4話 「もう一つの戦い」
レミーと別れた後も俺は一人バルコニーにいた。大分冷たくなった風が心地よい。・・・ん? 後ろからやってきてるのは
「あれ? リュウト、こんなところで何してるの?」
やっぱりママナか。彼女の気配はわかり易い。・・・もっとも本気でわからないのはアシュラぐらいなものだが。
「いや、この景色を見るのも最後になるかもしれないだろ? だから、よく見ておきたかったのさ。」
この町に別段の思い入れがあるわけじゃない。でも、何故か特別に思えるんだ。・・・アキが住む町だからかな? ん? どうした、ママナ? その満面の笑みは?
「この・・・・バカ~~~~~!!!!」
そして、いきなりの後頭部へのチョップ! いくら弱いって言ってもママナも魔族。無防備に受けて効かないはずもなく
「って~! い、いきなり何をするんだよ、ママナ!」
思わず涙目になりながらママナに抗議する。
「ぶ~! 何をするじゃないわよ! 『最後』なんて絶対に言っちゃ駄目! ・・・そりゃね、覚悟っていうのは必要だと思うよ。それがなければイザって時に動けないっていうのもわかる。でもね、それでも絶対にここに帰ってくるんだって思って欲しい。それがきっとリュウトの力になると思うから。」
頬をめいいっぱい膨らませて、目を見開いて怒っているんだぞ! ってアピールしていたはずのママナの声は段々と小さくか細いものになり、徐々に細められた目からは涙が見えた。・・・そうだな、本当に不安なのは直接戦えないママナたちなのかもしれない。
「そう・・・だな。じゃあ訂正しよう。絶対に帰ってくる場所を忘れないように出発前によく見ておこうと思ってな。」
嘘も嘘、大嘘だ。そもそも初めに本音を言っているんだ、ママナだってそれはわかっているはず。でも、口にすることに意味がある。俺自身そう思い込むために・・・これは俺を騙す為の嘘。
「うん、それでよし!」
満足げに笑顔でうなずくママナ。・・・良くわかるよ、俺がどれだけ多くの人たちに支えられて生きているか。さっきまでそう思っていたように一人で戦うことは出来る。でも、一人で生きていくことは・・・俺にはできないな。
「ははは、ホント俺はママナに助けられてばっかりだ。これじゃあ、まるでママナの方が姉さんみたいだぞ。」
俺は以前、ママナを友だと思ったが、よくよく考えればママナとの関係も兄妹に近いんだよな。本当に俺は友人と自信を持って言える相手が少ないな。
「何言ってるの? 私はリュウトのお姉ちゃんだよ? いくらリュウトが私よりも大きくなっちゃってもそれはずっと変らない。あの日、森で襲われていたリュウトを助けた時から・・・リュウトはずっと私の可愛い弟。だからね、かってにいなくなっちゃ駄目なの。・・・そしてごめんね。あなたを守ってあげられない情けない姉で・・・。」
『かってにいなくなっちゃ駄目』・・・姉さん、マリア姉さんにも何度同じことを言われただろう。駄目な弟を持つ姉っていうのはどことなく似てくるものなのかもな。
肉体的な年齢はもうリュウトの方がとっくに私よりも上。そんなことはわかっている。当時は私の方が強かったけど、今は私じゃあリュウトの足元にも及ばない。・・・リュウトの役に立とうと戦おうとして、逆に迷惑をかけて・・・でもね、それでもリュウトは大切な弟なの。私は戦いじゃ役に立てない。だから、せめて他でサポートするの!
「本当に俺は出来の悪い弟みたいだな。・・・俺には戦うことしか出来ない。その戦いだって皆に迷惑をかけながら戦っている。前に俺が言った言葉通りか・・・だからこそ俺は生きなければいけない。借りはまだまだたくさん残っている。」
百年前のあの日の約束。私は一日たりとも忘れてないよ? 私が許されざる罪を犯してもう百年。きっと、私を怨んでいる人間はもう生きてはいないだろう。でも・・・それでも! 私の罪が消えたわけじゃない。私はリュウトと同じ道は歩めない。だから、せめてリュウトのサポートぐらいはしないとね。
「うん、そうだよ。リュウトはまだまだ死んじゃ駄目。・・・私もね。まだまだ世界に返さないといけないものがいっぱいあるから。でもね、リュウトは迷惑ばかりかけてはいないよ? 今日だってリュウトが来てくれなかったら私・・・。」
まぁ、リュウトは私を助けに来たわけじゃないんだけど・・・人質になって余計な苦労を増やしたのも私なんだけど・・・まるで偶然通りかかったみたいに出てきたけど、本当はお礼が言いたくてリュウトを探してたの。言う機会をすっかり逸しちゃってるのが情けないな。
「俺に出来るのはあんなことぐらいだからな。だが、安心したよ。はりつけになってた三人を見たときは肝が冷えたけど、体は問題なさそうだからな。」
まぁ、私は軽く一撃を受けて昏倒していただけだから・・・。格好よく出ていっちゃった分恥ずかしかったよ~。でも、メイさんとかはかなり粘ってって重傷だった気がするんだけどな?
「うん、私は大丈夫だよ。でね、私わかったんだ。・・・ううん、再確認したって言うべきなのかな。やっぱり私はリュウトみたく戦えない。別の道を探すって言っておきながら本当はリュウトみたく格好良く誰かを助けてみたかったんだ。」
「・・・あんなのは格好良くなんかないさ。特に俺は・・・な。」
自嘲気味にそういうリュウト。うん、リュウトならそう言うんだろうね。でもね、私には格好よく見えた。憧れだったんだよ?
「もう、私が格好いいって言うんだから格好いいの! お姉ちゃんの言うことを少しは聞きなさいよね。・・・でね、私は戦えない。でも、役には立ちたいの。だから、私はこれからリュウトのサポートに徹するわ。これなら、私でも役に立てる。リュウトと違う道を歩きながら同じ理想を追えるから。」
これが私の結論。リュウトの隣で笑っていられるのはどうやら私じゃなさそうだから。後ろからでいいからあなたの姿を私にも見せて。きっと、私も笑いながら歩けると思うから。
「ママナ・・・俺は・・・。」
あ~! もう!! こんな湿っぽい話をする気じゃなかったんだけどな。ってわけで話はここで終わりよ。
「う~ん、やっぱ夜風はちょっと寒いわね。私はもう寝るけど、リュウトもあんまり風に当たってちゃ駄目だよ。風邪ひいてもお姉ちゃん知らないからね!」
リュウトが何か言いたそうにしてたけど、あえて無視する。だって・・・私の思いはもう決まっている。リュウトに何を言われても、これが私の戦い。武器は持てないけど、命をかけるわけでもないけど・・・これだって戦いだよね?
武器と力を持って戦うばかりが戦いではない。・・・まぁ、もっと平和的な戦いもあるのですが、ママナも魔族ってことでしょうか。
ママナ「失礼ね~! 別に魔族だから戦いが好きなわけじゃないもん。私が好きなのは戦いじゃなくて・・・え、えっと~。」
大切な弟を守る為っていうのはわかるけど・・・リュウトが弟か・・・。
ママナ「あ~、なによそれは~! あんたたちはリュウトの方が大きいときしか知らないけど、元々は私の方が大きかったんだよ! 誰がなんと言おうと私がお姉ちゃん!」
・・・いや、そうじゃなくてな・・・リュウトの周りには血縁関係じゃない兄弟ばかり増えていくなと・・・本当の妹がどう思うか・・・。
ママナ「でてくるの? 妹?」
まぁ、名前は出してるからな。・・・そのうち出てくることは確定・・・はっ!? い、いえ! 勿論まだわかりませんよ?
ママナ「自分からばらしちゃって・・・馬鹿な作者・・・。」




