6話 「ライバルと友人」
さて、そろそろ寝るか。・・・というわけにはいかなくなったようだな。
「どうした? 用があるなら出てこいよ・・・アシュラ。」
後方からかすかに感じる気配に声をかける。相手がアシュラでなければ魔物が夜襲でも仕掛けに来たと思うところだな。
「さすがだな。オレの気配に気がつくとは・・・。」
そんなことを言いながら、物音一つ立てずに茂みの中から出てくるアシュラ。・・・その方法教えて欲しいな。
「よく言うよ。あえて気がつくように近づいたんだろ? お前が本気で気配を隠していたら前からでも気づかなさそうだ。」
口調は冗談を言うように、けれどこれは本心だ。アシュラが暗殺をする気になったら俺は自分の死にすら気づかないのではと思う。
ニヤリと珍しくアシュラが愉快そうに笑う。こうしていると親しい友人って感じだな。・・・思えば俺には友と呼べる相手は殆どいない。アキやレミーを友と呼ぶのはちょっと違う気がするし、ママナぐらいなものなのだろうか?
「で、一体俺に何のようなんだ?」
「何、一人で飲むのも飽きたのでな、晩酌に誘いに来たのだ。飲めそうなのは貴様ぐらいだったからな。」
まぁ、他の三人は未成年だからな。もっとも、生きてる年数だけで言えば俺がもっとも少ないのだが。
※リュウト:(推定)20歳(20) アキ:1400歳(14) レミー:6400歳(16) アシュラ:9200歳(23) ママナ:5600歳(14)()内は人間でいうならの歳。
「俺もあまり強いわけじゃないんだがな。とはいえ、飲むのは久しぶりだ。付き合うよ。」
俺の言葉に僅かにアシュラの口元が緩む。喜んでいるととっていいのかな?・・・そして、アシュラがどこからともなく取り出したのは無知な俺から見ても年代物の高そうなワインだった。
「おいおい、随分いいワインだな。こんなものどこから持ってきたんだ?」
「ふん、この程度の品はオレの居城のワイン庫に腐るほどある。オレたち悪魔は魔界の自分の居城との直通路を開くことぐらいはできるのだ。」
便利なものだな。・・・しかし、このクラスのワインが腐るほどか。『闇の牙』なんて異名を持っていたことといい、魔界では結構いい身分なのかもな。
「どうした? 飲まんのか?」
「勿論飲むぞ。」
アシュラの身分は少々気になるところだが、そんなものはワインの味には関係ない。向こうがかってに振舞ってきてるんだ、楽しまなくては損というものである。
「なら、さっさとグラスを出せ。」
少々いらだったように、だが目と口元は何時になく穏やかにアシュラは言う。黙って差し出したグラス(というほど上品なものではないのだが)にコポコポとワインが注がれる。
お互い黙ってワインを飲む。・・・ペース的にはアシュラの方が早いんだが、なんかアシュラの飲み方の方が優雅と言うか絵になるというか・・・。これも育ちって奴なのかな? なんて余計なことを考えていると、
「リュウト・・・貴様は闇を駆逐しようとは思わんのか?」
こんな意外なことを問われたのだった。
「そんなことが出来ると思うほど自惚れてはいない。また、出来たとしてもする意味がないさ。」
光があれば必ず闇はある。また生きるものがいる限り、いかなる闇にも光を差そうとする者がいるだろう。どちらもあって当然のもの・・・どちらかを排除しようとしても無意味なのだ。
「リュウトよ・・・・古来より光と闇は闘争を繰り返してきた関係だ。貴様は光の竜の後継者。オレは闇の牙だ。・・・つまり」
「アシュラ、そんなものは俺たちには関係ないだろ? 昔は昔、他人は他人だ。不思議なものだ・・・俺たちはまだ出会って間もない。それもあんな死闘を繰り広げた間柄だ。だというのに、もはやかけがえなのない友である気がするよ。」
アシュラは俺をライバルだという。獲物だと言う・・・それならそれでいい。こいつとの勝負なら楽しんで戦えそうだ。だが、それ以前に俺にとっては友なのだ
「気楽な奴だ。その死闘をまたいつかする間柄だというのにな。」
「未来のことなどわからんさ。今はこうして酒を酌み交わす仲・・・それでいいさ。それにな、そんなことを言っているとまるで戦いたくないみたいに聞こえるぞ?」
「ふん、それこそ冗談ではないな。戦いこそオレの生きがい。オレの存在証明そのものだ。・・・貴様相手にこんな話をするとは、どうやら今夜は少々飲みすぎたらしい。」
よく言うよ。まったく酔っているようには見えないぞ。・・・正直俺はそろそろやば目だが・・・。
「なら、そろそろお開きにしようか? 明日はまさに激戦が待っているわけだしな。」
そうだな・・・と軽く言って立ち去ろうとするアシュラ。俺はその背中に、こう話しかける。
「なぁ、アシュラ・・・またいつかこんな風に飲もうな。」
「・・・いいだろう。覚えておいてやる。」
どうやら、負けられない理由がもう一つ増えたようだな。
ライバルであり、獲物であり、友でもある。奇妙な二人の関係です。
アキ「そんなことはどうでもよいが・・・さらに妙な要素がくっついたりしないだろうな?」
それは大丈夫。本編は元より番外編だろうが、あとがきだろうがこの作品にBL要素は皆無です。勿論GLも・・・
アキ「ならばよい。さて、次章で第一部は完結なのだろう? 最後の次回予告は私がやるのか?」
いえ・・・今回は二人でやってもらおうと思っています。
アキ「二人?・・・なっ!?」
リュウト「んじゃ、やるとするか!・・・ついに決戦の時来る! 合間見える竜神と邪竜神! その戦いの結末は!」
アキ「あ、えっと・・・・わ、私とリュウトの関係にも注目してくれ。じ、次章は竜神伝説第10章「決戦! 邪竜神!!」」
リュウト/アキ「俺(私)たちの冒険の一先ずの幕引きを見てくれ(見るがいい)!」




