2話 「気ままな船旅」
エルファリアを出立して徒歩3日、現在は目的の島国に行く為に船に揺られているところである。船長の話では1週間ほどでつくらしい。
「うわ~! 海だよ! 海! 綺麗だね~!」
「ホントだ~! 私、森ばっかりだったから海って新鮮だな。」
俺の目の前には、甲板から聞こえる声にピクリピクリとその長い耳を反応させているアキの姿がある。
「気になるなら見てきたらどうだ?」
アキも森ばかりで海なんてそう見ていない口だろうから見たい気持ちはわかる。まだアキは人でいうなら15歳の少女、好奇心旺盛な年頃なのだから。
「い、いや・・・別に私は海を見たいわけじゃ・・・。そ、そなたは私をそんな子供だと思っているのか!」
思っている。そう言ったら怒るのだろうな。だが、見たがっているのは一目瞭然だし、さてどうするかな。
「フライングアターック!!」
「ふげっ!?」
安全な旅に気を抜いていた俺の上に落ちてきたのは先ほどまでレミーと一緒に甲板ではしゃいでいたママナである。・・・どうしてここにママナがいるのかというと・・・。
3日前のエルファリア宮殿入り口
「じゃあ、行くとしようか。アキ、レミー。」
出立時のごたごたをようやく片付けて、いよいよ旅にって言う時のことだった。
「ちょ、ちょっと待って~! ひ、酷いよ! リュウト!!」
慌ててやってきたのはママナだった。・・・そういえば別れの挨拶をしていなかったな。いなかったから変に別れを惜しみたくないのかと思っていたのだが。
「確かに私ちょっと寝坊したよ! でもね、待っていてくれるなり、起こしにきてくれるなりしてくれてもいいじゃない! 何も置いていかなくてもさ・・・。」
最後の方は今にも泣きそうなか細い声で寂しそうに言う。だが、ちょっと待て? 置いていくってどういうことだ?
「なぁ、置いていくってどういうことだ? そもそもママナは旅に同行しないだろ?」
「あ~! 酷い! 酷い!! ひっど~い!!! 昨日の夜ちゃんと言ったじゃない!」
き、昨日の夜? そんなこと言われていたっけ? 記憶がないぞ? まさか、昨日飲みすぎた所為か? これはメイさんの陰謀か!?
「あ~! その顔絶対わかっていないって顔だ~! ほら、『私はこれからリュウトのサポートに徹するわ』って言ったじゃない!」
・・・そのセリフは確かに聞いた覚えがあるな。っていうか旅に着いてくるっていう意味だったのか!? 俺はてっきり・・・
「俺はエルファリアに残って後方支援してくれるものだとばっかり思っていたのだが・・・。」
「そんなわけないでしょ! それじゃあ、メイさんとおんなじじゃない! 私はあの人みたいには出来ないよ・・・。だから、私が出来ることを精一杯やるの!」
俺を見上げるその目は真剣そのもので・・・俺には異論を挟むことは出来なかった。そうして今に至るってわけだな。
「ねーねー、リュウトも一緒に海見ようよ~!」
俺の姉を自称する彼女だが、こうしているとまるで妹のようだな。
「いや、俺は・・・」
別に海を珍しがるような・・・と続けようとしてふと思う。俺が甲板に出ればアキもついてくるのでは? と。
「・・・そうだな。一緒に見に行くか!」
「ならば、私も同行しよう。」
お! 思ったとおり乗ってきた! 隣のママナもにやりと笑う。・・・まさか、これが目的だったのか? いや、考えすぎかな。
見たことなんて殆どない海を見に行くのと、こうしてリュウトを眺めているののどっちをとろうかと悩んでいたところにママナがやってきて、彼を甲板に誘ってくれた。両方取れるのなら迷うことなんてないよね。・・・あんまりはしゃぎ過ぎないようにしないと。リュウトに子供みたいだと思われたら嫌だもん。
「これが海か。・・・話には聞いていたが不思議なものだ。風さえも森とはまったく違う。あのような鳥など見たことないぞ!」
「あれはカモメだな。海鳥だから森では見かけないのも当然さ。」
これでも出来る限りおさえてるつもりなんだけど、やっぱりリュウトには子供見たく見えるのかな? さっきから私に向けてくれる笑顔が微笑ましそうに見えるのは気のせい? でも、海も気になるけどリュウトの笑顔の方がずっといい。本当は恋人に向ける笑顔が欲しいけど、今はこれでもいいかな?
ちらりとリュウトの着ている服を見る。海の青とは対照的な新緑の服。・・・リュウトはきっとわかっていないだろう。なんでその服が緑ばっかりなのかなんてこと。緑は私たちエルフの守護色。エルフをはぐくんできた森を表し・・・そしてもう一つ、私の髪と目の色でもある。いつでもリュウト・・・あなたの傍には私がいる。そんな思いが込められていることなんて気がつくはずもないよね? まぁ、気がつかれても恥ずかしいんだけど。
「ほらほら、そんなにはしゃぐと転ぶぞ?」
ちょ、ちょっとリュウト! 私はそんなに子供じゃないって!
「そなたは私をそんな子供だと思って・・・きゃ!」
滑りやすい甲板は思ったよりも容易に私の足をすくって、私は思いっきり顔を・・・あれ? 痛くないな??
「ほら、だから転ぶって言っただろ?」
目の前にあるのは優しいリュウトの笑顔。私はすっぽりとリュウトの胸の中に納まっていた。
「そ、そのだな・・・助けてくれたことには礼を言う。」
絶対今の私の顔は真っ赤だと思う。でも、こんな瞬間瞬間がとても心地よい。・・・とりあえず、今はこれでいいかな? 遠くでわたしたちを見て騒いでいるレミーとママナにはあとでしっかりと話をしておかなくちゃだけどね!
なかなか目的地には着きません。今回は船の上でのお話です。
レミー「ム~!わたし殆ど出てきてないよ~!」
まぁ、今回はアキがメインですからね。ママナも目だってはいるけど^^
レミー「平和な時こそわたしの出番なのに~!」
きみは平和な時にトラブルを起すのが役割・・・まぁ、それは置いておいて、今は世界的には平和じゃないのでレミーの活躍はもっと別の機会に・・・ですね。
レミー「ム~! やっぱりアーくんがいないと大変だよ~!」
奴にまで出張って来れれると書くほうはさらに大変なんですが・・・




