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念じてみる

 天使の訪れから、一夜が明けました。


 朝の城の様子は…といいますと、剣士シーレンにききましたところ、それほどの混乱はなかったとの事でございました。が、やはり少々ざわついていたようでございます。


 後から聞いた話によりますと、城にも天使が現れたとのことで、天使はこう告げたそうでございます。


「彼は、キーンから既にカインと名前を変えた。彼について、何も咎めてはならない。彼に自由に行動させない。彼を非難してはならない。彼はこれから更に成し遂げなければならないことがある。あなた方はこれからその一端を見ることになる。彼が神の命じることを言う時は、その言葉は神が言うのと同じである。そのことを覚えておきなさい」


 そのようなことを王の玉座の前に現れて、列席の家来たちの前で告げた、とのことでございました。


 そんなところにシーレンが急ぎ報告にやってきたものですから、なるほどと、その場に居合わせた者たちはみな驚きはしたものの、合点はいったというところだったのだそうです。

 

 そして…朝も少しばかり過ぎたところ、私は家の椅子に座り、シーレンも向かい合ってテーブルは挟まず、椅子に座っておりました。


 そしてまた、テーブル近くの椅子に座っているのは、王宮から派遣されてきた役人の男二人。


 ひそひそと何やら話をしながら、彼ら、二人の若い役人は私達二人を見ていました。今から起こるであろうことを報告するため、二人はここにいるのです。


 火事にあってから新しく与えられた小屋には、小さいながら、テーブルと背もたれのない椅子が4脚ございましたのですが、このテーブルの椅子が埋まってしまいましたのは、初めての事でございました。


 そんな中、私とシーレンの二人は、昨日あった出来事を思い返しておりました。


「念じれば…行けるのだったな」


 剣士シーレンがそう言いますので、私は「…はい。たしかにそう聞きました。シーレン様も聞きました…よね」と、お答えしました。


 その言葉に、静かに頷くシーレン。


「まあ、話はもう分かったから、とにかくやってみてくれないか?罪の宣告とやらに行くのだろう?見届けたら我々はさっさと帰るから」


 テーブルのところからは、見届けに来ている役人のそんな声が聞こえてきます。


 彼らは来たくて来ているわけではないのでしょう。面倒事を早く済ませて帰りたい、そんな気持ちが顔に出ていました。


「…そうですね」


 私はそう答えました。


 不逆さからわずの呪いは、確かに解けていました。彼らのその言葉を聞いても、私は従わずに済むようになっておりました。


 以前であったなら、「…はい」とだけ答え、何であろうが実行しなければならない体であった私でございましたが、今や体は特に何も反応しないのでございます。


 とはいえ、私も特に彼らに逆らうつもりもありませんでした。


「やってみたいと思います。シーレン様、用意は良いですか」


 私がそう尋ねますと、シーレンは少しばかり顔を緊張させて答えました。


「う…うむ…。確か、飛んでいくかどうか分からんが、目的の人物のところに現れる…ということになるんだったよな」


 どうやって、誰のところに行くのか?その点については天使は特に細かい説明をしませんでした。


 ただ、私の頭の中に、「…念じれば、行ける」と、何となく浮かんでいるのでございますものですから、おそらく念じれば何か起こるのであろうと言うことは何となく分かっておりました。


「はい。ではとにかくやってみます。」


 そう言うと、私はシーレンの腕を取りました。


 シーレンの腕は少しばかり緊張しているのか、力が入っているのが分かりました。


「…念じれば、行ける。行ったあとに何をすれば良いか、何を言えばよいか…それは、その時授けられる」


 頭の中に、ふとそんな言葉が浮かんできました。


 私は、念じてみました。


「…女神様のお遣わしになりたい人のところへ…」


 そう、心の中で言い終わるか終わらないか…


 急に目の前がふっと何もなくなったかと思うと…


 驚いたことに、私とシーレンは別の場所に居たのでございます。

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