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前編





「んっぎぃ……っ!!」


痛い。

痛い。

痛い。

澄んだ甲高い声が漏れる。


「あぐぅ……!?」


暗い視界。

暗いというか何も見えない。


そんな不安が支配する空間の中で、激痛だけが俺を貫く。目頭が熱くなる。震えながら泣く。

一定で不規則で分からない間隔で、痛みは俺にやってくる。


次第に慣れて、身を捩らせるようになる。俺は痛いのが好きな変態じゃないのに。


そんな考えができるようになる頃には、これは夢ではなく現実で何かが起こっている事に気付き、意識を覚醒させ…………





★ ★ ★





鳥の囀り、暖かな日差し、冬に冷やされた部屋の空気。

朝の雰囲気は俺の意識を醒めさせた。


身を起こし、ため息をつく。


「…………」


下腹部の違和感で悟る。してやられた。そりゃもう文字通りに。そりゃもう好き勝手に。


俺は『俺』という一人称を使うが男ではない。なので一応アブノーマルな行為ではないのだが……。

実のところ、俺は心は男なのだ。多分。


120cmあれば良いくらいに小さな身体。部分的に癖のある真っ白な髪を腰まで伸ばし、どう見ても童顔だが整った顔立ちに真紅の瞳が二つ、やや眠そうに揃えられている。

俗にいうアルビノというヤツで、とことん身体が弱い。


そんな貧弱なとってもか弱き少女……俺の名はレイチェル。そんな俺を虐めてくれた男からはレイと呼ばれている。


剣とか魔法とか、そんな物騒な物が織りなし、様々な種族が凄そうな理由から下らない理由で争いをする世界。

そこで平穏に暮らす者、それを脅かす者、その者を止める者、それらを手の上で転がす者、強力な力でナニモノにも揺るがされない者、別に強力じゃないけど気ままに生きる者。


俺はそれらの最後の気ままに生きる者だった。その頃からレイチェルと名乗っている。種族は人間だ。

自由気ままにお気楽に。狩りをしたり遺跡を探検したり街のちょっとした事件を解決したり。歴史に刻まれる者からすれば詰まらない生活だった事だろう。


そして、お気楽1人旅を満喫していた俺に遂にとんでもない目に合う時がくる。


とある街のとあるバーの主人のお子さんの命を色々あって救ったらそのお礼に秘蔵のお酒を振る舞って貰った。

そのお酒が恐ろしい程に美味しいものだから主人の「強いからゆっくり飲みなよ」との忠告も無視してあっという間に平らげた挙げ句、情けないことに酔いつぶれて眠ってしまった。


気付くと朝になっていて、更に幼女になっていた。

主人曰く、突然縮み始めて10分もしない内に今の姿に変身完了していたんだとか。


困り果てた俺をバーの主人とその奥さんと子供達は家族として迎え入れてくれた。

夫妻の子供扱いとなるのはちょっと抵抗があったが、孤児だった俺にとっては甘えられる存在が出来るというのは内心嬉しいことだったようであっさり慣れた。


俺は夫妻の子供の兄妹の一番上の存在として扱われ、自分より背の高い弟には旅で培ってきた役に立つ知恵を教え、自分と近い背の妹にはおとぎ話を読み聞かせた。個人的には年上らしく接してやれたと思う。


とても充実した日々だったが、長くは続かなかった。


14歳くらいの筈の弟に夜這いを掛けられ、力では適わないのでなすがままにされた。凄く痛かった。辛かった。

次に、10歳にも満たない妹を交えての乱交もとい俺だけ責め立てられる事件が起こった。妹さん怖かったです。

次に、奥さんを交えての乱交もとい(以下略)。

遂には最後の良心と信じていた主人さんを交えての(以下略)。


毎晩毎晩、5人も居ながら俺だけされてばっかり。

怖くなってバーを抜け出してみたものの、宛も無いのでウロウロしてたら魔族にお持ち帰りされましたとさ。


……さて、それから10日が経ち、その間に俺は俺をさらった変態野郎に3晩責め立てられた。

あの家族に比べればなかなか我慢する紳士と見ても良いかもしれない。


ぼんやり写る窓を見やる。ここに来て太陽の光を見たことは未だに無い。

ここは人間の住む世界ではない。

常に暗闇が支配する魔族の世界。一応うっすらと視界はある。

言い伝えや詩人の唄でしか聞かない、人間からすると幻のような所だ。


そして俺の今いる所は俺をさらった変態野郎のお屋敷の一室だ。結構広い。


〈コンコン〉


ちょうどその変態ペドロリ野郎が帰ってきたようだ。

身体の震えを止める余裕は俺にはまだ無かった。


「レイ、朝ご飯だよ」


ノックから一間置いてドアを開けて入って来たのは長身の男。名前はテリトル・メイリーシュ。愛称はテリー。

どこかの王子様かと思うほどに美的と知的と品性を併せ持ったような顔の造形をしていて、魔族の象徴の長い耳が輝く金髪から飛び出ている。アメジストのような、ハックマライトのような紫色。優しそうな目をしながらミステリアスな雰囲気を醸し出している。


お屋敷の広さやこの男の気品のあるそこそこ高貴っぽい服装を見るに、割と良い御身分のお方のようだと呑気に考察してた頃が懐かしい。


優しそうな目をしているとか言ったけど多分そんなことはない。人が痛がって泣いて行為の終了を求めても『イヤだ、続ける』ではねのけ、息も絶え絶えで空気を欲する俺の口を見て『良さそうだ』とか言って栓をするイかれた奴だ。


「震えることは無いだろう。変な事なんてしないよ」


「……人が寝てる内に散々したくせに」


皮肉は言うけど徹底的に反対はしない。やった事があるがアレは俺が馬鹿だったと今でも後悔してる。

罰としてその日はご飯お預けを食らって、その上で夜に襲われた。いよいよ体力が保たなくて死にかけた。


もうあんな思いはしたくないので、俺はそれなりに良い子でいようと努めるようになった。

皮肉程度では罰は無いので遠慮無く言うことにしている。


「せっかく僕が起こしに来てあげたんだ。もっと嬉しそうにしなよ」


「朝ご飯が出来たんでしょ? おかげさまで上手く立てないから手伝って」


上体は起こせるけど足腰が言うことを聞かない。しゃくに障るが、立てない原因を作った張本人のコイツ(テリトル)に頼まなければ朝ご飯にはありつけない。

そう、俺はまさにペット。おねだりしないと餌は貰えない。


両手を差し出して『抱っこ』のポーズをとって媚びを売る。そうすれば目の前の男は俺を食卓へ運んでくれるのだ。抱っこで。


「ふふふ、レイは軽いから持ち運びが楽でいいね」


軽々と抱き上げられ、歩き出したと思ったら良いポジションにある左手でガッツリお尻を揉まれた。


「…………」


下手に噛みついて食前の運動に洒落込まれたら堪らないのでだんまりを決め込む。


「…………っ」


あちこち撫で回されても無視無視。反応待ちの罠なんだ、全部。

顔を見ちゃいけない。チラチラ見えるその笑みを凝視した時には悔しさで噛みついてしまう。その時にはカウンターが待っている。だから俺は顔を逸らして逃げに徹した。


「酷いじゃないか。こっちを見てよ」


「前向いて歩かないと転ぶよ」


「前のめりに転べばレイが下敷きになってくれるから大丈夫さ」


「…………」


「あぁ、ごめんよ。そんな泣きそうな顔しないで。こっちを向いてよ」


一瞬だけ顔を向けて再び逸らした。


「向いた。満足?」


「冷たいなぁ。それじゃあいっちょ朝ご飯も冷ましてみようか」


くるっとターンして俺の部屋の方向へ歩み出し始めて俺も流石に慌てた。


「向くっ……向くからっ……。俺はご飯は暖かい内に食べたいな……」


歩みが止まってホッと一息。……しかしここからが問題だ。

媚びを売るのは大事だが、やりすぎると逆効果。『その気』にさせたらおしまいだ。


「ほら、こっち向いて。もちろん笑顔でね」


……な、なんてことだ。笑顔とまでくると俺にはちょっと調整が出来ない。

まさに媚びの売りすぎで『その気』にさせちゃった時の事が脳裏によぎる。

程良い笑顔なんて鏡も無い部屋じゃ練習できない。だから本番で加減なんて出来やしない。


「ほら、早くしないと冷めちゃうよ」


テリトルは再び歩み出した。残酷な運動場を目指して。

俺はもう切羽詰まって全身から血が吹き出そうだった。


「ま、まって!」


「十分待ったよ。後はレイ次第だ」


部屋を出てそんなに経ってないから戻るのもそれだけ時間が掛からない。一か八か、最早やぶれかぶれだった。


「……え、えへへっ……」


作ってる感満載だろうが、どうにか笑みを向ける事が出来た。テリトルはやっぱり笑っていた。


「……なかなか頑張るね。今回はその頑張りに免じて許してあげよう」


……た、助かった。


「じゃ、ベッドへ行こうか」


「……なっ、なっ……!!?」


テリトルの感触さえ感じられない程に身体が外界と遮断されたような感覚と、血の気が引いて悪寒が身を凍らせるような感覚に襲われた。

目頭だけ凄く熱くなった。


「……すんっ……すんっ……」


鼻を啜る音が廊下に響いた。


……すると、不意に頭に手を置かれ、撫でられた。


「……それはずるい。僕は幼気イタイケな女の子を虐める趣味は無い」


……うそつけ。

なんて口に出す元気は今の俺にはなかった。


平常心を取り戻し始めた俺の体温は元に戻り、身体の感覚も戻ってきた。

すがるものが欲しかった俺は、それが憎い変態悪魔でも構わず首に腕を回して抱きしめた。


「よしよし、レイが懐いてきてくれて俺は嬉しいよ」


「……違う、怖かっただけ。撫でないで」


「やめないよ。今レイの頭さえ撫でれなかったら止まれなくなるからね」


危ないところだった。

腕だけじゃなく脚までテリトルの身体に絡ませていたら暴走を招いていただろう。そしたら……

考えただけでまた血の気が引いた。


「レイは顔じゃなくて身体に感情が出るから面白いなぁ。何に怯えて震えているんだい?」


「テリー、ご飯」


「ふふ、僕のをご馳走してあげてもいいけど……」


「……っ……!?」


「冗談だよ。ほら、泣かないで。本当にレイは臆病だなぁ」


この危機的状況で『お前のせいだ』とは言えない。

朝食が苦い飲み物なんて今の俺には笑えない。


「今日はちょっと忙しいからね。おふざけもこのくらいにしとくよ」


そう言ってテリトルは歩き出した。


朝からこんな熱い攻防戦の展開だ。これまでの10日間、それなりに順応するのにどれだけの悲劇が起きたかなんて思い出したくない。


夜這いが3晩ってだけでそれまでに地雷を踏んで何回もされたからね。

その3晩っていうのは俺が上手く回避し続けた結果の欲求不満によるものなんだから酷い話だ。






筆休め作品です。

正直行き当たりばったり感が凄いのですが、そこはリハビリ作品ということでご了承下さい。

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