4話 「せめてこれだけは」
ゴシゴシゴシ・・・必死に泉の水で顔を洗う。きっと今の私、涙で凄い顔をしてるだろうから。
私・・・何時からこんなになっちゃったのかな? 昔はちゃんと女王やれていたと思うんだけど・・・感情のコントロールぐらい出来たはずなのに。最近はどんどんコントロール出来なくなってきちゃってるの。
「ん? アキ、何をしてるんだ?」
きゃ! いつの間にか背後にいたリュウトが話しかけてくる。うう~、リュウトが近くにいてくれるのは嬉しいけどタイミングが悪いよ~。
「あ、いや・・・なんでもないぞ。それよりレミーたちはどうだった?」
あれ? リュウトがなんとも複雑そうな顔をしてる。なんかあったかな・・・そうね、あの二人が二人きりで何も起きない方が不思議ね。
「いや、それがな・・・妙に仲がいいというか、レミーにアシュラが振り回されているというか・・・まぁ、ともかくアシュラに任せておけばレミー被害は減るかな~と。」
リュウトもレミーには日ごろから苦労してるもんね。リュウトって孤児院育ちだからか何だかんだいって面倒見はいいのよね。私は一回、いえ二回ね・・・もの凄く怒ったおかげなのか(4章3話及び5話参照)被害は少ないんだけど、その度にリュウトをとられちゃうみたいで・・・わ、私ったら何を考えているんだろ!? 本当に感情のコントロールが出来なくなってる!
「ふむ、なぁ・・・アキ。」
えっ!? な、なんだろう?ちょっといつものリュウトと違うような気がする。ひょ、ひょっとしてレミーになんかいわれて・・・それで私にこ、告白とか!? いや~、ま、待ってよリュウト! 私、心の準備が! ああ、このまま失神しちゃいそう!
「その百面相も見てる方はなかなか面白いんだが、悩みがあるならいつでも聞くぞ?」
・・・ふっ、そうよね。私、何回リュウトに期待して裏切られているんだろ? 私、リュウトが恋愛においてそんな都合よく動いてくれるわけないって知っているはずなのにな。・・・でも、悩みの種の張本人がそんなこと言うかな~?
「いや、なんでもないぞ。・・・ああ! なんでもないとも!」
あ、いけない!? つ、つい大声が出ちゃった。リュウト完全に引いちゃってるし・・・え~ん、こんなことで印象悪くされたくないよ~!
「あ、いや・・・すまん。今のは俺が悪いんだよな? ほら、もうじき決戦だろ? だから思いつめているのかと、かってにな。」
そういいながら、リュウトが空を見上げる。ううん、見ているのは一点。ここからではまだ小さいけど、しっかりと見れる空中城。邪竜神の・・・本拠地。
「この旅は長かったような気もするし、短かったような気もする。だが、あそこに行けば俺たちの旅も終わりだ。・・・結果がどうなったとしてもな。」
「そ、そなたらしくもない。戦うからには勝つ。負けることなど考えぬ・・・それがそなただろう?」
本当は知っている。リュウトのそれは強がりだってこと。リーダーだから弱気なところは見せられない。だから私たちにも、そして自分自身にもそうやってはっぱをかける。・・・リュウトだって本当は怖いんだよね?
「そう・・・だったな。はは、弱気になるなんて俺らしくもない。まずはここで万全を整える。そんで、空中城に乗り込んで邪竜神を倒す! それで終わりだ!」
何で私はこうなんだろう? 今のはリュウトがはじめて見せてくれた弱音。・・・自分の弱いところを見せられるってのは信頼の証でもある。それを私は否定してしまった。
「すまないな・・・私は最後までそなたの役には立てなかった。迷惑のかけどおしだ。」
「おいおい、アキがいなければ俺はここにいないぞ? 俺こそアキをしっかり守ってやれなかった。・・・ごめんな。」
お互いに自分が責任を果たせなかったと思っている。それが今の私とリュウトの心の距離。お互いはこんなに近くにいるのに、なんで心はこんなに遠いのだろう。・・・いやだな。このまま別れたらそれっきりになってしまいそう。
「リュウト・・・一つ聞かせて欲しい。旅が終わったら、そなたはどうするのだ?」
旅が終わる・・・それはこのままなら私とリュウトが一緒に要られる時間の終わりも意味する。きっと、リュウトの中に私とエルファリアに帰る選択肢はない。
「旅が終わったらか。・・・そういえば考えたこともなかったな。俺の帰る場所はなくなっちまったし、新しい故郷を探してみるのも悪くないかな!」
明るく言うリュウトだけど本心は辛いはず。リュウトが帰るはずだった場所・・・あの孤児院はもうない。住んでいた人ももうこの世の人ではない。
「行く当てがないのなら、エルファリアに・・・私のところにくる気はないか? 私にはそなたが必要なのだ。」
聞き様によってはプロポーズと取られてもおかしくない言葉・・・というよりそういう意味も含んでいるんだけど、リュウトはきっと気がつかないだろう。それでもいいの・・・もうすこしだけ、もう少しだけ一緒に居て。私たちの心がもっと近くなる為の時間を、私があなたに告白する勇気を持つための時間をちょうだい。
「アキに俺が必要?・・・そうか、名だけの神の威光がどこまで役に立つかはわからないが、そんなことでいいなら今までの礼にもならないさ。」
やっぱり伝わってない。ちょっと残念だけど、実のところほっとしてる。・・・でも、たしかにリュウトの言うような意味もあるんだけど、そっちに気づいて私の思いに気づかないのは何でなんだろう?
「ありがとう。そなたは私の隣にいてくれればいい。・・・それだけでいいのじゃ。」
まぁいいわ。まずは時間を手に入れた。エルフの時は長い・・・竜神の時はさらに長い。ましてエルファリアは私のホームグランド。絶対に逃がさないんだからね! リュウト!!
アキの切ない思いです。でも、はっきりと告白すればそれで解決すると思うのですけどね。
アキ「そ、それが出来たら苦労せんのだ! もし告白して振られでもしたら・・・。」
リュウトがアキに告白されて振る姿は想像できないけど・・・あいつも自分の思いに気づいてないってだけだもんな。
アキ「ほ、本当か!?・・・そうか、リュウトは私を・・・ウフフ、リュウト~♪」
あ、アレ?・・・お~い、アキ~戻ってこ~い・・・だめか。まぁ、ここでの話や知識は本編には一切影響しないから問題ないけど。




