1話 「魔界の森」
闇に一歩踏み出し、まるで空を落ちるような感覚の後、気づいた時には俺は夜の森の中にいた。ここは一体? おっと、それよりも
「皆大丈夫か!?」
そうまずは安否確認だ。こんな場所ではぐれでもしたら一大事だ。
「私は、い、一応大丈夫だ。少々気分が悪いが・・・。」
「うう~、また落とされたのかと思っちゃったよ~!」
「ふん、誰にものを聞いている。」
「あはは、なんだかさっきの面白いね~!」
それぞれに様々な感想を持ったようだが、とりあえずは無事なようだ。ほっと一息つくと同時に確かめるなければならないことがある。
「なぁアシュラ、ここがどこだかわかるか?」
この中で魔界の地理を知っているのはアシュラだけだ。そのアシュラに迷われると前途は多難ということになる。
「ああ、ここは上層魔界の森。通称『試しの森』と呼ばれている。今回はオレも付き合ったが通常始めて魔界に来るものはここへと運ばれる。・・・魔界は力なきものが生きることを許さない。ここで生き残れないものは魔界を訪れる資格がないということだ。」
なるほどな。ならば、ここは安全と見ていいだろう。なにせ、魔界でそれなりの知名度があるらしいアシュラもいるのだから。しかし、上層か・・・
「上層ってことは他の層もあるっていうことか?」
「・・・魔界は上層・中層・下層・深層の四つに別れる。それぞれの層の出入り口には番人がおり力なきものがより下層に行くことを許さない。・・・なかには力ありながらより下層を目指さぬ変わり者もいるゆえ絶対ではないが、基本的には下層にいるものほど強いということになる。無論、魔王たちがいるのは深層だ。」
ってことは俺たちの当面の目的は深層にたどり着くこと。差し当たっては中層を目指すことになるわけか。
「じゃあ、すまないが案内を頼めるか? 中層への入り口は知っているんだろ?」
正直アシュラがどのランクに属しているのか知るのは怖い。だが、いくらなんでも上層から出れないということはないはずだと思う。
「ふん、当然だ。オレを誰だと思っている?・・・だが、その前に」
「ああ、どうやら招かざるお客さんも集まってしまったようだな。」
アシュラほど敏感ではないとはいえ、この程度の気配を読み損なうことはない。ざっと百・・・いや二百といったところか。ちらっと他のメンバーをみると彼女らも気づいているようで戦闘準備を終えている(ママナは結界内に逃げ込んでいる)。
無駄な殺生はしたくはないが、この場では戦わざるを得ない。実力を見せ付ければ逃げ帰る奴らも多いだろうしな。僅かながらにも竜神剣が協力してくれているのかいつもよりも体が軽く感じる。剣がより早く走っていく・・・。そして、強くなったのは俺ばかりではない。アキが無言のまま、無数の炎を操り、レミーが一見乱打しているように見える矢は的確に敵の急所を射抜いていく。アシュラに至っては近づいてくるものたちを面倒そうにあしらっているだけでどんどん敵の数を減らしていく。二百の敵は僅か3分後には(逃げたのもあわせて)全滅していた。
おまけ
「ねぇねぇ、そういえばリュウト? ナイトメアとの戦いのときに初めは幻を切れなかったのは何で?」
ママナが無邪気に聞いてくるが・・・そういえばなんでなんだろう??
「・・・仕方がない。情けない主に代わって我が教えてやろう。」
お! 助かる。何だかんだいって竜神剣は俺たちをサポートする気はあるみたいだ。
「我の能力の1つは確かに『斬る対象を選ぶ』能力だ。だが、通常はその能力は発揮しておらん。つまり、斬れる物は普通に斬れ、斬れん物は斬れん。能力の発動条件は我と使い手の両方の意思が一致した時だからな。先のようにリュウトが幻と認識できていなければ斬ることは出来ん。そなたの時のようにリュウトの助けたいという気持ちを流用して我がかってに能力を発動させるのは例外中の例外だということだ。・・・使用者の負担も大きくなる。」
なるほどな・・・つまり結局は俺が斬る対象が何であるか見抜けなければいけないってことか。逆を言えば、それができればたいていのものは切れるってことでもある。きっと、精神や魔法・・・能力そのものを斬ることも出来るのだろうな。改めて恐ろしく、そして頼もしい剣だと俺は思った。
一行の旅はいよいよ魔界まで広がりました!
アシュラ「とは言っても、ここはまだまだ魔界の入り口。楽しい戦いはもうしばらくお預けになりそうだな。」
まぁ、アシュラにとってはそうだろうな~。でも、お楽しみもあるだろ? 例のあの場所で・・・
アシュラ「そうだな。奴らの驚く顔が目に浮かぶ。そのときはオレも思いっきり楽しめるだろう。」
その後も激戦続き・・・でもそこまではぬるい展開が続きそうですねぇ~。




