3話 「四聖獣」
「港に着くぞ~!!」
船室にいてもはっきりと聞こえる船員の声。船旅を始めて早一週間、俺たちは目的地であるジャムニー列島についた。南北に大きく広がる列島はその独特の形から竜の国とも言われる場所。竜神の名を継いだ俺がこの地を訪れるのは何の因果なんだろうな。
「ん~、やっぱり海もいいけど陸の上が一番落ち着くね~!」
地面に降りるなりそんなことを言うママナ。キミは海の上でも陸の上でも半分ぐらいは本人曰く自慢の羽で空を飛んでいたと思うんだけどな? それでもやっぱり違うんだろうか。
「そうだな。やはり私も陸の方が性に会う。」
「わたしもそう思うな~。」
アキとレミーもママナに続いてそう言い出す。・・・まぁ、正直俺もそう思ってはいるけどな。
「がっはっは! はっきり言うねぇ、姉ちゃんたち!」
豪快に笑いながら出てきたのはこの船の船長だ。
「やっぱり、人は陸の上にいるものってことかい?」
海の男のイメージからはちょっと離れた副船長が優しげに問う。勝手なことを言っていた三人はちょっと戸惑っているみたいだ。
「俺もそうだが、単純に慣れているのが陸ってだけだろう。船長たちのような海の男のおかげでこうやって船旅が出来る。感謝してるよ。」
この一週間で二人と仲良くなった俺が代表して言う。
「がっはっは! 言ってくれるじゃねぇか兄ちゃん。世辞だとしても嬉しいぜ! おっと、そうだ。こいつ俺が小耳に挟んだ程度の話なんだが、最近この列島の中央部にある神殿に魔族・・・おっと、姉ちゃんみたいにいい魔族じゃなくてな、人に害をなす魔族が集まっていると聞く。なんだかよくわからねぇが気をつけろよ。」
魔族のママナに気を使いながらも俺たちに注意を促してくれる船長。そして、それは俺たちにとって目的地を示す重要な情報でもある。
「ありがとう、船長。助かるよ。」
俺たちがその情報により神殿を目指すことなど微塵も表情にも出さず、俺は船長に礼を言う。
「いいってことよ! 俺としてもここまで運んできた兄ちゃんたちの身になんかあっちゃ気分が悪いってもんよ!」
船長は俺の言葉に照れたのか視線をはずし、鼻の下をこすりながらそういい捨てた。
船長たちと別れて数日、俺たちは神殿を目指して進んでいた。話に聞いていたとおり、この地方の魔族は独特の進化をしているようで見たこともないような魔族(現地では妖怪と呼ばれているらしい)と何度か交戦した。そして・・・
「ん? なんだ?? 足が前に進まないな?」
神殿まであと少しというところで出会ったこの怪現象? に俺が戸惑っていると
「アレレ~? ホントだ! あーちゃん! まーちゃん! 全然前に進めないよ!」
レミーが何が面白いのかしきりに騒ぐ。こういったときに頼りになるのはアキだ。あらかじめこの地方の魔族の勉強をしてきたようで、これまでもアキの指示のおかげで大分助かった経緯がある。
「ふむ、これは塗り壁とか言う奴か? 旅人を危険から遠ざけようとする妖怪と聞くが、対処法は・・・へっ!?」
最後の妙な声は何なのかというと・・・まぁ、あんな声が出るのも無理はない。いきなり飛び込んできた白い影が何もない空間に足払いを仕掛けたと思いきや、ズシーンという重い音が響いたのだから。
「あ~! アーくん!!」
そう、こんなことをやらかす奴なんてこいつぐらいしかいない。
「ふん、道を阻むものは打ち倒す。・・・それ以外に何がある?」
どうどうとしたその姿はまさに貫禄たっぷりなのだが・・・。
「アシュラ・・・そのようなことをしなくてもそやつは木の枝で足元を払えばよかったのだが・・・」
アキの話を聞く限り悪い奴ではないようだからな・・・無駄に傷つける必要はなかったな。
「ふん、オレの邪魔をしてこの程度で済んだだけマシと思え。・・・そしてリュウトよ、ここまで来るのに随分時間がかかったな。」
「そう言うなよ。俺たちはお前と違って飛べないんだ(まぁ、飛べる奴も2人、つまり半分は飛べるんだが)。で、お前もこの先の神殿に用があるのか?」
アシュラが認めるとも思えないが、この先にあるだろう戦いのために俺たちを待っていたのだろう。・・・本当だったら一人で戦いたかったのかもしれないがな。
「そういう貴様たちも目指すところは同じようだな。オレは楽しき戦いを求め、貴様たちは平和を求めてだが、やるべきことは同じ。いいだろう、目的が同じうちは貴様たちと同行してやろう。」
はは、やっぱりこんな展開になったか。アシュラらしい照れ隠し。だが、頼れる俺の仲間であり友だ。
「そうだな、よろしく頼むよ。」
「わ~、またよろしくね! アーくん!」
神殿内部は完全な静寂を保っていた。少々居心地が悪くなるほどの神聖さが漂う神殿に魔族の気配などはない。アシュラはともかくママナなんてまさにおっかなびっくりって感じで歩いている。
「ねぇリュウト~、こんなところにホントに魔族が集まっているのかな~。ここもの凄く居心地悪いよ~。」
そんなママナの声に答えを返したのは俺ではなく、
「あの程度の戦力で我らをどうこうしようとしていた愚か者たちがやってきたのは事実だ。・・・いまごろは冥府で悔やんでいることだろう。」
響き渡る威厳に満ちた声。・・・どうやら、この神殿にいるものはかなりの実力者のようだな。
「汝らは奴らとは違うようだ・・・。ならば歓迎しよう。」
その声と共に四方から、炎が! 水が! 土が! 冷気が! 巻き起こる。一体ここにいるのは何者なんだ!
炎が鳥に、水は竜に、土は亀に、冷気は虎へと変化する。
「我が名は朱雀。」
「我は青竜」
「我は玄武」
「我は白虎」
「我らは四聖獣と呼ばれるものなり!」
今回出てきたのは有名すぎるほど有名な奴ら・・・四神とも呼ばれる四方を守る守護神です。
アシュラ「奴らは四人。我らも四人(ママナは戦えない)。ふむ、面白い戦いになりそうだ。」
いやいやいや! 戦おうとしないで下さい! 彼らは敵ではないのですから!
アシュラ「それではつまらなかろう。」
戦いは別の機会にありますから・・・っていうか次章あたりから戦いの比率はかなり増えますので・・・。
アシュラ「ふむ、ならば今回は大人しくしてやるとしよう」




