第14話 不知火明日香②
本日二本目投稿
使用人の人に玄関の場所を聞くと、なんと直接案内してくれた。
そして私の黒髪が目立つからって外套を押し付けられた。
今までこんな扱い受けたこと無かったから、未だに慣れない。
「一回通ったけど……いやー。目がチカチカするね」
自分への扱いに不満を抱いていた時、不知火さんが城下町を見つめながらそう言った。
確かに、異世界の人々の髪色はカラフルなので目が痛くなりそう。
だけど不知火さん。貴方も人の事言えないと思います。
「そうだね。……それで、どこに行くの?」
「ん……とりあえず付いてきて」
そう言って歩き出す不知火さん。私は彼女の背中を追って駆けた。
城下町は賑わっていて、人口密度がかなり高い。
運動神経が高い不知火さんは人の隙間を縫うように抜けていくが、私は人とぶつからないように何度も踏鞴を踏んでしまう。
そんなことしている間に不知火さんとの距離は離れてしまい、このままでは逸れてしまう。
「不知火さ……!」
慌てて前に進もうとした時、誰かに肩がぶつかってしまう。
しまった、と思った時、突然胸倉を掴まれた。
「テメェ! どこ見て歩いとるんじゃ!」
そう怒鳴ってきたのは、赤い髪をした男だった。
かなり大柄で、身長は、180センチくらいあるだろうか。
中学二年生女子の平均程度しか身長が無い私では、足が微妙に浮く。
「ご、ごめんなさい……前、ちゃんと見ていなくて……」
咄嗟に謝った声は、かなり震えていた。
私の言葉に、男の顔はさらに怒りに歪む。
「ハッキリ喋れこのボケェ!」
「ぃ……!?」
殴られる。そう思って目を瞑った時だった。
「僕の連れに、何か用?」
聞き覚えのある声に、私はハッと瞼を開いた。
見ると、そこには、男の腕を掴んでいる不知火さんの姿があった。
「しら……ぬい……さ……」
「あ? お前……な!」
不知火さんに文句を言おうとした男は、不知火さんの胸元を見てギョッとした。
いや、胸元というか……アリマンビジュを見た?
そう不思議に思っていると、突然胸倉を離され、私はその場に尻餅をついた。
その際にフードが頭から取れて、髪が露わになる。
慌ててフードを被ろうとするが、それより先に、私に文句を言って来た男が土下座をしてきた。
……土下座とか初めて生で見た。
ていうかこの世界にも土下座文化とかあるのか……。
「も、申し訳ありませんでした! 魔法少女様とは知らず、無礼な真似を!」
「いや、私こそ、ちゃんと前を見ていなくて……」
「お怪我はありませんか!?」
先ほどとは一転。私を物凄く丁重に扱い始める男。
私はそれを断って立ち上がろうとするが、それすらも周りにいた数名の人達に手伝われる。
流石にそれくらい一人で出来るって……。
「葉月ちゃん大丈夫?」
服に付いた埃を叩き落していると、不知火さんが心配そうに聞いてきた。
私は頷き「大丈夫」と答えて見せる。
「まぁ殴られそうだったけど、不知火さんが助けてくれたし」
「そ、そっか……ごめんね。人ごみが酷かったから、周りが見えていなくて」
「いや、こっちこそごめんなさい。勝手に付いて来たのに、迷惑掛けて……」
「……じゃあ、おあいこってことにしよっか。そうすればお互い気にしなくても良いでしょ」
そう言って微笑む不知火さん。
え、笑顔が眩しい……。
おあいこと言うか、本当に今回は私が全部悪いのに……。
しかし、ここは不知火さんの優しさに甘えておこう。
私が頷くと、不知火さんは「良かった」と嬉しそうに言い、歩き出す。
それに付いて行くが、次は置いて行かれることはなかった。
不知火さんが私の歩く速度に合わせてくれているというのもあるが、町の人達が道の両端に避けて土下座しているのだ。
これは……参勤交代?
「もしかして黒髪を隠すように言われた理由って……これかな」
「かもねー……あはは、こりゃ大変だ」
私の言葉に、不知火さんはそう言って苦笑した。
まさか魔法少女という存在にここまでの影響度があるとは思わなかった。
指輪にしているアリマンビジュを見て、私は息をつく。
「この国では、魔法少女ってこんなに大事にされてるんだね」
「んー……まぁ、言っちゃうと神を守るわけだしね」
「あー……」
まぁ、自分達の命運が私達に掛かっていると言っても過言では無いのか。
そう考えた瞬間、ホントにここに自分がいて良いのかという感情を抱く。
トップスリーの面々ならまだしも、私にはやはり、この役目は責任が重すぎる。
でも逃げるわけにもいかないし……と、一人ウジウジと考えていると、突然腕を組まれた。
見ると、不知火さんがニッと笑った。
「またはぐれたらいけないし、ね!」
「ね、じゃなくて……こんな中じゃ誰もはぐれないし!」
「でも念には念を、だよ」
「せめてこういうことは風間さんと……!」
「風間……なんで沙織ちゃんと?」
「そ、それは……!」
感情に任せて抵抗していたら口が滑ってしまった。
流石に百合好きなんて言えない。
口ごもっていると、不知火さんはフッと笑って、私の腕をグイッと引っ張った。
「わ、ちょ!?」
「とにかくレッツゴー!」
そう言って意気揚々と私の腕を引く不知火さん。
私はそれに戸惑いつつも、どこか、彼女の強引さが心地よく感じ始めている自分がいるのを感じていた。




