1話 「レミーとして」
バルコニーに出て夜風に当たる。そこから見渡せるエルファリアの町並み・・・随分と壊されてしまったようだが、幸い人的被害は少なく復興までそう時間はかからないらしい。・・・エルフの感覚でだから実際の時間はわからないが。
誰も言いはしなかったが、今回エルファリアが襲われた理由は二つ。一つは俺が復活した場合、必ずここの危機に現れるから。つまり、俺をおびき寄せる為に襲われたということだ。
もう一つはここにアキがいるから。だが、アキが狙われるのも以前俺と旅をしたからだ。つまり、原因は全て俺にあるといってもいい。・・・また俺は罪もない人々を巻き込んでしまったのか。もう、誰にも迷惑はかけられない。今度の戦いは・・・俺一人で行く!
「リューくん!」
「うわ!」
まるで音符どころかハートでも撒き散らすような声で後ろから飛びついてきたのは言うまでもなくレミーである。本当に気づいていなかったわけではないが、普通のものは驚く行動だってことをわからせておかないといつかショック死する奴が出そうで怖い・・・。
「どうしたんだ? レミー?」
レミーのことだから理由なくっていうのも十分ありえるが、今回はちょっと違う気がした。
「ううん、リューくんとお話しするの久しぶりだからね。」
確かにそうだな。もっとも、まだゆっくり話した奴なんて・・・あえて言えばアシュラぐらいなものなのだが。
「ねー、リューくん。覚えている? 百年前のこと。わたしがリューくんをお兄ちゃんみたいに思っているって言った時のこと。」
・・・覚えているさ。それはまさに邪竜神との戦いの後、石化しつつあるときの話だ。そして、あのとき俺がレミーに返した言葉は
「あの時の発言は全面的に撤回するよ。こんな俺でよかったら俺の妹でいて欲しい。」
血のつながりなど関係ない。俺にとって姉さんが姉さんであるように、ハナやケンタが妹や弟であるように・・・大切なのは心の絆だと思う。
「ほ、本当!? リューくん!」
目を輝かせて喜ぶレミー。レミーの実の兄は、はっきりとは聞いていないがあのヘルなのだろう。幼い時に行方不明なったと聞く・・・よほど兄が恋しかったんだろうな。その心の穴を俺で僅かでも埋められるなら拒む理由などありはしない。俺にとってもレミーは大切な存在だ。・・・色々危なっかしくてほっとけないし
「まぁ、その兄としてはもう少し思慮深くなって・・・というより頭を使って欲しいところだけどな。」
「ム~、ひっどいよ~! リューくん!」
お互いに顔を見合わせて、一頻り笑う。こんな関係もいいなと思う。きっと、俺が守りたいものはこんな当たり前な日常、当たり前な幸せなのだから。
「だがな、レミー? 俺はアシュラまで弟にする気はないぞ?」
俺は冗談めかしてレミーにそういう。まぁ、百年の間にどう変化したかはわからないが、レミーは好意を持っていたみたいだからな。
「あはは、それはどうだろうね? でも、あーちゃんがわたしの妹になる方が早いんじゃないかな?」
おっ! うまく返してきたな。・・・っていうかレミーにはバレバレだったらしい。まさか、アシュラやママナにまでばれてないよな? アキにはばれていないのはわかっているが。そういわれてこう思うってことはやはり俺は・・・なんだろうな。百年石化して思ったこと、アキの心を傷つけてしまったことが最大の後悔だった。
「アキがレミーの妹ねぇ。どっちかというと姉って感じがするけどな。」
確かに年齢は(人間に換算しても今ならば)レミーの方が上なんだけど、行動はどう見ても・・・なぁ? それに兄の・・・なら姉だよなぁ。
「ム~! わたしの方がお姉ちゃんだもん! っていうかあーちゃんが家族になるってことは決定?」
おっとしまった。しかし、当のアキがこの話を聞いていたら、どう思うんだろうな?
「さぁ、どうだろ?」
とりあえず、ごまかしておくか。・・・ごまかしになってないかな?
「ねー、リューくん・・・一人で行っちゃ駄目だよ?」
そしてレミーから突然、思いもかけず投げかけられた言葉に俺の体は固まったのだった。
わたしの言葉に凍ったように固まったリューくん。やっぱり、そんな気はしてたんだけどリューくん、一人で戦いに行く気だったんだね。ホント、リューくんって嘘がつけないんだから。
「な、何のことかな? レミー・・・」
ム~! リューくん今更ごまかせると思っているの~! リューくんの行動ぐらいわたしでもわかるよ~!
「リュ~~く~~ん~~~!」
リューくんの顔色がどんどん悪くなって、汗がいっぱい! ホント、嘘つけないんだね。
「ふう、わかった、わかったよ。・・・でもな、どう見たって今回のことは俺に責任がある。これ以上は皆を巻き込めないよ。」
やっぱり、リューくんはリューくんなんだね。まーちゃんが言った様になんでも自分の所為だって思い込んで・・・。
「リューくん、だってリューくんは竜神だよ? 世界の異変に絡んでこないほうが不思議なんだから気にすることないの! それに巻き込まれたんじゃなくてわたしたちが関わりたいの!」
リューくん、その顔絶対にわかってないでしょ!
「どこに行くのか、何するのかわからないけど! わたしは絶対にリューくんについていくんだからね!」
「それは・・・レミーが天使だからか?」
意外と珍しいリューくんの真剣な顔。・・・カッコいいというより可愛いだと言ったらリューくんは怒るかな?
「違うよ。確かに天使としても着いて行くべきなのかも知れない。でもね、わたしが行きたいと思うのはリューくんとだから。・・・天使としてじゃなくてレミー=エンジェルとしての思いだよ。」
きっと、レーチェル様はリューくんについていけって言うと思う。でも、例え言われなくても・・・ありえないけど行くなって言われても、わたしはリューくんと一緒に行きたいと思う。たぶん、それは皆同じだよ?・・・わたしからは言ってあげないけどね!
「俺は情けないな。兄としては妹を危険な目に合わせるなんて絶対いけないはずなのに・・・ついて来て欲しいと思ってしまう。」
「違うよ~! 兄だから可愛い妹のお願いには逆らえないの!」
ちょっと首をかしげて指を頬の下に当てて・・・下から見上げるようにして言う。実はこれ、セリフも含めてレーチェル様からリューくんにお願いするときの切り札って教えてもらったの! 他にもいろんなバリエーションがあるんだけどね。・・・こんなのがなんで有効なのかな? ん~? リューくん、顔赤いよ?
「ししし、仕方ないな。なら兄として可愛い妹のお願いを聞くとしよう。」
「ホント! リューくん・・・ううん、お兄ちゃん大好き!」
えへへ、レーチェル様! これすっごくリューくんに有効みたいです!・・・アーくんにも効いたりするのかな?
先ずはレミーとリュウトの会話です。
リュウト「レミーの名前の方が先に来るんだ。」
そりゃ、どっちかといえばレミーの方がメイン?
リュウト「主役は俺なんだが? 相手がアキなら同じ主人公だからわかるが・・・」
今回はただの悩める青年だったからね。物語的に重要なのはレミーのパートの方だし。
リュウト「お、俺のパートだってこの先の人間関係に影響与えるぞ!?」
あのレミーがそんなので対応変えると思うか? キミの対応が少し変るだけだろ? 無意味じゃないが重要ではない。ってわけで、レミー!
レミー「は~い! 次回はね、あーちゃんとめーちゃんの会話なんだって! 難しい話か、やさしい話か、怖い話かはめーちゃん次第?」




