第129話 新しきものといつもの
結局、庵たちはホームルーム前の予鈴がなるまで囲われ続けた。
寄り道したから登校時間が遅くなって、囲われた時間が短かったのは幸いだろう。
予鈴とともに解放されて、ようやく庵は自分の席に着く。
ただ、ホームルームまで五分ほどあるためか今も明澄の周りには胡桃をはじめとした女子たちがいて、絶賛延長戦中だった。
「お疲れさん」
「労う前に助けてくれ」
「ごめんごめん。でも変に噂されるよりはああやって話してしまった方が楽だよ」
「それはそうなんだろうけどさ」
席に着けばクラスメイトと談笑していた奏太が会話を止めて、小さく笑いながら庵を労った。
どう見ても胡桃と一緒に楽しんでいたが、彼らも味わってきただろうから真っ当な意見として受け取っておく。
「しかし、なんか雰囲気変わったね」
「そうか?」
「男子三日会わざれば刮目せよって言うもんね。ま、彼女出来た顔つきかな」
「そうかい」
「というか、君がいなくて意外と寂しかったよ」
「それは分からんでもない」
「オレは寂しくて寂しくて、この二日間は彼に話し相手になってもらってたからね」
少々気色の悪いことを口走るので庵は眉を寄せつつ「きもいなぁ」と直接感想を送ってやった。
この会話も懐かしく感じる。
奏太が視線を送った右隣に顔を向ければ、そこには少々野性味のある顔つきの生徒がひらひらと手を振っていた。
確か森崎颯人と言っただろうかと、庵は脳裏で朧気な記憶から彼の名前を引きずり出してくる。
奏太と同じサッカー部だが普段は別の生徒とつるんでいるからあまり話す機会はないものの、明るく気さくなイメージがある。
巷では、少し焼けた肌、金色に染めた髪、陽キャ、スポーツ少年という属性から『確定演出』と呼ばれ、彼女持ちの男子から警戒されているとかなんとか。
「や。朱鷺坂。まさか朱鷺坂が聖女様を射止めるなんてな。おかげで今日はあの騒ぎだし、この二日間、みんな賭けをしてたぐらいの大事件だったぜ」
「賭け?」
「そう。二日前の事件の翌日から特にクラスは騒いじゃってさ。朱鷺坂と聖女様がどうなったかって賭け」
「お前らそんな事を賭けてたのか」
噂は盛大にされているとは思っていたけれど、賭けの対象になるとは思わなかった。
金を賭けたりはしていないだろうし、ジュースやらお菓子やらか、なんならただ予想するだけにとどまっただろうが、それでもあまり気持ちのいい話ではない。
怪訝な目つきで二人を見やったが、奏太と颯人は揃って首を振った。
「いやいや。寄って集って友達の恋愛事で賭けをするなんてとんでもない。オレはもちろん、颯人もね」
「そうそう。友人同士、内輪だけならそういうのもあるだろうけど、俺は別に親しくなかったしな。クラスメイトでやるには気が引けた」
「そうか。疑って悪かった」
見た目は派手だが奏太と親しいし、性格も近しいものがあるのだろう。
颯人は肩を竦めて奏太に同調する。
庵は過去のことがあって他人との関わり合いを避けてきたが、颯人はそう忌避するような相手ではないように見えた。
「いいさ、気にすんな。ま、今後仲良くしようぜ。気が向いたら颯人って呼んでくれよ」
「オーケー颯人」
「早いね!? 奏太から聞いてたけどノリが良いな、オイ」
以前までなら「あー、うん」くらいで適当に済ませたが、庵も成長しているのだ。
明澄と関わるようになって、いつまでも無愛想で一匹狼のような過ごし方は改めないければと改善に励んでいた。
良いリアクションをする颯人の傍ら、成長した我が子でも見るような表情で奏太がうんうんと頷き、「颯人、奏太、庵の破壊トリオで仲良くやろう」と呟いていたがそれはまだ遠慮させてもらおう。
三日ぶりの登校にして、庵は新たに友人が出来た。
「明澄、お昼ご飯にしようか」
その声掛け一つで教室はまたざわめく。
何度目の視線の集中だったか数え切れない。
これまでの休み時間全部、明澄はクラスの内外問わずの来訪に追われていてロクに話せていなかった。
聖女様の交際について昼休みも様子を見に来る生徒はきっといるだろうと、庵は号令のすぐあと手を打ったのだ。
「えーと、どこか行きますか? 食堂とか中庭とか」
何をしても視線を貰うので、苦笑い気味に明澄は辺りを気にしながら提案を出す。
「どこでも。どこ行っても一緒な気がするし」
「ですよね。胡桃さんもやってくるでしょうし、皆さんとここでお昼にしましょうか」
暫くは構内どこにいても視線を集めるので、場所を移動したとして、それが低減されるようには思えない。
それなら教室の方がまだマシだ。苦笑いする明澄は庵の後ろで様子を窺っている奏太と颯人にも目配せして、机の向きを変える。
それに庵たちが合わせるように各々が机を持ってきて、途中胡桃も加わり、本日の昼食は賑やかなメンツとなった。
「さて、本日の主役に一言ずついただこうかしら?」
全員揃ったところで、何故か胡桃がさも当たり前のように音頭をとった。
「朝からこんなのばっかりだな。普通の昼食にさせてくれ」
「ええっと、この度はお集まりいただきありがとうございます?」
「明澄も、乗らなくていいんだって。ほら、ご飯にしよう」
辟易とする庵とは対照的に明澄が丁寧なお辞儀を繰り出す。
茶番は嫌いではない、というか寧ろ好んで乗っかる明澄らしいが、もう散々交際の報告をさせられた身としては、さっさと食事にしたい。
ただ、明澄が楽しそうにしているからまぁいいかと早々に諦めて、保冷バッグから取り出した弁当の蓋を開けるあたり、慣れと甘さがあった。
「おー、庵のお弁当美味しそうだね」
「好きなもん詰めたからな」
「そうか一人暮らしだもんね。水瀬さんも一人暮らしだよね。というか、それもしかして二人ともお弁当同じ?」
庵の弁当の中身が露わになると、両脇の男子二人が反応する。
中身は、牛肉とニラの芽の甘辛炒めと卵焼き、レタスを下敷きにしてブロッコリーとトマト、プロセスチーズが詰められていた。
栄養バランスを重視した庵謹製のお弁当は、その色鮮やかさから目を引く。
それが五人のテーブルに二つも並ぶのだから、より一層だ。
「はい。今日からお弁当も一緒になったんです」
「へぇ、良いわね。やっぱ付き合ったら愛妻弁当だものね」
嬉々とした表情を携えて首肯した明澄に、揺れながら胡桃は何かを懐古するような口の開き方をして、にまりと庵を見る。
どうにも明澄のお手製だと思われているらしい。
彼女が余計なことを言ったせいで、小さなざわめきがUターンする。
聖女様との交際のみならず手作り弁当までと、羨む声が飛び――「初日から見せつけが半端ねえ」、「弁当、奪えないかなぁ」、「水瀬さんの手作りとか何億でも出す!」と、庵のお弁当には賞金がかかりそうな勢いだった。
「ああ、いえ。これは庵くんが作ってくださったんですよ。彼、私よりお料理が上手なので」
「水瀬さんは、もしかして胃袋つかまれちゃった系?」
「ええ、はい。もうがっつりです」
自分の前で握りこぶしを作る明澄はにっこりと笑う。
そうすると、また周囲からぼそりぼそりとため息混じりの会話が聞こえてくる。成績、顔、運動神経とかじゃなくて家庭力かー、とかだったり、そっちなら得意なのにみたいな内容のもの。
しかし、明澄の心を掴み取った核となるのは庵の優しさとか頼りになるところとかの人間力なので、的をはずれてしまっているのだが、知る由もないだろう。
「庵が料理出来るのはしってたけど、水瀬さんより上手なんだね」
「いやいや。得意分野が違うだけで、明澄のも美味いし寧ろ俺のほうが胃袋掴まれてる」
「ふふ。まぁ、掴みあってますよねぇ」
「明澄の好みに合わせてるからなぁ」
「私も結構、庵くんの味付けは勉強させて貰いましたよ?」
「俺、このグループ新参だけど、二人って籍入れてるのか?」
「うんうん。オレも常日頃からそう思ってるし合ってる」
「法律的に無理なだけで内縁よ。こんなの」
「おい、フェイクニュースやめろ」
ビシッと、叩くようなツッコミが如く庵は反発するが、逆に三人からじとーっとした表情を返される。
明澄も何か言ってやってくれとそちらを見たが、箸を持ったまま頬に手を当て、てれてれとしていたので戦力外。
あんまりそういう反応をされると、教室内の殺気が凄いので庵は、うっ……と文字通り肩身を狭くした。
「来年卒業する頃には式になるかな。準備しとこう」
「そうね。余興は任せなさい」
随分とめちゃくちゃ言ってくれる。
ただ、経済力やら体裁も問題なく、今後特に別れる予定も別れられる気すらしないくらい想いあっているし、庵もそのつもりはある。
けれども、なにも来年というのは早すぎるだろう。なんなら、卒業後すぐなのは性格的に奏太と胡桃のはずだ、と好き勝手いいながらお弁当を食べさせあっている二人を横目に庵は思う。
「いや、お前ら二人のほうが早いだろ」
「「ない!! 絶対にそっちのほう」」
これまで恥ずかしげもなく散々見せつけてきた奏太と胡桃たちだろうと、庵は呆れたように言い返すのだが、間髪入れずにハモった二人に否定される。
以前までならここで惚気られるのだが圧があって、庵は気圧されるようにしてちょっと仰け反る羽目になった。
お久しぶりです。投稿飽きまくってごめんなさい。
(ギリギリの投稿なので、またここになにやら付け足すと思います)
※あと、注意書き
新キャラの森崎くんは、怪しげな見た目をしていますが、こう見えて想い人一途な子ですのでご安心を。
ここから流石に恋のライバルキャラとか変なのはいません笑





