4話 「時の流れ」
神殿を出て太陽の光をめいいっぱい浴びる。やはり、日の光は直接浴びた方が気持ちいいな。で、ここはどこだろう?
百年の月日が流れているのだから大分辺りは様変わりしているのだろうが、どことなく懐かしいこの雰囲気。木々の生え方は変っても地形は変っていないようだ・・・そして、この風も。ああ、ここはあの孤児院があったところか。俺がここの出身なのを知っているのはアキとママナぐらいのもの、おそらくアキあたりが広めたのだろう。
「悪い。アシュラ・・・ちょっと寄っていきたい場所があってな。」
この場所にいるのなら、当然俺には行く義務のある場所がある。
「好きにするがいい。・・・元々オレはあの魔族どもが貴様を壊すのを阻止しに来ただけだ。後のことなど知ったことではない。」
そんなことを言いながらも、どこに行くわけでもなく俺の後方にいてくれるのはアシュラ。素直じゃないところも本当に相変わらずだ。こいつらにとっては百年は微々たる物なのかもな。・・・アキ、あいつはどうしているだろう?
やってきたのは孤児院(とはもう呼べないのだろうか?)から少し離れたところにある高台。ここに眠る三人に会わずに立ち去るわけにはいかない。俺の記憶では真新しかった墓がすっかり苔むしているところに百年の歳月を感じる。
「ハナ、ケンタ・・・それに姉さん。久しぶりだね。・・・ごめん、いくらなんでも待たせすぎだよな。皆は俺が巻き込んでしまった。本当は人知れず邪竜神を倒して人知れず消えるはずだった。化け物と恐れられることになってもかまわないと思ったんだ・・・みんなを守れるなら。それが皆を犠牲にして、俺だけが生き残って、おまけにこんな神殿まで作られちまった。英雄? 俺は一体何をやってるんだろうなって感じだよ。」
うまく言葉が出てこない。石化しているときも意識がなかったわけじゃなかった。もし、再び動けるようになったら言わなければと思っていたこと・・・たくさんあったはずなのに、この場所に立つと何にも言えなくなっちまうんだな。皆は怒っているのだろか、それとも笑っているのだろうか。どちらもありえそうな気がして、どちらも俺の勝手な思いに過ぎなくて、言葉の代わりに出るのは涙だけだ。いや、百年前は出なかった涙。出せるだけ俺の中で多少は消化できたのかな?
「俺はまだ皆のところへはいけないらしい。俺が奪った命、俺の所為で死んでいった者たち・・・まだまだあの程度で許してくれは虫のいい話だったようだ。許してくれとは言わない、守ってくれなんてさらに言えない。でも・・・見ていてくれ。いつかきっと真に英雄と呼ばれるものになって見せるから。」
英雄になりたかったわけじゃない。先代に言い切ったようになれるはずがないと思っていた。・・・だが、何の因果か石化の憂き目に遭っている内に俺は伝説になってしまったようだな。ならば、守ろう。俺の伝説はリュウト=アルブレスのものではない。先代から受け継がれた竜神の名の伝説。受け継いだからには汚す訳にも行かないか。
「じゃあ、また来るよ。今度は百年も待たせないから・・・。」
(いつでも来なさい。私たちはあなたをずっと見てるから。)
(ばいば~い、リュウト(お)兄ちゃん!)
・・・今、聞こえた声は空耳か? 都合のいい幻聴か? それとも・・・。
「ふん、墓参りか。人間の考えることはどうもわからん。死者が何を感じるというのだか。」
言葉は辛辣。だが、アシュラの口調はいつもより柔らかく聞こえる。
「さぁな。感じるかもしれないし、感じないかもしれない。だが、そんなことはどうでもいいことさ。ここは自分の心と向き合う場所なんだ。」
そう、それでいい。こんな場所でなければ自分の心なんてそうは向き合えない俺なんだから。・・・そういえば
「なぁ、話は変るがお前はどうして今回のことを知ったんだ?」
アシュラが常に俺の近辺を警護してたとは思えないしな。偶然にしても出来すぎてるだろう?
「何、お節介で喧しい天使がこいつで連絡してきたのさ。」
ああ、レミーか。あいつならやりそうだ。どうやって危険を知ったのかはわからないけど・・・どこぞの念でも拾ったか? しかし、アシュラの持つアレは俺は見たことないんだが・・・レミーのことだ、旅の間使うの忘れていたな。連絡が自由につくっていうのはかなり便利なんだが。
「なるほどな。・・・で、そのさっきから音がしているんだが・・・また何か連絡が入っているんじゃないのか?」
俺の発言に苦虫をまとめて噛み潰したような顔をして、なにやら操作するアシュラ。・・・俺が言わなければ無視する気だったんだな。そして・・・
「アーくん! 大変! 大変なの~! あーちゃんを・・・・あーちゃんを助けて~~!!」
聞き捨てならない言葉・・・おい! レミー! アキが・・・アキが一体どうしたというんだ!?
「切れてしまったな。・・・だが、反応はこの付近から出ている。ちょうどあの森の中だな。」
森の中・・・・エルファリアか!
記憶を頼りにエルファリアを目指す俺とアシュラ。そして・・・
「レミー! 大丈夫か!?」
途中で傷だらけのレミーを発見したのだった。回復が得意なレミーが自分を癒せないほど・・・いや、使うのを忘れてるだけかもしれないが。
「えっ・・・リューくん? リューくんがどうして・・・。」
「今はそんなことどうでもいいだろ? それよりアキは!?」
「宮殿に・・・何者かがいきなり攻めてきたの・・・。」
レミーの言葉が終わらないうちに森から火の手が上がる。・・・あそこか。とはいえ、今のレミーをほうって置くわけにも連れて行くわけにもいかないな。
「アシュラ・・・レミーを任せてもいいか?」
「オレにお守りをやれというのか?」
「たまにはこんなのも楽しいだろう? レミーを守りながらの戦いというのもな・・・。頼む、アキは俺が助けに行かないと。」
何故そう思うのかはわからない。けれど、アキだけは俺の手で助けたかった。
「ふん、貸し一つ上乗せだ。いいな!」
「ああ、それでいい!」
アキ! 今助けに行くぞ!!
復活後一息ついたと思ったら、また一悶着。リュウトが落ち着けるのはもうしばらく先(3部あたり)になりそうです。
アキ「ああ~、次の話は私のピンチにリュウトがさっそうと現れてくれるのだな? あこがれの囚われのお姫様役。」
・・・現役の女王様にそのセリフをいわれてもな。まぁ、囚われの女王様よりお姫様のほうが響きがいいけど・・・。
アキ「そして・・・群がる悪鬼たちを蹴散らして、私を助け出してくれるのだな。」
・・・そんなカッコいい奴か? リュウトって? まぁ、大分強くはなったけど。
アキ「カッコいいとも!・・・ああ、そしてついに私が告白して結ばれるんだな。」
・・・まぁ、あとがきルームぐらいは好きに言わせてあげよう・・・。




