1話 「最後の番人」
魔界の下層、中層でも感じてはいたがどうやら下に行くにつれて日の光は弱くなっていくようだ。
とはいえ、光自体はあるのだから下というのも地下ではなく概念的なものだということなのだろう。
ここを抜ければ、いよいよ魔王たちの待ち構える深層。ここでもかなりの激戦を予想していた・・・のだが、下層にたどり着いて3日、一度も魔族に襲われたことはない。一体どうしてなんだろうな?
結局、一度も戦闘をすることもなく(戦いたいわけではないが少々拍子抜けだな。敵の実力のほどがわからないのも不安ではあるし・・・)たどり着いた町。そう、魔界に来てから初めて見た町だ。
ここまで見てきた感想としては魔界には秩序はない。いや、強きものが支配する。集団ではなく個が重視される秩序というべきなのかもしれない。それだけにこの町は異様だ。・・・つまるところ、この町を治めているもの、おそらくは深層への番人の力が突出していると言うことに他ならない。そう、この強者たちが蠢く下層魔界でだ。
街中をしばらく歩くと、目の前に一際大きな建物が見えた。おそらくここが深層への入り口がある場所。つまり、ここの番人の住処ということなのだろう。
かって知ったる家のようにアシュラは次々に部屋を抜けていく。そして・・・目の前にある空間のゆがみ。深層への入り口だ。だが
「アシュラ、ここには番人はいないのか?」
そう、たしかに空間のゆがみはある。だが、そこを守っているはずの番人は見当たらない。アシュラの話では挑戦者が現れたなら番人にその情報が伝わるようになっているらしいのだが? これでは誰でも深層にいけるのではないだろうか?
「いや、番人はいる。・・・お前たちのすぐ近くにな。」
・・・そういうことか。どうりで道中で俺たちが襲われない筈だ。
「そうか、ここの番人はアシュラ・・・お前だな。」
にやりと口元だけ笑うことで肯定するアシュラ。・・・一応確かめておかねばな
「アシュラ、お前も俺たちの資格を試すのか?」
ほんの僅かに感じるアシュラなら黙って見逃してくれるのではという思い。だが、こいつがそんなやつでないこともよく知っているのだ。
「本来なら、いまさら魔王の決めた取り組みなどに従ってやる意味はない。・・・だが、ここでオレに敗れるようならば、魔王たちに挑むなど無謀を通り越して自殺行為だ。・・・リュウト! お前の力! 今一度オレに見せてみろ!!」
「えっ、えっ! えっ~~!! アーくんどういうこと??」
良くわかっていないらしいレミーはおいて置くとして、おそらくアシュラの言うとおりなどだろう。アシュラが本気で戦うかはわからない。だが、あいつに認められる力がなければこの先では通用しないのだ。
「戦うのは俺。・・・それでいいんだな。」
これも本来は無用の確認。アシュラが俺以外との戦いを望むとも思えない。特にレミーとは絶対に戦わないだろうな。
「無論だ。オレが望むは貴様との楽しき戦い。・・・こんな場所で実現するとは思っていなかったがな。」
再戦は百年も前からこいつと交わしていた約束のようなもの。そして、ここに至るまで番人と戦っていないのは俺だけだからな。
「わかった。・・・俺の全力、お前に見せてやる!」
これもまた宿命の戦いと呼べるのだろう。・・・百年の眠りの間に馴染んだ竜神の力。この力をフルに使ったらどうなるのかは俺にもわからない。だが、全力を見せずして勝てる相手ではけしてない。
「楽しそうだな、アシュラ!」
普段口元だけで笑うアシュラに珍しく、目までしっかり笑う楽しげな笑みが浮かぶ。
「そういう貴様こそな!」
そう、きっと俺も笑っているのだろう。なんだかんだいってこいつとの勝負を楽しみにしていたのは俺も同じなのだ。・・・殺すか殺されるかじゃない、純粋に力を競える相手。まして、俺を確実に上回る相手。・・・さぁ、宿命の戦いのゴングは今鳴ったぞ!
今回はちょっと短めですね。ただ、物語の都合上、一回ここで切らせてください。
アシュラ「まぁ、いいだろう。次回からは待ち望んだ心揺さぶる戦いだからな。」
まさに次の戦いは激戦になりますね。新生リュウトの全力。そしてアシュラもついに全力を見せるのか!?
アシュラ「ふん、それは奴次第だな。」




