6話 「鈍さのわけは」
リュウトが目の前にいる。言葉にしてしまえばそれだけのこと。でも・・・百年間ずっと待ち望んでいた夢の光景。あの時離れていってしまった手は今こうしてわたしの手の中に戻ってきてくれた。
「そうだったな。・・・俺が一番守りたかったもの、そして一番泣かせてしまったのがアキ・・・キミだったな。」
誰に言うわけでもなく、自分に呟くようにそっと漏れたその言葉。それがたまらなく胸に響く。少なくても今は私があなたの特別・・・そう自惚れてもいいんだよね?
「あのね・・・私、あなたに・・・。」
本当は百年前に言わなければいけなかったこと。勇気がなくて言えなくて、ずっと後悔していた言葉。私の将来を決めるかもしれない言葉・・・を言おうとしたんだけど!
「あ~! ほら、まだ血が乾ききっていないのにあんなに抱きつくからアキまでこんなに汚れてしまってるじゃないか! だからちゃんといったのに・・・いくら久しぶりに会った『仲間』だからってそんなに喜ばなくてもいいだろ?」
・・・服も、体もどんなにあなたの血で(魔族の血かもしれないけど、この際どっちでもいいわ!)汚れてもかまわないのに! まだ、お互い何にも言っていないけど、私としては『仲間』じゃなくて『恋人』との再会なのに! そんなこと言われたら告白できる雰囲気じゃないじゃない!!
「はぁ、アキってどうしてこうなんだろうね。リュウトもだけど・・・。」
「さっさと言ってしまえばよかったのに。あの子ったら相変わらずタイミングを計るのは下手ね。早めに発表した方が身分差による異論を封じられるんだけど・・・。」
背後から聞こえる勝手な言い分。ママナ~、お姉ちゃ~ん・・・今回は絶対私の所為じゃないよ~! リュウトが、リュウトが悪いんだよ~。
百年間、今日の日のことを待ち続けて・・・これ以上ないシチュエーションだったのを見事に壊された私は、本当は一番聞き逃してはいけなかった一言を聞き逃してしまったことに気づかなかった。
「ごめんな、アキ。俺はまだ自分の気持ちがわからない。キミの思い・・・俺の予想通りなら嬉しいと思う。でも、今受けいれてはいけない気がするんだ。」
「リューくん! あーちゃん!」
元気よく入ってきたのはレミーだ。・・・怪我はどうした?
「レミー、そなたも無事じゃったか。回復も出来ずにふらふらと脱出していたから心配していたのだぞ。」
すっかり、いつもどおりに戻ったアキがレミーに問いかける。やっぱり、アキも変っていないな。まぁ、百年もアキにとっては人の一年相当か。しかし
「えへへ、ごめんね。わたし、回復使えることすっかり忘れてたの。最近、使うことなかったから・・・。」
・・・やっぱりか、以前の旅のときも俺の怪我を三日間放置してたしな。俺はまだしも、レミーに何かあると困るから対策を考えないといけないか。
「レミー・・・そなたという奴は・・・。」
さすがのアキもこれには二の句が告げないみたいだな。たぶん大丈夫そうなのを確認していた俺と違ってアキは心配し通しだっただろうから。
さてと、問題はこれからだ。俺を襲った奴、エルファリアを襲った奴。必ずこいつらには共通の黒幕がいるはず。・・・平和が壊れようとしている。ならば、たとえ独りよがりで独善的なものだろうともう一回作り直してやるさ。
「ねぇねぇ、リュウト・・・これなんだと思う?」
ママナが持ってきたのは普通の石? いや、それにしては妙に光沢があるというか??
「これ、どうしたんだ?」
「ん? あの親玉の懐から出てきたんだよ。・・・綺麗だよね~。」
となるとママナも何か知っているわけではないのか。この手のことに詳しいアキは・・・同じように首をひねっているな。
「ほう、飛翔石とは珍しいな。」
正体を知っていたのはいつの間にかやってきていたアシュラだった。飛翔石? どっかで聞いたことがあるような
「それが飛翔石か? 私も実物は初めて見た。町・・・いや、小国なら国一つを買えるとまで言われる超レアメタル。」
アキの呟き。・・・目の色が変ったのは見てみぬ振りをしよう。エルフの財政ってそんなに厳しいのだろうか?
「んん~? でもそこまで綺麗って感じはしないよ~?」
とはレミーの言。たしか、飛翔石は変った能力があったはずなんだが??
「そなたも天使なら知っているべきだろう。・・・飛翔石は弾性率が1を大きく超える奇跡の石だ。」
・・・アキ、たぶんその説明じゃあレミーはわからないと思う。
「うう~、あーちゃんがわからないこというよ~。」
・・・やっぱりか。
「つまり何かにあたり跳ね返るたびに速度が速くなるってことだ。」
「なるほど! わかったよ、アーくん!」
アシュラ、レミーの扱いがうまくなったな。もっとも、レミーはそれがどれほど凄いかはわかっていないようだが。
「ならば、次の目的地は決まりましたね。」
しれっとそういうのは今まで黙っていたメイさん。どういうことだろう?
「わかりませんか? 飛翔石が取れるのは今ではたった一つしかありません。ならば、手がかりはそこにある可能性が高いということです。」
なるほど、他にわかっていることはない。考えられるところを当たらない意味はないな。
「今日は皆さんお疲れでしょう。幸い、宮殿はそれほど傷んではおりません。今日はここで休んでいってください。」
新たなる戦い・・・どうも竜神っていうのは戦いの中にしかいられないらしいな。だが、守って見せるさ。例え一人でも・・・。
ってわけで第一章はこれにて終わりです。
アキ「・・・言うことはそれだけか?」
ビクッ! え、えっとアキさん、怒っていますか?
アキ「当然だ! 折角! 折角のチャンスだったのに! まったく私たちの仲は進展していないではないか!」
で、でも・・・それはリュウトが逃げたからであって・・・ご、ごめんなさ~い!
アキ「待て! 逃がさんぞ!!」
メイ「あらあら、仲のいいこと。では今回の予告は私が・・・戦いに赴く前の僅かな休息。一夜の平和を前に彼らは何を語るのでしょう。そして、アキは! アシュラは! レミーは! 今度の旅についていくのでしょうか!? 次章竜神伝説第二部二章『語らいの夜』アキをからかう権利は私だけのものですよ?」




