5話 「鏡合わせ」
「ドクター、何か私に手伝うことはないか?」
お姉ちゃんに言われるままにリュウトに会いに言った私は何故か医務室にいた。・・・だって、リュウトが見つからなくて医務室を覗いたら治療中の多くの兵士が・・・みんな私を守ろうとして傷ついた人たち。
「女王様!? こんなところで何をしているのですか? ここは私たちの戦場なのですから女王様は来なくていいのですよ?」
声をかけたドクターより早く反応したのは看護師のルル。相変わらずこの娘は規律にうるさいというかなんというか(たぶんお姉ちゃん以上だわ。私もお姉ちゃんも結構いい加減なところあるし)。でも、ドクターと凄く仲がいいって話なのよね。ドクターの本名知っているのはこの娘だけだとか・・・それって本当にいいのかしら?
「そうですね、今回はルルの言うことがもっともですよ。彼ら兵は戦って傷つくのが仕事。私たちは彼らを癒すのが仕事。女王様・・・あなたにもあなたのやるべきことがあるでしょう? 差しあたっては誰かに会いに行くっていうお仕事が。」
ルルの後を引き継ぐようにほんの僅かに笑みを浮かべてやわらかく言うドクター。なんでこの人はこんなことを知っているのだろうか? お姉ちゃん並みに謎が多い人なのかもしれないわ。
「というわけです。女王様は邪魔ですから出て行ってください。あ、彼に私たちの分までお礼を言っておいて下さい。」
とにっこりと笑ってドクターは私を追い出しにかかる。・・・私一応ここのトップなのよね? 親しみを持ってくれてるのは嬉しいといえば嬉しいんだけど・・・。
「ちょ、ちょっと・・・ドクター、まっ・・・」
バタン・・・と無情にも閉められるドア。・・・まぁ、元々リュウトを探している途中だったから・・・また探しに行こうかな? うう、なんでリュウトのこと考えるたびに顔が赤くなるんだろう。
「あれ? アキじゃない。どしたの?」
キャア! ま、ママナ? ちょ、ちょっと今はまずいわ。顔が真っ赤なんだから!
「い、いや、なんでもないぞ?」
「ん~? アキ、顔真っ赤だよ~? あ~! リュウトのこと考えてたんでしょ? でしょ?」
うう~、どうして私ってば、こうまで考えていることが駄々漏れなんだろう。
「いや、そのな・・・此度の礼もかねてリュウトを探していたのだが・・・」
「硬い! 硬いよぉ~! 違うでしょ? 愛しのリュウトに会いたくて・・・じゃないの?」
い、愛し!? ああ、絶対私の顔、誤魔化しが効かない位赤くなってるよ~!
「そ、そのようなことは・・・ないぞ。でも、そなたはいいのか? そなただってリュウトのことを・・・」
これは私の勘。マリアさんもママナも・・・リュウトのこと好きなんじゃないかって最近思うの。
ドキッ! とするアキの問いかけ。答えは私自身わからない。私がはじめてあったときはリュウトは可愛い男の子。その後、リュウトに懐かれて頻繁にあって認識は可愛い弟に変った。・・・じゃあ、今は? 私はまだ可愛い弟だと思っている。それは本当。でも、男性としてのリュウトは本当に私の中にいないのだろうか? それはわからないの。
「わ、私にとってはリュウトは可愛い弟だよ~。だから、そんな感情なんて・・・」
本当にないって言える? 私の中で何かがそう囁く。
「私も今から思えば、初めは兄のようにリュウトを慕っていた。・・・いや、『頼っていた』だな。血の繋がりが全てとは言わんが、実の兄弟ではないのだ・・・そういう気持ちに発展してもおかしくはないのではないか?」
静かなアキの問いかけ。もし、私がこの問いに頷いてしまったらアキにとってはけしていいことではないはず。なのに・・・何故?
「アキったら~、そんなに私がリュウトのことを好きなことにしたいのかな? そうだとしたら私がリュウトを奪っちゃうよ?」
そんなの駄目でしょ?だから・・・ここでおしまいにしよ?
「無論、私とて良くはない。だが、そなたの心を無視して・・・幸せにとは思いたくないのだ。」
顔を真っ赤にしながら真剣に言うアキ。もう、アキは優しすぎるよ。・・・でも、判る気がする。私とアキは似ているのだ。私は自分でも異端児だってわかっている。人やエルフ・・・魔族のいう光の者たちを傷つけたくないなんて思う者は少ない。だから私はずっと一人だった。リュウトは数少ない・・・っていうより唯一私の傍にいてくれた人。そしてアキにとっても、女王であるアキを一人の少女としてみてくれる唯一の・・・あはは、お互い選択肢が少なすぎるよね。
「アキ、たぶんね。私の中にそういう思いがまったくないっていったら嘘だと思うの。」
うん、きっと私はリュウトが好きなんだと思う。それこそ、いろんな意味で。
「やはり・・・そうか。」
ちょっと辛そうな顔でそう呟くアキ。でもね、違うの。
「でもね、それは仲間としての好きなんだと思うんだ。そりゃ、リュウトは男だし本人に言うと怒りそうだけど可愛い顔してるから・・・そんな思いがないってわけじゃないと思うよ? でも、アキの思いとはきっと違う。私にはリュウトと並んで同じ道を歩く未来は想像できないもん。」
種族も立場も違うのにこんなところばかり鏡合わせの私たち。もし、運命がちょっとずれていたら私とあなたの思いは入れ替わっていたかもしれない。でもね、やっぱりリュウトの隣の席はあなたがふさわしいと思う。私の道はリュウトの道とは違う。でも遠いわけじゃない・・・すぐ近くを併走してる道。だから仲間なんだと思う。だから姉弟なの。
「今はね、こんなにいっぱい仲間が出来た。アキもレミーもメイさんも素直じゃないけどきっとアシュラも・・・皆仲間。だから、アキにもリュウトにも幸せになってもらいたいの。大丈夫・・・私もあなたたちと一緒に幸せになるんだから!」
将来この思いがどうなるかなんてわからない。でも、きっと後悔はしない。もし、リュウトに出会えなかったら手に入れられなかったものがこんなにある。私はこんなにも幸せなんだって胸を張っていえる。・・・だから今日ちょっとだけ気づいた淡い思いにはさよならしよう。大切に心の宝箱にしまおう。いつか、ひょっとしたらあなたの隣にいたのは私だったかもね・・・なんて笑って話せるその日まで。
「そなたは・・・それでいいんだな?」
アキの問いかけに私はニッコリと笑ってうなずく。
「だからね、他の女になんかリュウトを盗られたら許さないんだから! しっかりあいつの心を支えてあげてよ。」
私は知っている。リュウトの心は脆く繊細だってこと。彼もアキと同じ。優しくて怖がりで臆病。彼は巻き込むのを怖がっているんじゃない・・・嫌われることを、自分の周りから人がいなくなることを怖がっている。いなくなって欲しくないから周りを守ろうとしている。その為なら自分を犠牲にできる。その結果、恐れられてもいいと思っている。まさに自己矛盾ね。でも、そんなことあるわけない。だって、リュウトが嫌だって言ってもリュウトの傍から離れられないのがこんなにいっぱいいるんだから。
「まかせておけ! リュウトは私の物だ。どこへ逃げようと必ず隣の席は確保する。」
うん、そんなアキだからリュウトを任せられる。彼の孤独を救ってあげて。皆あなたのことが大好きなんだよって・・・たった一人自分のことが大嫌いなあの馬鹿に教えてあげて欲しいの。でも、もしも将来に私の気持ちが恋や愛に変わった時にリュウトがフリーだったら横から盗っちゃうんだからね♪ フフ、これは私にそんなこと意識させたアキへの罰だよ~
「うん! まかせた!! あ、そうそう、リュウトだったらさっきバルコニーにいたよ? まだいるかはわからないけど。」
「そうか、ありがとう。」
足早に去っていくアキを見てちょっと悪いことしちゃったかなって思う。早く教えておけばいる確率高かったよね?
そして・・・
「一足遅かったわ。」
誰もいないバルコニーにアキの呟きが風に消えていった。
前回でちょっとだけ出てきたママナの思い。完全版ってところでしょうか?
アキ「今回はママナがメインって感じだな。」
そうですね。でも、アキの思いもかなり大事です。ヒロインはあくまでもあなたですから^^
アキ「ふむ、まぁいいだろう。で! 恋敵が出てきたりしないだろうな?」
・・・それは・・・なんというか・・・・。
アキ「ほう・・・詳しい話を向こうで聞こうか?」
い、嫌だ~! 拷問はもう嫌です~~~!
ママナ「あの二人もなんだかんだで仲がいい? 次はリュウトとアシュラの約束の一つが果たされる? そこにメイさんも乱入!? じゃあね~!」




