6話 「語った思いと語れなかった真実」
「リュウト・・・私は・・・・私は!」
ママナとはもう何年の付き合いだろう。俺があの孤児院に引き取れられてすぐのはずだから、10年近いんだろう。だからこいつの性格はよく知っている。普段はおちゃらけていても根は真面目で優しいやつなのだ。ママナが言いたいことは痛いほどわかる。
「私は・・・たくさん人間を殺した。」
「・・・ああ。」
「自分が助かりたくて・・・・痛い思いをしたくなくて・・・罪もない人をたくさん!・・・・たくさん!!」
そうだ・・・こいつはこういう奴だ。
「もういいさ・・・ママナが悪いんじゃない。」
そして、俺はそんな彼女にこんなことしか言ってやれなくて・・・
「いいわけないじゃない!・・・リュウトにとってはそれでいいのかもしれない。でも死んじゃった人・・・私が殺した人にとってはそれが全てだよ? 残された人にとっては私は仇なんだ。私・・・そんなの嫌だよ。あんなに一杯の人の恨みなんて抱えて生きていられないよ。だから、リュウトの手で始末して欲しい。リュウトの手でなら私、笑って逝けるから。」
「いやだ。・・・俺はママナに生きていて欲しい。だから、そんなことは出来ない。」
それは俺の本心。きっと優しさではなくてわがままと呼ばれるものだ。だからだろうな、ママナにぽろぽろと涙を流させてしまうのは
「なんでよ! リュウトだって・・・・リュウトだって! あのヘルを怨んでいたんでしょ? 大切な人の仇だって・・・ヘルを睨んでたリュウト、凄く怖い顔してた。あんな顔を・・・私が多くの人に向けられる・・・・怖い、私怖いよぉぉぉ!」
とうとうママナは俺の胸に顔をうずめ、泣き出してしまった。それは、きっと俺の心が弱いから。俺が理想ばっかり追って、そこに至る手段を知らない馬鹿だから・・・こうやって悲しみを振りまいてしまう。俺はあと何回、こんな悲しみを作り出せば理想への道を見つけられるんだろう?
「ママナ・・・キミはキミのために多くの人を殺した。・・・たしかにそれは許されないことかもしれない。」
ピクンとママナが震えるのが伝わってくる。これはママナの傷を抉る発言だ。・・・そして俺の傷も。俺が出来る限り見ないようにしていた現実。
「だけどな、俺もたくさん魔族を殺したぞ。数え切れないぐらい切り裂いてきた。・・・・俺の手は覚えている、彼らの肉を斬った感触を。俺の耳は忘れてはくれない、彼らの断末魔の叫びを・・・。」
人やエルフや・・・その他の生き物の命が魔族よりも尊い? そんなはずはない。どのような詭弁を用いても同じ命であることに変りはないのだ。
「で、でも! リュウトが斬ったのは人に害をなすものたちなのでしょう?・・・それに私の手も耳も同じように覚えている! ねえ、どうすれば忘れられるの!? 教えてよ!リュウト!!」
「どのような理由があろうとも奪った命の重さに変りはない。・・・そして、それを忘れる方法はない。忘れてはいけない。・・・なぁ、アシュラ?」
「ふん、オレは貴様らのようにグチグチ考えたりはしないがな。だが命を奪うとは、その者と周囲の者の時間を受け入れるということだ。それはどのような理由であっても戦い、勝った強者が持たねばならん覚悟だ。」
「時間を・・・受け入れる?」
下らんとばかりに席をはずしたアシュラの代わりに俺が続ける。
「生き残ったものは奪ってしまった彼らの時間の分まで生きようとしなくてはならない。ママナがここで安易に死を選んでしまったら、それこそ彼らの死に対する冒涜なのではないかな?・・・俺もママナもいつか怨みの刃の前に命を落とすかもしれない。でもな、そうなる前に僅かでもやらねばならないことがある。手にかけた命が人より多い俺たちだ。この世界で果たさねばならない使命は並大抵のものじゃないぞ?」
「・・・あはは! じゃあ、こんなところで悩んでいる暇なんてないね?・・・うん、私見つけるよ。リュウトとは違う方法、違う道で同じ理想を探してみる。だから競争だよ? どっちが先にたどり着くことが出来るか・・・。」
「ああ、俺も負けるつもりはないさ。」
その答えはきっとない。そうとわかってなお、この道を歩く。遥か先のゴールを目指し、一歩でも前に進む為に。それは希望という名の遅効性の毒。いつかきっと俺の命を奪うのだろう。・・・だが、この甘美な毒になら命を賭ける価値がある・・・そう思えるのだ。
「ねぇ、リューくん。・・・聞いて欲しいことがあるの。」
ママナとの会話を終えた俺におずおずと話しかけてきたのはレミー。こんな切り出し方をしてくるなんてレミーらしくもない。よくよく見れば表情も強張っているようだ。
「どうした、レミー? らしくもないな。普段なら、かってに話し出してるんじゃないか?」
レミーらしさを少しでも取り戻したくて、こんな軽口を言ってみる。俺の予想では『ム~、ひっどいよ~リューくん!』なんて言うと思っていたのだが・・・
「うん、そうだね。・・・・・あのね、わたしにはお兄ちゃんがいたんだ。」
意外な返答。そして、意外な内容だった。俺は黙って視線だけで先を促す。
「でもね・・・わたしが小さいころ行方不明になって・・・わたしずっと待ってたんだよ? でも、未だに帰ってこないの。」
レミーの話した内容としては今までで間違いなく一番重い話だ。だが、話はさらなる飛躍を見せることになる。
「ねぇ、リューくんは・・・やっぱり、あのヘルっていう人を・・・怨んでるんだよね。憎んでるんだよね・・・。」
「いや、今回戦ってみてよくわかった。やっぱり俺には怨みや憎しみで戦うのは性に合わない。許した・・・ってわけではないんだが、未来の悲劇を防ぐ為なら俺はいくらでも戦う。だが、過去の出来事の為に戦うのは・・・もう止めだ。あいつだけじゃなくて・・・な。」
姉さんがそれを許してくれるかどうかはわからない。死後の世界があるかどうかは関係ない・・・わかるのは、もう俺には姉さんの意思を確認するすべはないということだけだ。だからいいよな、姉さん? 俺は姉さんの復讐の為には戦わない。
「そっか・・・そうなんだ。うん、ありがとう。リューくん・・・じゃあね。」
「お、おい! レミー! 一体どういう・・・。」
話が繋がらない?・・・・・っ!?・・・いや、まさかな。だが、もしそうだとしたら俺はどうすればいい?・・・俺が選ばなければならない未来はなんだ?
くっ!?・・・ちょっと無理をしすぎたか? 急に眠気が・・・少し・・・眠っても・・・いい・・・・・・よな?
「ん? リュウト、どうした?・・・じょ、冗談にしては性質が悪いぞ!?・・・おい、リュウト! しっかりして! 目をあけて~~~!!」
ア・・・キ・・・・の・・・・・・声?
とりあえず・・・・無事戦いは終わったということにしておきましょう! っていうか、そういうことにしてください><
マリア「まぁ、今回は黙っておいてあげましょう。でも、次回の展開しだいじゃ・・・わかっているわよね?」
前から思っていたけど、僕に対するときとリュウトに対するときの言葉遣い・・・っていうか態度がまったく違う。
マリア「当然でしょ? それとも同じようにして欲しい? ん~♪ 作者くんも懲りないんだから♪ Aコース? Bコース? それともSコースかしら♪」
・・・勘弁してください。いつもどうりがいいです~><
マリア「うん、いいわよ。今日は機嫌がいいからね。・・・リュウトくん! お姉ちゃんずっと見守っていてあげるからしっかりやりなさい♪ でもお姉ちゃんを忘れたら許さないわよ?」
・・・はぁ、機嫌がよくて助かった。じゃあ、最後は任せたぞ・・・アシュラ!
アシュラ「やれやれ・・・神秘の泉のほとりで傷ついた体を癒すオレたち。そこはすでに空中城の間近・・・来るべき決戦に向けて奴らには心の準備もいるようだな。次章、竜神伝説9章『戦いの前に』悪魔の戦い・・・お前たちにも見せてやろう。」
アシュラ・・・次章は戦いはないぞ? さて、ある意味序章とでもいうべき第一部もそろそろクライマックスが見えてきましたよ! では、次章もよろしくお願いします♪




