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異世界で魔法少女始めました!  作者: あいまり
第1章 魔法少女編
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番外編 バレンタイン

バレンタインSSです。

本編とは関係ないので読み飛ばしてもらって大丈夫です。

 寒空の中、私は息で手を温もらせる。

 二月も中旬となってくると多少は温かくもなってくるが、やはり、寒いものは寒い。

 道路の端に溜まっている雪を睨みながら、私はもう一度息を吐いて手を温めた。


「はーちゃんおはよー……って、寒そうだね」


 家を出てきた若菜は、そう言って苦笑した。

 それに私は頷き、コートのポケットに手を突っ込む。


「おはよう、若菜……」

「あはは……まさか、手袋を無くすことになるなんてね」


 そう言って頬をポリポリと掻く若菜。

 私はそれに、歩きながら「ホントだよ……」と呟いた。

 昨日、学校で手袋を無くしてしまい、結局現在も見つかっていないのだ。

 百均で買った安いものだから金はそこまで気にしていないのだが、やはり手袋無しでの通学は辛い。

 職員室前の落とし物コーナーにあれば良いのだが……。


「ハイ」


 その時、若菜がそう言って手袋の片方を渡してくる。

 私がそれに首を傾げると、若菜は微笑んだ。


「手袋。何も無いんじゃ寒いでしょ?」

「あ、ありがとう……でも、片方だけじゃ、もう片手寒いよ?」


 そう言いつつ、私は若菜に貰った手袋を左手に付ける。

 すると、冷たくなっていた左手が温もって、私は感動で震えた。


「ん……だから、こうするの」


 若菜はそう言うと、私の右手を、左手で握って来る。

 指を絡めて、ギュッ、と。強く握る。

 突然のことに私は驚き、若菜の顔を見た。

 すると若菜は「えへへ」と笑って、身を寄せてきた。


「ホラ、こうしたら寒くないでしょ?」

「おー。流石若菜。天才」


 私がそう褒めると、若菜はなぜかムッとした表情をした。

 あ、あれ? 言葉選び間違えた?

 そんな風に考えつつ角を曲がった時、私達の通う中学校が見えてくる。

 ……見えてきたんだけど……。


「……何あれ……」


 私は目の前に広がる光景に、げんなりした。

 正門を過ぎたさらに先、良い感じで一般生徒の邪魔にならない場所で、人だかりが出来ているのだ。

 近づくにつれて、その中心にいる不知火さんが見えてきた。


「皆ありがとうねー」

「不知火さん、いつも応援してます! ソフトボール頑張って下さい!」

「うん。ありがとー」

「不知火さん大好きです! 付き合ってください!」

「ありがとー。あー、そういうのは無理かなー」

「凄いカッコいいです! 応援してます!」

「おー。ありがとー」


 ……なんかすごいことになってる。

 不知火さんを囲んでいるのは全員女子で、どうやらバレンタインのチョコを渡そうとしているらしい。

 あぁ、そっか。今日バレンタインだもんね。

 たまにガチ告白が聴こえてくるけど……良いのかな。


「貴方達!」


 その時、玄関前に響き渡る怒声が響き渡った。

 見ると、それは生徒会員の風間さんだった。

 彼女はズンズンと不知火さんを囲むファン達に向かっていくと、眼鏡の位置を正して口を開いた。


「この場所では一般生徒の邪魔になります! そして何より、不知火さんが困っているではありませんか! あと、校則でお菓子の持ち込みは禁止されています! 没収されたくなければさっさと自分のクラスに行きなさい!」


 ハキハキとした口調で風間さんは言う。

 ……先輩もいるのに、凄いなぁ……。

 ていうか、私達は一年生だから、むしろ先輩の方が中には多いと思う。

 それなのに風間さんは物怖じせず、こうして先輩に向かっていって……と、風間さんの対応に感心している間に、不知火さんのファンは散っていった。

 横を通る先輩方が「年下なのに生意気」とか「少しくらい良いじゃん」的なこと言ってるけど……まぁ、風間さんが正しいよなぁ。


「ちょ、沙織ちゃん」


 その時、不知火さんが慌てた様子で風間さんに駆け寄る。

 ふむ……何か話すことでもあるのだろうか。

 気になるところではあるが、人の会話を盗み聞きするのは流石に悪いので、私は若菜を連れてその場を後にした。


「不知火さんも大変だね。流石トップスリー」

「そうだねぇ。風間さんもトップスリーだけど……あんな性格だし、風間さんにチョコレート渡す度胸、私には無いな」


 そう言いつつ私が肩を竦めると、若菜はクスッと笑って「そうだね」と言った。

 すると私達の教室が差し掛かってきたので、私が扉を開けてあげる。

 扉の先には、クラスの男子達が狂喜乱舞する異様な光景が広がっていた。


「えっと……?」


 困惑しつつ、私は男子の手を見る。

 よく見ると、そこには可愛らしい掌サイズの袋が握られていた。

 あー……ハイ。察した。


「あ、林原さん。加藤さん。おはよう」


 男子達を観察していると、そう声を掛けられた。

 視線を下ろすと、そこには私を見上げて微笑む山吹さんの姿があった。

 おはよう、元凶。


「山吹さんおはよう……この状況は?」

「分からない。私はただ、皆にチョコレートあげただけなんだけど……」


 困惑したような表情でそう言う山吹さん。

 うん。それが原因だね。

 内心そう呟いて笑っていると、山吹さんが「ハイ」と言ってラッピングされた小さな袋を差し出してくる。

 これは……。


「良いの?」

「うん。クラス皆にあげてるんだ。だから、林原さん達にも」


 そう言って髪の毛の先を指で弄りながらはにかむ山吹さん。

 天使がいる。目の前に天使がいる。


「ありがとう山吹さん。大事に食べる」

「ホント? 喜んで貰えて嬉しい」


 そう言ってふにゃぁ、とはにかむ山吹さん。

 しかし、そこで私はとあることに気付き、ハッとする。


「あ、ごめん山吹さん……貰えると思ってなかったから、チョコ持って来てないよ……」

「ふぇ? あぁ、気にしなくても良いよ。私が勝手に作っただけだから」

「そんなわけにはいかないよ! 手作りはアレだから……明日買って持って来る」


 私の言葉に、山吹さんは驚いたような表情をしていたが、やがて柔らかく微笑んで「ありがとう」と言った。

 それから同じように若菜にもチョコレートを渡していた。

 若菜は相変わらずの人見知りを発動していたけど、なんとか「ありがとう」とは答えられていた。


「全く……相変わらず若菜は人見知り激しいね」

「うっ……だってぇ……」


 恥ずかしそうに顔を赤らめながら目を逸らす若菜に、私は「ごめんごめん」と言いつつ笑う。

 それから自分の席に着いたので、私は鞄を下ろす。

 山吹さんから貰ったチョコレートを横に置き、鞄を開けて中身を見る。

 ……形は崩れてないな。


「若菜」


 私は前の席の若菜の肩を叩き、名前を呼ぶ。

 すると若菜はビクッと肩を震わせてから、こちらに振り向いた。

 それに私は微笑み、チョコレートを差し出す。


「ハイ、これ。いつもありがとう」

「はーちゃん……じゃあ私からも、ハイ」


 そう言って若菜は鞄から可愛らしくラッピングされた掌サイズの袋を取り出し、差し出してくる。

 私達はそれぞれのチョコレートを受け取り、笑い合った。

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