4話 「手のとどく限り」
「エルフと天使の女かぁ・・・その血、その肉・・・うまいだろうなぁ。」
舌なめずりをするウェアウルフに露骨に嫌な顔を返すアキとレミー・・・まぁ、当然か。
「それに貴様は竜神とか言う奴だろ? 俺様のところまで情報が来てるぜ。・・・男の肉は硬いんだがレアな肉と言うのも食欲をそそるぜぇ。」
俺のことを知っている? 邪竜神の手のものか?・・・いや、奴らの手のものなら俺を竜神とは呼ばないはずだが?
「貴様、邪竜神とどんな関係だ!」
「あん? どんなもこんなもねえよ。邪竜神だか竜神だか知らねえが配下を名乗る女が一方的に情報をよこしただけだ。・・・あの女もなかなかうまそうだったんだがな。」
なるほど・・・そしてこれ以上の問答は意味を成さないな。食うものと食われるもの・・・和解の道はないのだろうか。
「お! ようやくやる気になったか。いいぜぇ、食前の運動といこうや!」
静かに剣を構える俺にそういい捨て、駆けるウェアウルフ!
「なっ! 速い!!」
「ム~! 照準が合わないよ~!」
後方支援タイプは当然、撃ってから当たるまでのタイムラグがある。その間、相手は勿論止まっていてはくれない。つまりは前衛が押し止めてなければ相手の動きを先読みしなければならないのだが、奴の動きはそう甘いものではない。
「! そこだ!!」
左から回り込むように接近してきたウェアウルフを切り払う。攻撃自体は強固な爪で防御され効いてはいないが、奴はいったん後方にとび、距離を置こうとする。無論、それを黙ってみている気はない! 一気に加速して切り込む!
「・・・チィ!」
通常なら身動きが出来る体勢ではなかった。だが、瞬発力に優れた狼の体はその状態から無理やり横にとび俺の攻撃をかわす。
「俺様のスピードについてくるとは・・・なかなかやるなぁ!」
にやりと楽しげに笑うウェアウルフ。それはそうだろう・・・奴はまだ本気じゃない。
キィィィン、キィィィィィン・・・と響く剣と爪の高速の衝撃音。闇夜に舞う二つの影、断続的に飛ぶかがり火と水しぶき・・・遠目から見るものがいたら演劇か何かかと思うのだろうか?
だが俺たちに余裕はない。俺とて研究ぐらいはしている・・・竜神剣の力だろうか、剣に込めた方が風の移動補助の効果は高い。先ほどから俺がおこなっている高速移動はこれによるものだ。まだ長時間続けられるものではない・・・。無論、光も混ぜればさらに速くなるのだが、消耗も加速的に増える。現状は切り札として取っておくしかない。
しばらく打ち合ったころ・・・変化は唐突に訪れた。
「!?・・・てめぇ、逃げるんじゃねぇ!」
「ヒッ!・・・いやぁぁぁぁ!!」
戦場から逃げ出そうとしたアイカちゃんにウェアウルフが迫る。何故? 彼女は命を惜しんで逃げ出すようには見えなかった。まして何故このタイミングで?・・・疑問は多々ある。だが、今はそれを言っている場合ではない!
俺とウェアウルフ・・・そしてアイカちゃんの位置関係上、もうすでに間に合うタイミングではない。だが、俺は誓ったんだ! 俺が守れるものなどたかが知れている。・・・でも、そうであるからこそ! 手のとどくものは全て守りたいんだ!
風の力に光を混ぜる。加速的に速度が上がる・・・体のあちこちが軋む音がするが無視する!
そして絶対的な不利を覆して俺はほんの僅かにウェアウルフよりも早くアイカちゃんに到達した。出来るだけやさしく、けれど大きくアイカちゃんを押し飛ばす。多少の怪我はしたかもしれないが・・・今はそんなことを気にしてる暇はない。・・・そして、俺の視界は赤く染まった。
「馬鹿なやつめ・・・身代わりになったというわけか。」
俺の立っていたのはほんの一瞬前にアイカちゃんが立っていた場所・・・俺の首筋にウェアウルフの牙が深々と突き刺さっていた。
ヒロインを守って傷つくヒーロー。王道ですよね♪
アキ「ヒロインは私よ!・・・こほん、最近私の影が薄くないか?」
アキ、段々地が出てきたな。最近薄いというよりも一時期目立ちすぎてたが正しいのでは?
レミー「そうだよ! わたしなんかまったくだよ?」
レミーが目立つと大変なことになるからな・・・。しかし、リュウトの心配をしてる奴はいないのか?
アキ/レミー「「あっ!?」」
・・・リュウトも結構可哀想な奴かもな。




