2話 「役割」
「ルンルンルンル~♪」
機嫌良く歌なんて歌っているのは私ことママナ。だって、私がみんなの役立てるんだもん! 船に乗っているとき以外はずっと私が担当してたんだよ。えっ? 何をやっているのかって? 勿論・・・料理だよ。
だって、私以外に出来るのってリュウトだけだよ? まぁ、アシュラはひょっとしたら出来るのかもしれないけど進んでやるタイプじゃないしね。戦えない私がこういうことは進んでやらないと・・・それにね、嬉しいんだ。私でも出来ることがある。役に立てることがあるっていうのが。
まずはお鍋に適度な大きさに切った野菜とお肉を入れて~、水を汲んで~(ないときはレミーに頼るけど今回は川が近くにあるから大丈夫!)枯れ木と火炎石(簡易的な火の魔法を使える)で火を起こして~、お鍋を火にかけて(枯れ木がないときはアキに頼るんだけど、アキは火加減ってものを知らないから・・・っていうか魔法の出力調整が下手だからできれば頼りたくない。強く撃つ分にはあんなに上手いのに・・・。)スパイスを入れる。たったこれだけである程度の味にはなるんだけどね、なんであの二人は出来ないのだろう? 勿論私はここからもう一味加えるけどね。
「みんな~! ご飯出来たよ~! ほら、早く起きる~!」
いつも俺たちよりも早く起きて(俺たちも日の出と共に起きているから遅くはないのだが・・・魔界にも一応日は昇るんだな。)食事の準備をしてくれているママナ。起きた時に食事が出来ている生活なんて何時以来だろう? さりげなくも幸せだと感じるこんな一時。
正直俺はママナが食事当番をやりたいと言い出したときに難色を示した。・・・どうしてもアキとレミーの悪夢が頭をよぎってな。レミーはアシュラが言うには相変わらず。アシュラも被害にあっているんだな。しかも定期的に・・・。アキは百年の間に進歩してるかも知れないが試す勇気は俺にはない。
まぁ、そんなわけで俺は自分で作るつもりでいたのだが、ママナの強い要望に負けてとりあえず一回作ってもらうことにした。で、その結果としてママナは今でもこうして食事当番をしている。つまり、彼女の料理は美味しいのだ。あのアシュラですら素直にそう称したほどに。
どうやら本日の料理はカレーらしい。朝からはどうなんだって気もしないわけではないが、見た目も普通というのは実はちょっとうれしいことだったりする。というのも、ママナは基本的に材料を現地調達するものだから魔界に入ってからは見た目は問題ありな(アシュラやレミーは気にしてなかったが奴らを基準にしてはいけない)食事が多かった。・・・まぁ、それでも味はいいのがせめてもの救いなんだけどな。よく考えれば、この肉も野菜もどんなものなのか不明なんだけど・・・いや、考えるな。精神衛生上よくない。見た目も味もいいで十分じゃないか、うん。
「ふむ、相変わらずの腕だな。しかし、私もここではひとりの仲間。その、たまには作らせてはもらえないだろうか。・・・作ってやりたい奴もいるし。」
アキ、ちらりちらりと俺の方を見て言ってくれるのは嬉しい。だが、頼む・・・俺のささやかな幸せの時を壊さないで欲しい。
「そうだよ~! わたしだってたまには作るよ~!」
レミー、頼むから何も考えずに食べていてくれ。この場にいる以上、死は覚悟の上かもしれない。だが、食中毒で全滅なんていうのは絶対に嫌なんだ。
「ぶ~! 駄目だよ~! これは私の担当なんだから! 皆はしっかり食べて英気を養ってくれていればいいの。・・・戦えない私にも仲間って言う実感をちょうだい。」
戦えなくてもいてくれるだけでいい。君がくれる雰囲気も俺たちの大切なパーツなんだと俺は思う。・・・だが、本人は納得しないんだろうな。
「さぁさぁ! まだまだいっぱい作ってあるからおかわりを・・・。」
ママナが大鍋の方を振り向きながら固まる。・・・まぁ、それはそうだろうな。見ず知らずの魔物たちが鍋をひっくり返して中身を貪っていれば。俺やアシュラも敵意のない行動や知らない奴の気配は感知しにくいから気づかなかったが・・・いや、アシュラあたりは気づいていて無視したのかもしれないが。
「ああああ、あんたたち~~~! それはリュウトたちの・・・リュウトのために作ったの~! 絶対許さないんだから!!」
ママナの怒声が響く。ビカビカと鳴り響く雷鳴・・・ってママナの属性は雷じゃなくて地だろう? なんで雷のエフェクトが見えるんだよ!?
羽をピンと伸ばして地面すれすれを超低空飛行しながら飛び掛るママナ。・・・ってママナじゃ勝てない! 助けに入らない・・・と?
「うぎゃぁぁあああ!!!」
「これに懲りたら私の作ったご飯に手を出さないでよね!!!!」
・・・やっぱりママナも一応悪魔なんだな。普段は性格ゆえに力を出し切れていないだけで本気になったらそれなりには強いらしい。・・・少なくてもここら辺に生息している低級魔族よりは。しかし、食事を駄目にされただけでそこまで怒るとは・・・。
「何? リュウト?」
「いや、なんでもない。」
うん、やっぱりママナも女の子。俺には理解できないようだ・・・。
教訓:シルフォード姉妹だけでなく女の子は怒らせてはいけない。
魔界だろうが天界だろうがきっと彼らは変らない。っていうのを地で行く話しですね。
ママナ「えへへ、これで私は何の為にいるんだよ! なんて突っ込みはきっと来ないよね。」
まぁ、別にそんな突込みが来た事実も今のところないのですが、そう思っている人は結構いたのではと思いますし^^
ママナ「それというのもあなたがしっかりと書かないからだけどね。他にも結構私は身の回りの世話をやってたりするのよ。・・・主にレミーの。」
きっとそれがリュウトにとっては一番ありがたいんじゃないかな? 以前はレミー被害が一番多いのがリュウトだったから。
ママナ「まったく、あれで天使だっていうんだから世も末って言うか。納得がいかないって言うか。」
あはは、世間からは崇められる天使と世間からは嫌われる悪魔だもんな。気持ちはわか・・・。
ママナ「だったら少しは改善してよ~!」




