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彼の受けたもの

 難なく魔王を倒して王都に戻った私を、王も民も喜んで迎えました。私は、貴族の位を得て、何人かいる王の娘のうちの誰か一人を、妻に迎える事になったのでございます。


 王女たちの数名が、つまらない府抜けた貴族の男よりも、魔王を倒すほどの強さを持ち、しかも若い私の方が良いと、婚姻を望みました。私は、その中の一人を気に入り、彼女と婚姻を結びました。


 私の選んだその王女は、名をセレスティアと言い、ちょうどその時彼女は、16歳でございました。


 なぜ私がセレスティアを選んだのかと聞かれても、私はただ、彼女の美しさを気に入っただけでございましたので、理由は他にはございませんでした。当時の私にとって、王族になることが出来れば、妻にするのは誰でも良かったのでございます。


 魔王を打ち倒す程に強い私に対し、多くの貴族が味方にしたいと思ったのでございましょう。私のもとには、多くの貴族からの茶会や舞踏会の誘いが来るようになりました。


 私は、社交界での交流を存分に楽しみました。ろくにマナーも知らぬこの私に対し、貴族達は愛想笑いをし、おべっかを使いました。私の武勇を褒め称え、私に取り入ろうとする者達で、私の周りは満たされました。


 私は、日に日に増長しておりました。


 これは決して大げさな表現ではなく、私よりも強い者は、この世には居りませんでした。


 ひとたび戦争に出れば、私は神剣アタナスフィアを振るい、敵国に大打撃を与えました。


 そのうち、私の居る王国に対し、敵対する国は無くなりました。ある国は征服され、ある国は臣従したのでございます。それは、確かにこの私の力によるところが大きゅうございました。


 数年のうちに、私の属する王国は、大陸の統一を果たしたのでございます。


 今や義理の父となった国王は、私の事を大層重用なさいました。私は、国政にも大いに関わるようになり、意見を求められる事も多くなって参りました。


 ある時、私はある貴族と意見が対立致しました。どのようなことで対立したのかと言えば、今思えば全く差些細な事でございましたが、当時の私は、相手の貴族を怒ったのでございます。


 私は、怒りに我を任せ、その貴族を私の武力で滅ぼしました。


 その時くらいから、王も含め、私の周りにいる者たちは、私の事を恐れ始めるようになりました。


 それに気を良くした私は、気に入らない者は誰であろうとも、殺し始めたのでございます。


 私は、傍若無人な振る舞いを始めました。


 妻のセレスティアには子が生まれませんでしたので、私は別の王女も妻にする事を王に求めました。王はそれを断り切れず、私は別の王女を妻に娶りました。


 すると、セレスティアと仲良くしていた私の両親が、私の不義を責める言葉を書いた手紙を、王宮で暮らしている私に送ってきたのでございます。


 今や王族であるこの私に対し、例え親であろうと不敬であると私は怒り、事もあろうに、私は自らの両親の村に出向き、そして、おお、何ということでしょう、私は、親である二人に向け、神剣アタナスフィアを振り上げたのでございます。


 私は、両親をその手にかけて殺しました。


 その時に反抗した村人達もその手にかけて殺した私は、泣き叫ぶ妹と弟をその場に捨て置き、村を焼き払ったのでございます。


 その時、妹は16、弟は14になる歳でございました。二人の兄弟は、着の身着のままで両親を兄である私に殺され、家を焼かれてしまったのでございます。


 なぜ、私はあの時、両親に対してあれ程までに怒りを覚えたのでしょうか……それは私にも未だに分かりません。


 もしかすると、私は、一介の農民であった過去の自分を、捨ててしまいたかったのかも知れません。


 とにかく、私はしてはならない事をしてしまいました。


 そして王宮に戻った私は、泣いて縋り付くセレスティアを振り払い、王位を王から奪うため、神剣アタナスフィアを片手に王の玉座へと向かったのでございます。


 あの女神が再び私の前に現れたのは、丁度その時でございました。


 玉座へと向かう私の前に現れた彼女は、私に向かって宣言したのでございます。


 お前は勇者としての相応しさを失い、呪いを受ける……と。


 その瞬間から、私は、神剣アタナスフィアを持つ事が出来なくなりました。私が剣に触れると、剣は燃え上がり、私を拒むようになったのです。


 そして、私に与えられていた強大な力は失われ、その代わりに、私には女神の呪いが降りかかりました。


 その呪いとは、


不死しなずの呪い、

不老おいずの呪い、

不逆さからわずの呪い、

そして、不忘わすれずの呪いであったのでございます。

 今後は、2日に一回くらいで更新予定。

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