4話 「繰り返される歴史」
耳を劈く叫び声。手に伝わる肉の感触。なんど体験しても慣れることはなく、これが旅の終わりとわかってなお嫌悪感が先に来る。
「ぐふっ!・・・偽りの竜神に我が破れるとはな。」
苦しげに、だが確かにまだ息のある邪竜神。ここで剣をさらに押し込めば、それでこいつの命は尽きる。だが、俺にはそんな気力も体力も残ってはいなかった。・・・残っていたとしてもきっと俺には出来ないのだろうけどな。やはりアシュラがいうように俺は甘いのだろう。
「だが・・・我は一人では死なん! 冥土の旅路、貴様にも付き合ってもらうぞ!」
何!?・・・慌てて奴の体より剣を抜き、離れようと・・・あ、足が動かない!? 体が石化している!?
「我が力・・・ここまで衰えていたか。・・・あの頃の万全な力なら・・・いや、もういうまい。・・・・・・・・貴様は・・・永久に石・・・でいるが・・・・いい。」
石・・・石像か。まさかこんなところまで先代に習ってしまうとは思わなかったな。だけど、俺が守りたかったものは全部守った。もう、休んでもいいよな?
「リュウトよ・・・。」
アシュラか。・・・そうだな、お前とは戦う約束だった。それに飲む約束もあったな。
「悪いな、アシュラ。・・・お前の相手、してやれそうもないや。」
「ふざけるなよ。魔族の時は長い。数百年、いや数千年程度なら待っていてやる。・・・その程度の呪いさっさと解いてオレの前に立ちふさがれ。」
フッ、アシュラらしい励ましの言葉ってことかな?・・・そうだな、いつか再びお前の前に立てたら・・・いいな。
「リューくん・・・いやだよ。わたしの前からいなくなっちゃ駄目だよ。」
レミーもか・・・特に約束はない。だが、彼女が我慢しなくちゃいけない悲しいこと・・・また一つ増やしてしまうのかな?
「わたし・・・わたし! リューくんのこと、もう一人のお兄ちゃんのように思っていた。優しくてすっごく頼れてわたしを守ってくれて・・・わたしが間違ったことをすると優しく教えてくれるお兄ちゃん。もう、嫌だよ・・・お兄ちゃんがいなくなっちゃうのは。」
俺が・・・兄さんか。そんなこと思っていてくれたとは・・・。
「ごめんなレミー。俺はレミーの兄さんにはなってやれそうもない。・・・大丈夫、いつか本当の兄さんが帰ってくるさ。」
「嫌! 嫌だよ!!・・・わたし、我がままだもん! 一人じゃ嫌だよ! 二人・・・二人お兄ちゃんが欲しい!!」
ごめん・・・・本当にごめん。
「リュウト・・・そなたは・・・そなたは・・・」
アキ・・・キミとも約束していたな。絶対に死なないと、一緒にエルファリアに帰るって。・・・何故かな? 他の誰よりもキミと別れなくちゃいけないことが一番辛い。
「そなたは・・・そなたは約束を破るのか?・・・嫌だ! 私は、そなたに・・・・あなたに傍に居てもらいたい! だから! だから・・・・リュウトォォォ~~~~!!」
また・・・また泣かせてしまったな。俺は一体何回アキを泣かせたのだろう。その度にもう見たくないと思うのに、また俺の所為で泣かす。そんなことの繰り返しだった。
グラリグラリと地面が揺れる。・・・地震? そんなはずはない。この城は空に浮いているのだから。主たる邪竜神を失って崩壊しようとしているのか。まさにお約束って奴だな。
「嫌! 行かないで!! リュウト! リュウト~!!」
「ちっ! 貴様まで巻き込まれるつもりか!?」
揺れはどんどん激しくなり、天井が落ち、俺とアキたちの間の床は亀裂が入り抜ける。もうすでに空を飛べないアキには俺には近づけない。そんな状況下にもかかわらず、俺の元へ来ようとしたアキがアシュラに止められる。
「レミー! アシュラ! お願い! リュウトを・・・リュウトを助け出して!!」
助け出す・・・つまりもう殆ど石化した俺を運び出せって言うんだろう。気持ちは嬉しいがそれは無理だよ。
「ごめん、あーちゃん。わたしだって、わたしだって助けたいけどあの状態のリューくんと一緒にわたしは飛べないの。」
「オレも同じだ。」
「そ、そんな。もう、どうしょうもないの? お願い・・・誰か・・・誰か何とかしてよ~~~~!!!」
ありがとう。本当にありがとう。そして・・・ごめん。だから! 早く逃げてくれ! 俺は皆まで巻き込みたくはないんだ・・・。
リュウト・・・リュウトがいなくなっちゃう。リュウトが・・・私の前から消えちゃう。
嫌だよ・・・約束したもん。絶対二人でエルファリアに帰るって約束したもん! だから・・・だから!!
「リュウト! リュウト!!・・・私は! 私は!!」
嫌だ、誰かこの涙を止めて。どんどんリュウトが見えなくなっちゃうから! 私はリュウトのいない世界なんて欲しくない!
えっ!? 私の・・・私たちの周りを囲む光。・・・これは転移の光? そんな! 嘘よ!嘘!! だって、リュウトがそんな高等魔法使えるわけないじゃない!
次の瞬間に私の目に映ったのは綺麗な夕焼けに落ちていく空中城の姿だった。
アキたちは無事に転移しただろうか? しかし、まさか竜神剣が転移の魔法まで使えるとは思わなかったよ。本当だったらお前も俺のまきぞいにはしたくなかったんだがな。悪いが、俺に付き合ってくれ。
もはや、閉じることもできない目を心の中で閉じて思う。俺は守りたいものを守った。だからここで死んでもいいと思った。でも・・・これから訪れるだろう平和な世界でアキと笑い、レミーに困らされ、アシュラと死闘ではなく試合をする。それができたならきっと楽しいだろうと思う。俺の中にはこんなにも未練がある。・・・姉さんたちもそうだったのだろうか。俺が姉さんたちのところに行けるかはわからないけど、姉さんたちとの約束は果たせたよ・・・な?
「そうね。今はゆっくりお休みなさい。でも、まだまだ世界はあなたを必要としてる。そのときまではお姉ちゃんがあなたの傍にいてあげるわ。」
え~、今回はあとがきはありません。失礼します!!・・・・ひっ!
アキ「これは・・・これは一体どういうことなのじゃ?」
それは・・・その・・・・あの・・・・
レミー「ウフフ、サーくん? わたしも説明聞きたいな~?」
あはは・・・アキはともかくレミーにその邪悪な笑みは似合わないぞ~?
アキ「ほ~、つまり私は似合うと?・・・レミー、例の場所に連れて行くぞ!」
えっ?・・・ぼ、僕はどこに連れて行かれるので・・・?
レミー「ん~? 校門室・・・だっけ?」
校門?・・・・こうもん・・・・拷問か!?・・・嫌だ~! た~す~け~て~!




