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書籍化記念SS『相性というものはありまして』

昨日(2024/05/17)、『死に戻り姫と最強王子は極甘ルートをご所望です~ハッピーエンド以外は認めません!』がNiμNOVELS様より発売しました!



「ねえ、納得できないんだけど、どういうこと?」


 不機嫌極まりない声がカーネリアンの口から漏れる。

 私とアレクサンダー王子はお互い顔を見合わせ、どう説明すればいいものかと途方に暮れた。


◇◇◇


 カーネリアンが魔体科に編入して二週間ほどが過ぎた。

 彼は思った以上のスピードでクラスに馴染み、その存在感を見せつけている。

 私もカーネリアンと一緒に学べるのは嬉しかったのだけれど、二人ひと組の実践授業で問題は起こった。


「は? どうしてフローライトが兄上とペアを組むの? フローライトは私の婚約者。私と組むのが正しいと思わない?」


 カーネリアンが兄であるアレクサンダー王子を睨み付ける。

 普段は兄大好きっ子のくせに、私が絡むと関係ないとばかりに喧嘩腰になるのが困ったところだ。


「いや、あの……相性というものがあってね」


 カーネリアンを宥める。

 彼の言いたいことも分かるが、こと戦闘において、私とアレクサンダー王子の相性はものすごく良いのだ。

 そしてざんねんながらカーネリアンとの相性は悪い。

 何故かと言うと、それはひとえに彼が強すぎるから。

 誰かがペアになると、彼の戦闘パフォーマンスは明らかに落ちる。強すぎるがゆえに、ひとりで戦った方が良いというタイプなのだ。


「私、カーネリアンの足手纏いにはなりたくないから」


 正直な気持ちを告げる。

 カーネリアンは「邪魔だなんて!」と反論してきたが、その声音はあまり強くない。

 否定はしたが、自覚はあるというところなのだろう。


「ごめんなさい、カーネリアン。私が弱いせいで」

「そういうことだ。俺たちではお前のパートナーは務まらない。分かったか」

「そう、そうなの」

「というわけで、フローライトは俺のものだ。残念だったな」

「アレクサンダー王子!」


 言い方! と思ったが、アレクサンダー王子は「別に嘘ではないからな」とどこ吹く風だ。


「実際、俺だろうがフローライトだろうが、お前の助けにはならないだろう。カーネリアン、お前が腐る気持ちは分からなくもないが、諦めろ。それともお前は、フローライトに情けない想いをさせたいのか。お前の足手纏いになって、何もできずにただ、戦いを眺めるというのは存外虚しいものだぞ。俺なら絶対にお断りだ」

「ごめんなさい、カーネリアン。でも、こればかりはアレクサンダー王子が正しいわ」

「そんな……」


 ショックを受けた顔でカーネリアンが私を見つめてくる。その視線を受け止めた。


「いつか私が、あなたの力になれるくらいに強くなれたら……その時はパートナーにして?」

「私は今だって君に隣にいてほしいんだけど」

「それは難しいわ」

「……そう、だね。私の我が儘だ。君の言っていることが正しいのは分かってる」


 カーネリアンが項垂れる。一部始終を見ていた使い魔のブラッドがざまあみろとばかりに言った。


「ペアを組む相手すらいないとはな。つがいにまで振られて情けない。わはは、いい気味だ」

「ブラッド」

「こうなっては最強王子も形無しだな。いやあ、ゆかい、ゆかい……ぐあああああああ! 何をする! しまってる!! しまってるぞ!!」


 ケラケラと笑っていたブラッドだが、突然首を押さえ、苦しみだした。どうやら首輪を締められているらしい。余計なことを言えばカーネリアンに仕置きをされるのは分かっているくせに、どうしても言わずにはいられなかったようだ。


「お前が余計なことを言うからだよ。自業自得だ。……分かった。こうなったら一刻も早く君に隣に立って貰えるように、全力で指導することにするよ」

「え……?」

「在学中、ずっと兄上とペアなんて許せるはずもないからね。……さ、兄上にフローライト、どこからでもかかっておいで。手加減はしないから」


 カーネリアンがおいでおいでと手招きをしてくる。

 二対一のはずなのに、どうしてだろう。全く勝てる気がしなかった。

 見れば、アレクサンダー王子も顔を引き攣らせている。

 彼がぼそりと呟いた。


「……この顔をしたカーネリアンは、本当に一切手加減をしないぞ。フローライト、死にたくなければ全力で向かえ」

「えっ、あの……」

「……五体満足で帰れることを祈っておいた方がいいぞ」

「嘘でしょ」


 そんなに? とアレクサンダー王子を見る。彼は冷や汗を流しており、とてもではないが冗談を言っているようには見えなかった。

 ブラッドへのお仕置きを終えたカーネリアンがにっこりと笑う。

 ブラッドは……地面に突っ伏し、ひくひくと四肢を痙攣させていた。

 その姿のどこにも魔王だった頃の威厳はない。


「さ、始めようか」

「……お手柔らかに」


 強大な敵が立ちはだかる。

 これは逃げられない。

 魔王ヘリオトロープと戦った時だって、ここまで絶望的な力の差を感じなかったのに。

 絶望という言葉がぴったりと嵌まると思いつつも、勝てる気がしない戦いに身を投じる。

 その結果、私は体力の限界で降参。

 そしてアレクサンダー王子は全身打ち身という惨憺たるものだった。

 大負けである。

 一撃入れることすらできなかった。

 私よりアレクサンダー王子に対してカーネリアンの当たりが強かったのは、間違いなく私のパートナーになったことへ嫉妬が入っていたからだろう。


「大人げないぞ」とアレクサンダー王子も呻いていたが、私も苦笑してしまった。

 意外と子供っぽい私の婚約者は兄の言葉に「最初に喧嘩を売ってきたのは兄上でしょう?」ととても良い笑顔で答えていたが、やはり『フローライトは俺のもの』発言にキレていたのだと思われる。

 カーネリアンは私のことに関しては、とても心が狭いから。

 その後、ひと月ほど、アレクサンダー王子はカーネリアンの集中砲火を受けたが、その甲斐あって実力は飛躍的に向上した。


 そして驚くことに私よりもアレクサンダー王子の方がカーネリアンとの相性がいいと担任に言われ、なんと私ではなく彼らがパートナーを組むことに決まった。


 本当にどうしてこうなった。


 カーネリアンも「話が違う!」と叫んでいたが、たぶん、誰よりもそれを言いたかったのは間違いなくアレクサンダー王子だろう。

 弟に振り回され、なかなか気の毒だと思いつつ、カーネリアンが文句を言いながらもなんだか少し嬉しそうなことに気づいた私は、ちょっと残念だけど「頑張れ」とエールを送ることを決めたのだった。

















ありがとうございました。

紙書籍、電子書籍共に発売中です。

よろしくお願いいたします。

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笠倉出版社さまNiμNOVELSより、2024/05/17発売しました。加筆修正、書き下ろしたっぷりでお届けしてます。(主な書き下ろしはヒーロー視点の追加) i842511
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