1話 「騎士の称号」
チュンチュン・・・雀の鳴き声とともに起きる朝。俺の習慣は百年たっても変ってはいなかったらしい。なんとも懐かしく、そして生きていることを実感させてくれる。今日は新たな旅立ちの日・・・宣言していたレミーは元よりアキもついてくるのだろうか?
「リュウト殿、これをお持ちになってください。」
メイさんが恭しく差し出したのは数着の服とマント。・・・それ以前にこの人はアレだけ飲んだのになんでまったくアルコールが残っていないんだろう?
「これは一体?」
まぁ、とりあえず疑問は置いておいて、服に注目しておこう。冒険者用の動きやすいシンプルなデザインの服だ。なぜか色は緑一択なのだが・・・。
「エルフ族に伝わる特製の糸で作られた服です。軽くて丈夫ですのできっとお役に立つと思います。・・・本当なら以前の旅の時にもお渡ししたかったのですが、製作に時間がかかるのが難でして、百年の間に出来たのがこれだけなのです。」
申し訳なさそうに言うメイさん。だが、俺から見れば、百年も時間をかけて蘇る保証もない俺のために服を作ってくれたというのが嬉しい限りだ。
「いえ、こんな俺のために嬉しいですよ。・・・しかし、なんだか騎士の真似事をしているみたいで恥ずかしいですね。」
早速羽織ってみたのだが、やはりマントは目立つ。鎧またはマントは騎士の証みたいに思われているからな・・・俺のような未熟者がつけるには不釣合いな気がする。
「おお~! リューくん、カッコいいよ!」
いつの間にかやってきていたレミーが俺の姿を見て歓声を上げる。世辞なんて思いつくはずもないレミーだから本音ではあるのだろうが、あくまで服が・・・なんだろうな。
「ふむ、似合っておるではないか。それに騎士の真似事ではない・・・そなたは騎士なのだ。」
こうやって玉座に座って凛としているアキをみるとやはり女王なのだなと思う。しかし、俺が騎士というのはどういうことだ? 騎士とは殆ど名誉職、実力と名声を兼ね備えたものが与えられる称号なのだが。
「まったく、そなたはわかっていないようだな。百年前に伝説の邪竜神を打ち倒した竜神・・・そなたが騎士の名を持たずして一体誰に騎士の称号を与えられるというのじゃ。今ここにエルフの女王アキ=シルフォード=エルファリアがそなたリュウト=アルブレスに騎士・・・エルフの騎士の称号を与える。」
前半はため息混じりに、後半は女王としての威厳をこめてアキが宣言する。・・・段々と守らなければいけないものが増えていくな。いつか、その重みに潰される日が来るかもしれない。けれど、この肩にのしかかる重みを感じられるうちは俺はきっと俺のままでいられる。己が力に慢心した時が崩壊の第一歩なのだから。
「ねーねー、ところでアーくんはどこ?」
緊張感のない声で場の雰囲気を壊してくれるのはいわずと知れたレミーである。まぁ、アシュラのことだからな、この場にいないならきっと・・・まさか、酔い潰されて寝てるなんてオチじゃないですよね?メイさん。
「アシュラ殿でしたら今朝早くご出立されましたが。」
とりあえず心配は杞憂に終わったらしい。俺が誰に言われようと俺として動くように、あいつもあいつとして動くのだ・・・俺に止める権利はないのだろうな。
「ええ~! ム~! いくら今回は同行しないからって黙っていくなんてひっどいよ~! あっ! わたし通信機持ってるんだった。ちょっと、アーくんに連絡してみる。」
そして、アシュラの考えなんてまったく理解できていないらしいこの天使。・・・もの凄くわかりやすいと思うのだがな。
「レミー、やめておけよ。アシュラにはアシュラの考えのあってのこと。・・・たぶん、近いうちに再会することになるから。」
「ム~! よくわからないけどリューくんがそういうなら・・・。」
やれやれ、あいつのことだから一足先に行って暴れているんだろう。・・・俺の仲間としてではなくアシュラ個人として。俺たちの姿を見かければ向こうから出てくるだろう。目的が同じうちは協力してやろうなんていいながらな・・・。
「さて、じゃあ行くとするか・・・レミー。」
アキには声をかけない。きっと、ついてくるだろうとは思うが、俺からは声をかけられない。アキは本来、女王としてやるべきことがある。俺とともに危険な旅をする必要もない。そして・・・できることならばアキをこれ以上巻き込みたくないのは未だに変ってはいない。
「ほー、リュウト・・・そなた、私を置いていく気か?」
ついていくとは言われると思っていたが、こんな冷たい声で言われるとは思わなかった。背中を冷や汗がだらだらと流れていくのがわかる。
「そなたがそんな冷たい男だったとはな・・・昨夜は私を抱きしめながら『俺の傍で見守ってくれないか』などと言っていたというのに。」
冷や汗が止まらない。っていうか俺が抱きしめたんじゃなくてアキが抱きしめていたんだが・・・それを言う勇気は俺にはない。ああ! 臆病者と笑うなら笑ってくれ! 俺はけして勇者じゃないんだ!! せめて、せめて! メイさんとレミーの楽しそうな笑みさえ見えなければ少しは違うというのに。俺に味方はいないのか?
「ん~? この件に関してはいないんじゃないかな?」
「私はいつでも女王様の味方ですので・・・。」
・・・ここはエスパーの集まりですか? 俺の心境はそんなにわかりやすいですか? そして、アキ・・・その死刑宣告でもするかのような笑みはやめてくれ。い、いつもの優しくて可愛いアキは一体どこに?
「・・・さて、なにやらリュウトが現実逃避をしはじめたからな。ここらでやめてやろう。・・・私が共に行くことに異論はないな?」
俺はその言葉に首を縦に振ることしか出来なかった・・・。
結論:女性(特にアキ)を敵に回すのは得策ではない・・・。
え~、リュウトはついに騎士の称号を手に入れました。・・・後半のインパクトに霞んでしまっている気もしますが・・・。
レミー「でも、リューくんは鈍い上に臆病だからあのぐらい強気で行かないと恋人になれないよ。」
随分酷いいわれような主人公ですが、それが的を得ているというのも・・・しかもレミーに。
レミー「ム~! どういう意味!? だってあーちゃんまで消極的だったら3万年ぐらい経ったころに実はキミが好きだったなんてことになるんだよ、きっと!」
いや天使や悪魔はともかく、この作品でもエルフはそんなに生きないから。・・・でも死に際にっていうのはありそうで怖いな。
レミー「でしょ~? だからあーちゃん! もっともっとGOGO! なの!!」




