5話 「目覚めろ!」
暗い闇の道を行く。いや、視覚的にはライトの魔法で明るくはなっているのだが、それでもなお暗いと感じるのはこの場の雰囲気によるものだろうか?
先に見えるのは一本の灯篭。これが件の灯篭か? まさか、本当に灯篭があるとは思わなかったが。
「良くぞ来た。愚かな竜神たちよ。」
響き渡る声。発信元はあらゆる光を拒むかのように凝縮された闇の中よりからだ。
「余は無より生まれしもの。不死身の魔王なり。」
闇の中を凝視する。段々と慣れてきた目がその姿を浮き彫りにさせていく。
「ひっ!」
アキの短い悲鳴が漏れる。それもそうだろう、魔王を名乗った者のその姿・・・それは空中に浮かぶ無数の巨大な目だった。
「余の寛大な心も知らず、余に歯向かう愚か者どもよ・・・冥府の底で悔やむがいい!」
ちっ! 問答無用って奴か!? まぁいい、どの道俺もここまで来て話し合いですむとは思っていない。
先制攻撃は無数の目玉からほとばしるレーザー? 幸い俺たちにあたったものはなく、アシュラが即座に反撃する・・・? アシュラの攻撃がすりぬける? 続けて攻撃したアキの火球も、レミーの矢も同様だ。こいつも邪竜神と同じタイプなのか? ならば!
「竜神剣なら! あれ?」
これなら効くだろうと思ってうった一撃はむなしく空を斬っただけ。・・・竜神剣さえも通用しない!?
「言っただろう? 余は不死。いかなる攻撃も余には届かん。」
不死・・・果たしてそんなものが本当にあるのだろうか? そして、再び撃たれたレーザーが俺たちを貫く・・・? おかしい。見た目ほどの威力がない?
「・・・なるほど。そういうことか。」
詰まらなさそうにアシュラがいう。どうやら、アシュラにはからくりがわかったらしいな。
「リュウト、こいつは貴様が適任だ。・・・オレがやってもいいのだが、こんな奴の相手は面白くない。」
面白くない? 強敵との戦いを好むこいつが? つまり、弱いってことか?
よく考えろ。『闇を照らす灯篭は一つ。しかし、その灯篭は真実を映すこと叶わず』
灯篭つまり光では真実を照らせない。俺が見ているものは真実ではない?
『汝のもっとも近くにいるものこそが事態を打開するものなり』
俺のもっとも近くにいるもの・・・アキ? いや、違う。・・・そうか! そういうことか! 確かにこいつの相手は俺が適任。そして、アシュラには詰まらん相手だろうな。
「なるほど、わかったよ。・・・さぁ、何時まで寝てるんだ! 目覚めの時だぞ・・・竜神剣!」
一瞬の閃光。そして・・・
「何が目覚めろだ。・・・ようやく我の存在に気づいたような奴が。」
竜神剣より響いた声。それはあの神殿で聞いた声だった。やはり、ゴーレムたちを操っていたのも、気絶した俺の意識に話しかけてきたのも竜神剣・・・お前だったのか。
「えっ? えっ~! りゅ、リューくん、竜神剣って話すの?」
周り(アシュラを除き)がポカ~ンと間の抜けた顔をする中、いち早く正気を取り戻したレミーがそう聞く。
「当然だろう。命ある究極の魔剣たる我が話すこと程度できぬと思うてか?」
いや、普通は剣が生きているとも、意識があるとも、話すとも思わないだろうからな。そういう意味ではレミーもそれなりには常識というものがあったと見える。・・・立ち直りが周りよりは早かったのはあくまでそれなりにだったからかも知れないが。
「・・・それが一体どうしたというのだ! まさか、剣が話した程度で余を倒せるとでも?」
そうだな、それで倒せんさ。だが、竜神剣の力を借りられれば貴様など敵ではない!
「竜神剣・・・わかっているな。」
「そういう汝こそわかっておるな? 一体何を斬ればよいのか。」
交し合う言葉。そう、斬るものなど最初から一つだけだった。竜神剣は斬る対象を選ぶ剣。本来斬れるものを刃を通しながら斬らないことを選べる剣。・・・ならば、本来斬れないものを斬ることも出来るはず!
「斬り裂く物は一つ! 竜神剣! 奴の幻を斬り裂け!」
「いかなる幻影も我が前には無力だ。・・・散れ!」
そう、俺たちが相手にしていたものは幻。初めから存在していなかったのだ。攻撃が通用するはずもない。・・・こいつの正体は幻を操り陰から攻撃を仕掛けていただけの臆病者だ!
幻の目玉を斬るように走った剣撃・・・それは背後に潜むものが作りだした幻という『現象そのもの』を切り裂き、あとに残っていたのは小さな羽の生えた道化師のような悪魔だけだった。
章タイトルのように全ては偽り。全ては幻。正体がわかってしまえばなんてことのない敵でした。
アシュラ「ふん、面白くない。・・・ここまではな。」
たしかに強敵との戦いを望むアシュラにとっては面白くないでしょう。ですが、白虎が言ったようにこいつは傀儡。影にいるのは本当の実力者たちです。
アシュラ「真の戦い、真の敵。今はこれより始まる楽しい宴の予兆を楽しむとしよう・・・。」




