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『書籍化』隣に住んでる聖女様は俺がキャラデザを担当した大人気VTuberでした  作者: 乃中カノン 
第3章

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第148話 夏休みの予定

「庵くん、夏休みの予定合わせちゃいましょうか」


 夏休み三日目、仕事部屋にやってきた明澄はそう言いつつ仮眠用のベッドに腰掛ける。


 こういうのは半月くらい前に擦り合わせておくのだろうが、明澄の仕事柄不確定要素が多く中々決まらなかった。例年はどちらも自分の仕事中心だったものの、今年は庵が配信を始めたからスケジュールを詰めておく必要がある。


 明澄の提案に頷いた庵は、チェアごとくるっと回った。


「お、決まったか。今年は俺とも予定あるもんな」

「ええ。その庵くんとの案件ロケは十五日、うちのゲームイベントが下旬で庵くんのゲスト、とここはまた追って打ち合わせを」

「おっけ」

「それでなんですが。中旬終わりにロケ企画するんですけれど……」


 スマホと睨めっこしていた明澄は、こちらを見上げて窺う。


「澪璃と行ってる毎年恒例の公式旅企画だろ」

「そうです。それで、その今年は庵くんも来ますか?」

「え?」

「温泉旅館を貸し切りにするんですが、私たちが泊まる部屋以外は空くのでそこに泊まりませんか、というのを社長から言伝を預かってまして」

「なんで?」

「ほら、今年初めの件でそのお詫びみたいです」

「うーん、そうかあ……」


 年明け早々の身バレに関しては、社長を含めた面々から直接正式な謝罪を受けているが、発生した損失をモノでも埋めるという事なのだろう。


 さてはて、どうしたものかと庵は腕組みして悩む。

 泊まり込みのロケ企画に男の庵が居るのはまずいと思うが、そこはきちっと居ないものとして隠し通すだろうし、問題ないと判断した上でこの件を差し出してきたはずだ。


 断っても別の豪華な何かしらを用意されるだろうことは想像に容易く、そして申し訳ない。かつ、そこにいる明澄は表情に見て取れるほど期待を宿しており、渋々だが庵は受けることを決める。


「分かった。お世話になるよ」

「はい! それがいいと思います。では、またそれも後ほどに。庵くんからは何かありますか」

「そうだな。中下旬は特にないけど、八月頭頃からちょっと帰省する予定」

「あ、ご実家に帰られるんですね」


 帰省という言葉が出て、明澄はほんのり目を丸くする。


 明澄ほどではないが、庵も親とは良好とは言えない家庭環境にあって、彼女もそれを知っているから庵の帰省は想定していなかったのだろう。


「親父からたまにはってな。本音は春休みに俺の部屋に女子が出入りしてるの知ってるからだろうけど」

「すみません。私のせいで」

「良いんだよ。というか、ややこしくなりそうだから彼女がいるって言ったし」

「あ……そうだったんですか」

「うん。もしかしたらこの家に親か祖父母が来るかもだしで、いずれバレてた可能性もあるからな」


 この家に両親や祖父母が来訪する可能性は否定出来ない。

 明澄が一人で家に居ることも多いし、鉢合わせすると気まずいだろうから今の内に知らせておこうと考えたのだ。


 これに関しては相談も何もないものだが、突然知る事になった明澄は明らかにそわそわとしだした。


「それで、帰省はどれくらいの期間で?」

「実は十日は戻ろうと思ってる」

「えぇ……!? そんなに長く……」

「モノが増えてきたからそれを送るんだけど、あっちでそれも片付けたりしないとだし、親も忙しいから庭とか家とか綺麗にしてやろうとか、他にもちょっとな」

「そっか、全然帰ってないとそうなりますよね」


 聞くからに明澄はトーンの落ちた声になり、それでも寂しそうにも強がりな笑みを浮かべる。


「それとさ、立て続けに悪いんだけど、良かったら帰省の時、ウチに来るつもりはあるか?」


 彼女が出来たと庵が父親に伝えた際、そちらに顔を見せると言われたのだ。両親共に家系的な所以からやや昔ながらの感覚を維持しているため、今時でも高校生の息子が付き合った程度で筋を通す姿勢が出たのだろう。


 断っても良かったが、将来的な事を考えれば隠したり遠ざける方が不義理だから明澄にこうして提案したのだ。


 そして、それはちょっぴり間抜けな声と顔だっただろう。明澄は庵に言われたことを瞬時に理解出来ないでおり、寂し気な表情を一変させて「へ?」と漏らした。


「それは、庵くんのご実家に行くということで合ってますか?」

「うん。明澄が嫌なら無理強いは絶対にしないけど」

「い、行きます。ちゃんとご挨拶しないとですし、いつかは来る話ですから」

「ありがとう。親父たちに連絡しとくな」

「じゃ、じゃあ今からトラベルセットとか着替えとか色々用意しないといけませんね。十日となると、荷物が多くなるし、スーツケースよりダッフルバッグとかの方が良いでしょうか?」

「いや、別に泊まりのつもりはなくて……」


 慌ただしそうにスマホに打ち込んでは、明澄は声色を弾ませてそう聞いて来るのだが、庵は返事に困った。


 付き合いたての彼女を初めて会う親の元へ連れていくのに泊まりというのは常識に欠ける。なので、庵は昼食後に挨拶を済ませて軽くお茶をしたのち、夕方こちらへ送り届けようと計画していた。


 長めの帰省の話の後に言った為か明澄は勘違いしたようだ。みるみると顔を赤くしては下を向き、羞恥から肩を震わせていた。


「でも、明澄がそれで良いなら寂しかったし俺は嬉しいよ。親父たちも地位のある人たちだから、おもてなしは心得てるし、歓迎してくれるはず」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、保証する。だから……」


 椅子を立った庵は慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべる。

 明澄の隣に座り、「俺と一緒に来てくれる?」と殺し文句を届ければ、明澄は小さく「はい」と承諾した。


 寄ってくる肩を更に引き寄せてやると、庵の意図が分かったのか明澄は彼の脚の間に移動してすっぽりと収まる。抱くように手を回したその上には、スマホを手放した明澄の手が包み込むように重ねられた。


「……一つ聞きますけれど、庵くんのご両親ってこういう感じは許されなかったりしますか?」

「多分何も。なんなら夫婦仲は良いから文句言うイメージがない」

「庵くんからたまに聞くお話だと、結構厳格な方なイメージだったので、ちょっぴり怖かったんです」

「怖がらなくていいよ。性格が真面目なだけだからさ」


 明澄にとって自身の親の存在は気のいいものではないし、信頼する彼氏の親であれ未知の領域に違いない。


 抱かれている多幸感とその不安感が混ざっているのか彼女の頭が下がったから、そのつむじを避けつつもたれるようにし顎を乗せたりと密着具合を高める。

 緊張故の身体の力も次第に抜けて、明澄はゆっくりと瞼を下ろしては全部預けてきた。


「まじめ……もしかして、庵くんの誕生日に合わせて帰ってくるように、とか?」

「帰る時期は指定されてないし、去年は一言もなかったから関係ないはず。まぁ、気まぐれだろうな。それに今更祝われても困るし、俺も気を遣わせないよう誕生日の後に行くつもりだったから」

「でしたら、庵くんの誕生日を祝えそうで良かったです。一瞬、どうしようかと思ったので」

「ありがとう。明澄が何かしてくれるのは分かってたからちゃんと空けてるよ」

「ええ。なので期待しておいて下さい、と言うには私の誕生日は凄かったのでプレッシャーですが、八月一日は頑張りますのでお楽しみに」


 約一ヶ月半前、明澄の誕生日は庵なりに沢山祝ったし、明澄が一番望んでいた告白と交際にまで辿り着いた。

 庵が逆の立場でもとんでもないプレッシャーだっただろう。


「俺は一緒に居られるだけで充分なんだからな?」

「言うと思いました。謙虚に真摯な愛を伝えてくれる庵くんのそういった所が好きですけど、だからこそちゃんと祝わせて欲しいんです」


 少しだけずり落ちてきた明澄は、真下から庵を見上げては「ね?」と微笑んだので同じく微笑を返す。


 ついでに首を真後ろに倒すのは疲れるだろうから後ろに反って身体を右に寄せてやる。その分腕は明澄の胸元へ上がったから解放し、代わりに左手を恋人繋ぎにしてにぎにぎとすれば、明澄は気に入ったらしく気持ちよさそうにしていた。


「分かってるよ。だけど、本当に俺はこのままでも幸せ過ぎるくらいだからさ」

「……ほんとに庵くんは甘いんですから」


 空いていた明澄の右手は庵の頬へ向かい、さするように当てられては愛おしげに触れてくる。

 擽ったくもありながら、滑らかな手は温かくて眠たくなるくらいの心地良さで庵は目を細めた。


「特技にしておこうかな」

「私限定でお願いしますよ」

「愚問だな。明澄以外に向けられる甲斐性があるとでも?」

「ふふ。愚問でした」

「だろ。だから際限なく甘えてくれていいんだぞ」

「……もう。ずるい……」


 あまりにも甘ったるかったのか、明澄はかろうじて絞り出すように言う。とても愛らしい仕草に、にこにこと庵は笑い上半身を戻せば、明澄にがばっと後ろから抱き着いてお昼までの予定をそれで埋めた。

これで今年最後の投稿です。本年度もお世話になりました。

この前の更新再開から週1くらいの更新にしたかったのですが、年末は立て込んでまして遅くなりました。


あと来年はまたギアを上げて色々な形で、たくさん本作をお届けできるようにしたいと思います。

それでは、来年もよろしくお願いいたします。

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