2話 「たった一つの選択肢」
トントン、夜に響くノックの音は彼女の訪問のしるし。
「入ってくるがよい。」
一応部屋に招き入れるまでは女王とメイド。でも中に入ってしまえば、普通の姉妹。・・・お姉ちゃんはあの日、百年前リュウトがエルファリアにやってきて、私が旅立つ前日のあの日からこうして姉としての顔も見せてくれるようになった。・・・それに頼っちゃう私はまだまだなのかも知れない。
「アキ、あなたはリュウト君についていきたいのでしょう?」
やっぱり今日の話題はそれだよね。エルファリアがこんなときになんて、お姉ちゃんでも反対するかな?
「うん、私はやっぱりリュウトと一緒に居たい。・・・駄目かな?」
ちょっと、上目使いで可愛く言ってみる。・・・お姉ちゃんに効果があるとは思えないけど。
「アキ、あなたもわかっているんでしょう? 飛翔石の取れる場所はジャムニー列島。様々な固有種がひしめく結構危険な場所よ。」
うん、勿論そんなことはわかっている。・・・ってお姉ちゃんの心配はそこなの?
「え、えっと・・・それは勿論わかっているけど、反対の理由はそれ? エルファリアが大変な時にリュウトについていくなんて~! なんていうのじゃないの?」
「確かに今は大変な時だけど、それがゆえにあなたが再び世界を救いに行くのは意味があるともいえるわ。だから行くこと自体は反対しない。あとはあなたの覚悟だけ・・・。」
いつものちょっとおちゃらけたお姉ちゃんじゃない。その瞳に映るのは真剣さと私を心配してくれる優しさだけ・・・。
「うん、私覚悟だけならいつでもあるよ。勿論、死ぬ覚悟じゃない。何があってもここに、リュウトと一緒に帰ってくる覚悟が。・・・だから心配しないで、お姉ちゃん。」
一緒にいるだけじゃ駄目なの。もう、私はそれだけじゃ我慢できないの。・・・私にほんのちょっと覚悟が足りなかったから百年もお預けされちゃった平和な世界でリュウトと笑っていられる世界・・・今度こそ手に入れたい。そこにお姉ちゃんもいてくれれば・・・それだけあれば、私は、アキ=シルフォードは他に何にも要らないから。
「うん、ちゃんとわかっているようだから良し! お姉ちゃんはアキを応援する。エルファリアのことは心配しないで行ってらっしゃい。・・・それにそのぐらいのインパクトがないとあなたとリュウト君の結婚はなかなか難しそうだし・・・ね。」
け、結婚!? って顔を赤くしてる場合じゃないわ! 私とリュウトの結婚が難しいって何で!?
「ど、どうして!? だってお姉ちゃんは前に皆祝福してくれるって・・・。」
そう、確かに百年前の旅立ちの時はそういっていたはずなのに!
「うん、私もそう思っていたんだけどね・・・いえ、旅から帰ってすぐのタイミングならきっとそうなっていたと思うだけど、冷静になられると立場が違いすぎるのよ。」
立場が違う? それって・・・
「わ、私が女王だから?」
「それもあるわ。あなたは女王、リュウト君は平民・・・身分が違いすぎる。でもそれだけじゃないわ。あなたはエルフ、リュウト君は元とはいえ人間。さらにエルフ族がいくら女王とはいえ大恩ある竜神様と結婚など許されるのか・・・なんて意見もあるわ。どれもなかなか難しい問題よ。」
そ、そんな・・・。リュウトの心さえ捉えられれば大丈夫と信じ込んでいた私にはまさに青天の霹靂。二の句が告げれず、プルプルと小刻みに震えるしか私には出来なかった。
まったく、この子ったらなんでリュウト君が絡むとこうまで女の子になっちゃうかな? 普段はあんなに凛々しいのにね。・・・まぁ、この子が女王の仮面をはずせる場所が出来るのはいいことなんだけど、思考停止だけは止めて欲しいわ。
「だからね、あなたたちが結婚するためにはそういうものを吹き飛ばせるぐらいのインパクトが必要なのよ。・・・今回のこと、根はかなり深いと見て間違いないわ。無事解決出来たならインパクトとしてはこれ以上ないものになる。」
逆を言えば、それだけ危険だということ。私はまた、妹を危険な目にあわせようとしている。それがアキの望むものであったとしても・・・
「お姉ちゃん、私ね・・・たしかにリュウトとそうなれたらいいなって思うよ。でもね、そのために戦うっていうのは違うと思うんだ。私はリュウトを守りたい。もう二度と失いたくない。それにお姉ちゃんもね? それが私、アキ=シルフォードの戦う理由。そして、エルフのみんなの幸せを・・・それがアキ=シルフォード=エルファリアの戦う理由なの。」
さっきまでショックであんなに震えていたというのに・・・アキはやっぱりアキなのね。泣き虫で甘えん坊で、でも甘えベタで・・・そして人一倍頑張り屋。個人として私やリュウト君のために戦って、でも女王としての立場も忘れられない。不器用な愛すべき私の妹。
「ごめんなさい・・・本当は姉の私があなたを守らないといけないのに。今日だって・・・私はあなたを守れなかった。」
私がもっと強ければ・・・アキが囚われることもなかったかもしれないのに。
「ううん、お姉ちゃんは私を守ってくれてるよ? お姉ちゃんがいてくれたおかげで助かったこといっぱいあるもん。だからね、今度は私が守るの。お姉ちゃんも・・・リュウトも。それに今日のことは仕方がないよ。リュウトが来てくれた時に残っていたのはそうでもなかったけど、初めに攻めてきたのは本当に強かった。不意をつかれたとはいえ私やレミーが相手にならなかったんだよ?」
確かにそうね。でもね、わかっている? そんな相手とまた戦うことになるかもしれないのよ?
「お姉ちゃん・・・私、ちゃんとわかっているよ。でも大丈夫。私、次は絶対に負けない。だってリュウトと一緒なんだもん。・・・きっと、レミーやアシュラもついてくると思うけどね。」
そう・・・あなたはわかった上で行くのね。なら、今度は私が覚悟を決める番! アキが帰ってくるまでにこの国をもっといい国にすること。アキのバックアップは任せてちょうだい!
「わかったわ。あなたには辛い選択ばかり選ばせちゃうけど、後のことは私がやってあげる。・・・あなたはさっさとリュウト君を射止めてきなさい!」
最後にちょっとだけつけたからかい。・・・姉妹だからこそ出来ること。あなたをからかっていいのは私だけ。私をからかっていいのは・・・いないわね。
「選択? そんなのはないよ? 私にはリュウトと一緒に行かないなんて道はないもん。だから辛いとも思わない。これは私が望んで歩く一本道だから!」
その笑顔には迷いなんてなくて、思わず抱きしめたいぐらい可愛かった。
「え? ちょっと、お姉ちゃん!?」
あら、ホントに抱きしめちゃったわ。
「そうね、きっとあなたの言うとおり。・・・だから! ほら! あなたが会わなくちゃいけない人に早く会ってきたら?」
とたんに真っ赤になるアキ。本当にこんなところは初心なのよね・・・からかいがいがある子だわ。でもね、誰よりも幸せになりなさい。誰よりも頑張ってきたあなたにはその権利があるのだから。
アキの思い・・・そしてメイの思い、いかがだったでしょうか?
メイ「これで怖いお姉ちゃんなんていう不名誉な称号はなくなりますわね。」
アキをからかって遊ぶのは相変わらずだけどな。・・・それに怖いって言うのはまだ出てきてないってだけだろ?
メイ「最近、大人しくしていれば・・・・私の怖さを思い出させてあげましょう・・・。」
ほ、ほら・・・そのにじみ出る恐怖・・・それが怖いって言われる由縁・・・・うぎゃぁぁあああ!
メイ「さて、アキのところに戻りましょうか。」




