私がそう言って見せると、沙織は目を見開いて顔を上げた。
それから顔を赤くしながら、口を何度かパクパクとさせる。
……緊張、しているのかな。
彼女の緊張を和らげるように、私は彼女の手を少し強く握る。
すると沙織はふと顔を上げ、私を見て嬉しそうにはにかんで、「葉月」と言った。
今日友達と深夜アニメの話をしていて「最近魔法少女小説書いてるからもっと魔法少女アニメに触れたい。あと百合も書いてるから百合アニメももっと見たい」って言ったら職業病って言われた




