5話 「変わりゆくもの」
中層魔界に入ってから早数日。アシュラの言うとおりここの魔族はそれなりには手ごわい。もっともプライドが高いらしく徒党を組んでいるものは少ないのでそう苦戦をするようなことはない。・・・十数匹ぐらいならまとめてかかってきても大丈夫だとは思うけどな。
「悪いが少々寄り道をするぞ。」
案内役をしていたアシュラがこんなことを言い出したのはそんなころだった。勿論、俺たちに異論があるわけはなくアシュラの案内の元に俺たちは小さな城へとやってきたのだった。
ふん、オレが進んでここにやってくる日が来るとは思ってもいなかったな。
「ここへはオレ一人で行く。貴様たちはここで待っていろ。・・・そう遅くはならんはずだ。」
そうだ、これはオレが片付けるべき問題だろう。忌々しいことこの上なく面白くもないが、奴との腐れ縁はそろそろ断ち切っておかねばならん。
「え~! アーくんが行くならわたしも・・・ううん、いってらっしゃい。」
空気を読めない一人がなにやら騒いだが、オレが一睨みしたら大人しく引いた。・・・多少は雰囲気を読むことも出来るらしいな。
オレは一人長い廊下を悠然と歩く。諦めているのか、それとも気づいてさえいないのか迎撃に来るものは誰一人していない。しかし、相変わらず悪趣味なつくりをしてる。
悪魔のオレから見てもおどろおどしい配色の壁を見つめながら玉座の間へとやってきた。・・・ここまで幻惑を仕掛けてきた様子もない。何か企んでいるのか? それとも本当に諦めたか?
「なっ!? 貴様は・・・アシュラ!」
オレの姿を見るなり玉座から転げ落ちんばかりに驚いたのは小さな羽根を持った道化師。・・・ナイトメアだ。どうやら気づいていなかったらしいな。
「どうしてここに!?」
「何、ここは下層魔界への入り口からそう離れてはいない。・・・また下らん計略を仕掛けられる前に潰しておこうと思ったまでだ。」
オレとこいつは今まで何度も戦ってきたことがある。もっとも、こいつがかってに挑んできただけでオレから戦ったことは一度たりともなく、こいつとの戦いが楽しかったこともありはしないが。
「ば、馬鹿な!? 貴様が自分よりも格下の相手をいかなる理由があろうとも自分から戦おうとするとは!?」
そうだな。たしかに今までのオレから見ればありえない行動だろう。・・・リュウトのように格下であろうとも楽しい戦いが出来る奴がいることはわかった。だが、少なくてもこいつはそんな期待が持てる奴ではない。くっ、何故だ? 一瞬脳裏に映ったのは我がライバルとお気楽な天使の笑顔?
「ふん、それだけ貴様との戦いに飽き飽きしていたということだ。」
嘘ではない。だが、何かがそれだけではないだろうと語りかける。・・・そうだな、そろそろ認めるべきかも知れん。オレは悪魔だ。自身の欲望に、心に忠実であれ。それがいかなるものでもごまかすのは性に合わん。
「そ、それにだ! 貴様とて魔王様たちには太刀打ちできんはず! それゆえに強者との戦いを求める貴様も戦いを挑まなかったのだろう?」
たしかににそのとおりだ。生きるか死ぬか、そのギリギリの戦いは面白い。相手が自分より少々強いなんていうのは最高だ。・・・だが、100%の負けが確定している相手と戦うほどオレは酔狂じゃない。
「一人なら今でも勝てんだろうな。だが、あいつらと共になら楽しい戦いが出来そうだ。・・・それに、オレはやつらを死なせたくなくてな。」
言葉はともかくにやりと笑った笑みは悪魔らしい顔だったろう。・・・そしてあくまでも死なせたくないだ。守りたいなんていう光の奴らの代名詞のような言葉は使わん。それがいつの間にか傍にいるとこが当たり前になってしまったものに対する言葉であったとしても・・・
「し、死なせたくない!? それが悪魔の・・・ぐぴゃ!」
自身の延命だけを考え、べらべらと御託を並べ立てるナイトメアの言葉をこれ以上聞いているつもりはない。こいつの存在はオレたちに害をなすことはあっても益になることはない。・・・オレはあの甘い奴らのように無駄な殺生はなどというつもりもない。
「ま、待ってくれ! 頼む! い、命だけは・・・ぐわぁぁああああ!」
命乞いになど耳を貸さず、その体を打ち貫いたオレはまさに悪魔らしいと呼べる顔をしていただろう。・・・闇の底より闇を狙う牙というのも面白いかも知れんな。
「あ! アーくん、おっそいよ~!」
戻るなり少々不機嫌そうに、だがすぐにいつもの笑みを見せるお気楽天使。・・・悪魔のオレに屈託のない笑みを見せる変わり者だ。
「ふん、貴様の感覚など知ったことか。」
「ム~、アーくん、ひっどいよ~!」
いつもと変らぬくだらん会話。同じような会話を何度繰り返しただろう。・・・だが、下らんと思う反面飽きることもない。それが嫌だと思うことももうない。
「ん~? アーくん、なんか良いことあった?」
「さぁな。」
こいつらがオレの中にどれだけ入り込んでくるのか。けして変らぬと思っていたオレの未来をどれだけ蝕むのか・・・楽しみにしているオレも確かに存在している。
悪魔らしい冷徹さと悪魔らしからぬ優しさを同居させているアシュラです。
アシュラ「ふん、オレのどこに優しさがあると?」
まぁ、作風的に本当に悪魔らしい猟奇的な描写はできないけど、君が優しくなかったら他の悪魔たちはどうなんだって事になるからな。
アシュラ「それこそ、オレが知ったことか。」
などと言いながらも僕に手を出そうとしないところなんかは良識的なアシュラなのでした♪(いや、あとがきで作者を攻撃する連中がおかしいだけだろう。)




