5話 「竜神剣の秘密」
火の手が上がる森を駆け抜け、俺はエルファリアへと急ぐ。少なくても百年前はエルファリアには多くの兵がアキたちを守っていた。それをここまで窮地に追い込むとは・・・一体何者が攻め入ったというのだろう。俺を襲ってきた奴といい、どうやら今回の戦いも一筋縄ではいかなさそうだ。
火の道に導かれるようにたどり着いたエルファリア。ここが・・・ここが本当に美しかったあの町なのだろうか? そして・・・
「ケケケー、やはりあの方が言ったとおりだ。もし、第一作戦が失敗したなら竜神は必ずここに現れる!」
・・・明らかに俺を襲ったのと同じ種族の群れ。羽根を持った硬い石のような体を持った魔族・・・こいつらは一体何者だ? いや、そんなことはどうでもいい。
「・・・・・け!」
「ケケケー? ・・・なんだって?」
「どけって言ってるんだよ!」
正義も悪も・・・陰謀も野望も今は関係ない。アキを助ける! 邪魔をするって言うなら全て切り捨ててやる!
「け、ケケケー! か、かかれえ~!」
俺に話しかけてきた奴が一軍のリーダーだったのだろう。この一言を皮切りに周辺の奴らが一斉に飛び掛ってくる。悪いが、俺は竜神になる前から自分よりも強い魔物の群れや大人たちと戦ってきたんだ。数が多かろうと、これほど力の差のある相手に負けるような技量ではないぞ? そして
「・・・・・」
言葉を発する意味はない。説得? 無駄な殺生? 関係ない。俺に必要なのは時間だ。1秒ごとにアキを助けられる目は減り続ける。こんな奴ら相手に時を浪費するわけにはいかないんだよ! 同時に飛び掛っているように見えてもほんの僅かに時間差はある。それにあわせて、早い順に剣を合わせるだけで全ては終わる。
「け・・・ケケ、ば、馬鹿な。アレだけの数を・・・ぐひゃ!」
呆然としていたリーダー(と思われる奴を)すり抜け様に切り伏せる。目指すは唯一つ! アキがいるだろうエルファリア宮殿のみ!
「アキ! どこにいる!」
飛び込んだ宮殿内部。ここに来るまでに何体の魔族を切り捨ててきたのだろう。俺の体は彼らの血でべっとりと濡れている。客観的に見たら俺の方が悪鬼羅刹というところだろうな。
「ケケー! よく来たな! 竜神よ!」
また貴様らか! ・・・いや、今までの奴らよりも体が二回りほど大きい? 関係ないか。こいつが何者であろうともアキに害をなすというのなら切り伏せる!
「貴様が神というなら俺は王! ガーゴイルキング様だ!」
ガーゴイル? 聞いたことがあるな。たしか古い石像に邪悪が宿って生まれた悪魔だったはず。悪魔としてはかなり下の方のレベルだったような?
「そして・・・あれを見ろ!!」
・・・っ! ガーゴイルキングとやらが指差した場所にあったのは3本の突き立てられた十字架。囚われているのはおそらくアキを助けに来てくれたのだろうママナとある意味当然のメイさん・・・そしてアキだ。
「あはっ! やっぱりリュウトは無事だった。」
「リュウト・・・殿。申し訳ありません、女王様をお守りできませんでした。」
「リュウト? 本物のリュウト? 会いたかった。会いたかったよぉ!」
発言は上から順にママナ、メイ、アキである。そして、彼女らの後ろ・・・十字架の後ろに潜んでいたガーゴイルが後ろから自分の武器を彼女らの喉元に当てる。人質って言うわけか。となると次の発言も予想がつくな。
「ケケー! こいつらを助けたければ武器を手放せ!」
・・・こうまで予想通りだと逆に清々しいな。一つ・・・助ける方法もあるが、隙をつかないとアキたちも傷つけられてしまう。なにより、今回も成功するとは・・・。
「ケケー! 早くしろ!」
仕方ない。俺は竜神剣を10mほど前に投げ捨てる。痛いほどの静寂の中カランコロンと竜神剣が転がる音だけが響き渡る。
「ケケー! ものども・・・やれ!」
たちまち現れるガーゴイルの大群。いったいどこにこんな数が潜んでいたんだか。・・・抵抗をすれば、アキたちは殺される。かといって無抵抗で俺が殺されると、その後でアキたちが・・・ってことになるんだよな。どうする?
「コラー! リュウト、ちゃんと戦いなさいよ!」
無抵抗の振りをしながら致命傷になる箇所だけははずしているものの。見た目は切り傷がどんどん増え、血だらけになっていってる(元々返り血がべったりだったけど)のを見てママナが声をあげる。
「リュウト・・・・殿・・・。」
今にも消え入りそうな、そして悔しそうなメイさんの声が聞こえる。・・・その声を聞きながら俺は前のめりに倒れる。
「いや~!! そんなのないよ! 折角また会えたのに! ねぇ、お願い。立って、戦って・・・生きて~~~!!!」
アキの涙声が聞こえる。俺はまた、泣かしてしまったのか? ・・・だが、俺にはこの手しか思いつかないんだ。
「ケケー! もう大丈夫だろう。おまえたちも参加して来い!」
ガーゴイルキングがアキたちの後ろにいたガーゴイル三匹も俺の攻撃に回す。かなり危険な賭けだったが・・・どうやら俺の勝ちみたいだな!
アキたちのマークを俺に十分にひきつけた後、俺は腕の力だけで回転ジャンプしながら周囲のガーゴイルを蹴り倒し、即座に竜神剣を拾いにいく。
「ケケー!?・・・ま、まだそんな余力が!?」
余力? あるに決まっている。倒れたのは演技なんだから。そしてガーゴイルキングが慌ててアキたちの背後に回りこんだのが見えた。・・・頼むぞ、竜神剣・・・アキを守る為に! 俺の予想が当たっていればお前にはその力があるはずだ!
「伸びろ! 竜神剣! 奴に向かって!!」
俺の言葉を聞き入れ、ガーゴイルキングに向かって真っ直ぐに伸びていく竜神剣。先が槍状になっているあたりが芸が細かいというか・・・。そして、竜神剣はガーゴイルキングを貫く・・・軌道上のアキもろとも。
「け、ケケ・・・ば、馬鹿な。女もろとも貫くとは・・・ゲハァ!」
「・・・悪いな。もろともじゃない。貫いたのは・・・お前だけだ。」
血反吐を吐きながら、絶命するガーゴイルキング・・・まずいな、ちょっとアキを汚してしまったか?
「へっ!?・・・あ、あれ?私・・・なんともない?」
自分が無事だっていうのが不思議そうにするアキ。王が倒れたとこで他のガーゴイルは逃げていったことだし、ついでに三人の十字架も壊しておこうか。
「し、信じられません。私たちを傷つけずに背後の十字架だけ切るなんて・・・」
「私が前に斬られたときもそうだったけど・・・・その剣っていったい?」
メイさんとママナも不思議そうだ。・・・んじゃ、種明かしと行こうか。もっとも俺の知っていることもたぶんそうだろうっていうだけなんだけどな。
「ママナ、お前も以前斬られた時、体内の機械だけ斬れていてお前は傷一つつかなかっただろ?」
「うん、リュウトはその理由わかるの?」
好奇心いっぱいの目で問いかけるママナ。
「わかるっていうよりは、こうとしか考えれないってところだな。竜神剣が普通の剣・・・実体を持った剣ならこんなことはありえないのさ。」
うんうん・・・とうなずいていたママナは
「ん?・・・ちょ、ちょっと待って!? じゃあ、竜神剣は・・・まさか!」
どうやら気づいたようだな。もっとも他の答えはありえないのだが
「そう、実体を持たない剣・・・精神剣だろうな。特性は斬る対象を選ぶ・・・かな?」
精神剣。それは使い手が自身の精神力で創り出す剣の総称。その能力は様々、普通の剣と変らぬものから精神を攻撃するものまである。
「かな? って確証もなしでやったの!? それにおかしいよ! 精神剣は作り手が持っていないとすぐに消滅してしまうはずだよ。どんなに長くても・・・」
ママナがいうとおりだ。・・・絶対アキを傷つけないという確証がなかったのも、精神剣の特性も。
「1日・・・それ以上持つ精神剣は聞いたことがないな。だが、実体剣だというのはさらにありえない。さっきは変形までしただろ? ・・・俺の予想では、こいつは個人の精神で創りだされたんじゃないんだよ。もっと大きな概念で創られた剣。ひょっとしたら、作り手なんていないのかも知れないな。」
完全に俺の予想に過ぎない。だが、これがもっともしっくりくるのも事実だ。そして、それはこの竜神剣という剣が常識という枠を遥かに超えた怪物であるということでもある。変形能力なんかは精神剣によくある能力に過ぎないが、他にも特異な能力があるのではと思う。
「そんなこと・・・そんなことどうでもいい!」
突然大声を上げたのはアキ。元気そうでなによりだが・・・どうしたのかな?
「リュウト・・・会いたかった。会いたかったよ~!」
と抱きついてくるアキ。って、ちょっと待てよ!
「おいおい、俺は今血まみれで・・・。汚れてしまうぞ?」
致命になる傷は一つもないし、見よう見まねで使った回復魔法もあるから傷は問題ない。そもそも、俺の体を濡らしている血が俺のものと魔族のものどっちが多いかもわからないが、俺が血まみれなことは変らない。
「関係ない! 関係ないもん!」
結局、アキはしばらくのあいだ俺に抱きついていたのだった。
一部の時に毎回倒れていたリュウトにしては今回はかっこよくアキを助け出しました!
アキ「・・・何故、私の告白シーンは今回入っていないんだ?」
あ・・・えっとぉ~、一話の中に見所となるところが複数あるというのも・・・。今回はリュウトの活躍と竜神剣の秘密をちょっとで十分かな? ってことです。
アキ「ふむ、ならば次回はちゃんとあるんだろうな? そして私とリュウトは恋人同士になるのだろうな?」
え、えっと・・・それは・・・ ・・・で、では次回をお楽しみに!
アキ「待て! それは一体どういう意味だ!」




