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竜神伝説~リュウト=アルブレス冒険記~  作者: KAZ
6部8章『竜神の試練』
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8話 「砂時計が落ちきるまで」

 

「もう彼らは行ってしまいましたから大丈夫ですよ、ハザド様」


 1人ほど、ちょっぴり不満げな顔をしていましたが彼になだめられながら出て行きました。私が生前張っていた結界もありますから、彼らが故意に聞き耳でも立てていない限りは中の音は聞こえないでしょう


「うるせぇ、最期ぐれぇ格好つけさせろ。それと俺のことは様付けするなって言っただろうが」


 私たちの本体は今は石像です。魂を肉体に具現化させるのだって、その魂自体をすり減らす禁呪に近い技。ましてあれだけの戦いをし、魂を力に変換し、あれだけの一撃を受けた上で、残された魂の力さえも譲渡したのですから無事で済むはずがありません。後ろの本体である石像がひび割れているようにもう立っているだけの力すらないはずなのです


「最期ですからそれぐらいのワガママは許してください、ハザド様」


 私は今でもあなたの忠実な従者のつもりです。恋人となった後も、夫婦となった後もそれは変わりません。あの日、誓いの口づけを交わした日に確かに様ともう呼ぶなとは言われましたが、最期ぐらいは私の呼びたいように呼ばせてください


「けっ、立っていられねぇぐれえに疲弊しているのはお前も一緒だろうが。俺は1つでお前は2つだぜ」


「ええ、私は欲深いんです。知りませんでしたか? それとも・・・欲深い女はお嫌いですか?」


「ああ、きれぇだ・・・だが、お前だけは別だな、フェルナ」


 疲労と感動で震える足でハザド様の隣まで歩き、そこでストンと力が抜けて座り込んでしまった私の頭を撫でてくれる手が心地いい


「後悔はしてねぇよな?」


「しているわけないじゃないですか」


 私たちの魂はもうじき消えます。あの世とやらに行くこともないでしょう。それどころか生まれ変わることができるのかどうかもわかりません。でも、それでもいいのです。彼が・・・まだ幼く弱い竜神である彼が私たちの悲願を、呆れるほどの時を積み重ねた戦いの呪縛を解き放ってくれるというのならば


「いい目をしてやがった。相対するものの目を見て怖ぇと思ったのはいつ以来だろうな。ありゃあ、本当に自分の仲間のために命を放り投げられる奴の目だ。もっとも、周りの嬢ちゃんたちがそうはさせねぇだろうがよ」


「羨ましい・・・なんて言わせませんよ? あなただってそうだったではないですか」


 その声のちょっとだけ気分を悪くする。確かに、最後はあなたを先に逝かせてしまいましたが、私だって命を捨ててでも守りたいと思っていました。守ろうと覚悟していたというのにこの人は・・・


「何言ってやがる。仲間のために死ぬ何ざ、俺はごめんだね・・・てめぇの命よりも大事な奴はお前だけで十分だ。あいつみてぇに両手広げても抱えきれねぇ程に持つ気はねぇ」


 私もやはり女です。愛しい人にそう言ってもらえて嬉しくないはずがない。新たな竜神にはまだまだ不安がいっぱいあって、彼の後半の言葉はまさにその不安そのものだと理解しながらも緩む頬は引き締めようがありません


「彼はそれが異常なこととも思っていないようですけどね。少々、彼女たちが不憫にも思えます」


 私だったらきっと嫌です。たとえ、恋愛という感情を持っていないと分かっていても、自分が愛しいと思っている男が他の女も命がけで守ろうとしている様も、他の女を助けるために愛しい人が命の危機にさらされるのも、きっとそんなものを見せられたら狂ってしまうのではないかというほど叫んでしまう自分が想像できる


「くくく、あいつのこれからを見ていられたらいろいろと面白ぇものが見れるんだろうがよ、見れねぇのが少々残念だな。ま、そのへんは奴の業だ。てめぇで何とかするだろうぜ。俺ならば、そんな修羅場はごめんだがな」


 そうでしょうね。なにせ、あのサキュバスまで虜にしているとなれば、相当な修羅場になるでしょうから。昔、ハザド様をも誘惑してきたときは殺してしまおうと思ったものですが、現状を見ると生きていてよかったとも思うから不思議なものです。もっとも、彼にとってはどうだかわかりませんが


「あの淫魔が俺たちに頼み事をするって言うんだから世の中っていうのはわからねぇ」


「ええ、新たな竜神に戦い勝利するための力を与えて欲しいだなんて。それも彼女の、そして私たちの願いをかなえる最後のチャンスだからすべてを譲って欲しいなどと言われたときは長く生きすぎて狂ってしまわれたのかと思いました」


「くく、ちげぇねぇ」


 彼女が何を持って最後のチャンスと言ったのかはわかりません。けれど、確かに希望を持てる子だった。そして彼の行先に幸運があって欲しいとは願いますが、私たちに出来ることはもうありません。確かにそれは少々悔しいものですね


「ハザド様、1つだけ・・・1つだけお願いをしてもいいですか?」


「なんだ? 言ってみろ」


 浅ましい願いだと思う。こんなことは夫婦で、そして恋人である前に従者であることを誓ったこの身に許されないと思います。でも、この人が私を置いて逝ってしまったときに願っておけばよかったと思ったことでもあるのです


「抱きしめてください。私たちの魂が消えるその最期の時まで、ハザド様の胸に私を力いっぱい抱きしめてください」


 返事はもらえませんでした。その代わりに力いっぱい、けれど痛みを感じないように抱きしめてくれました。その感触が、彼の体温と匂いが、そして抱きしめられているという事実が、その全てが私を幸せという海に飲み込んでいきます。ほんのわずかに感じていた消滅の恐怖さえももうありません


「悪ぃなぁ、俺がお前を竜神に選んじまったせいで迷惑をかけた」


「本当ですよ。随分と苦労しました。そもそも、ハザド様と結婚するまでアルバードの名すら持っていなかった女に力の継承を試みるなんて人はあなたぐらいなものです」


 初代様の血を引くものでなければ、竜神の力の継承はできない。失敗した場合どうなるのかはわかりませんが、生まれつきアルバードの名を持たないものに継承しようだなんて前代未聞です。おそらく、それこそが女の竜神が少ない理由なのでしょうが


「お前以外に譲ってもいいと思える奴がいなかった・・・それにお前を残して死んじまうわびに何かを残してやりたかった。それがお前を不幸にしちまうなんてなぁ」


「ハザド様・・・いえ、不幸だと思ったことはありません。あの日、あなたが新たな竜神となった日、従者にしてもらおうと男女問わずにたくさんの竜たちが集まった中からハザド様が私を選んでくださったその日から私はずっと幸せでした。私の幸せはハザド様、あなたがいつでも運んできてくれた」


 もうスムーズに動かない体ですが、ハザド様の背中に腕を回します。魂を具現化した体が透き通りだしているのはもう残量が少ないのでしょう。砂時計の砂が落ちきるその時はもう近いのです。すでにわたしたちの本体であった石像はひび割れ、原型さえ残さずに崩れ落ちています。消滅を食い止める手段どころか時間を伸ばすことすらも既に不可能でしょう


「ハザド様、私はもう離れたくありません。もう2度と離れません」


「安心しろ。俺も同じだ」


 愛する人が近くにいる。もう離さないと言ってくれる。それがどれだけ幸せなことか


「もし、万が一、この身が生まれ変わることができたならば、必ずハザド様を探します。絶対に見つけてみせますから」


「馬鹿野郎。もう離さねぇって言っただろうが。探す必要なんざねぇ。探さなきゃいけねぇような場所に勝手に離れるんじゃねぇよ。お前が生まれ変わることができて、気がついたならば、その家の窓の外を見てみろ。俺は必ずそこにいるからよ、約束だ」


 ああ、こんな幸せがあってもいいのでしょうか? もう、私の体もハザド様の体もほとんど見えないほどに薄くなってしまっている。確かに抱き合っているはずなのに感触も体温も感じません。でも、それでも私が幸せであることは疑いようもなくて・・・いっそのこと溶け合って混じり合ってしまえばいいとさえ思います。そうすれば、確実にもう2度と離れることはないのですから。砂時計の最後の砂がいま落ちる・・・ハザド様、私は・・・幸せ・・・です・・・


最期は2人の竜神ではなく1組の夫婦として、そして出会った時のままの主従として・・・彼らの物語もいつか綴ってみたいですが、竜神はリュウト込みで100人いますからなかなか全部は大変なんですよね。設定とストーリー骨格は全員分あるんですが・・・


レーチェル「そんなものを書いている暇があったら私の話を書きなさい」


・・・いや、あなたとライオスの冒険は初代に次ぐレベルでネタバレの宝庫ですしね? そのうち書きたいとは思ってますが、本編がもっと進まないと書けないというか


レーチェル「確かに私の時代のはいろいろつながっているけどね。というか、つなげているのがいるというべきよね~」


今回も地味に出ているサキュバスによってですね。まぁ、彼女と竜神剣が最大のキーパーソンですからね、今回の物語の


レーチェル「あら? 私だって負けていないわよ? そもそも私とレミーの関係は・・・」


わーわーわー! そこらへんも結構なレベルのネタバレですから!! まぁ、血縁関係ではないのは彼女の両親の種族からもわかってもらえるでしょうが


レーチェル「ふふふ、さぁ、いろいろと想像してみて頂戴。それほど意外と言うほどのものではないから予想しやすいわよ~♪ あとは私の活躍にも期待かしら?」


活躍というよりも暗躍・・・やっぱり暗躍三人おば・・・


レーチェル「(ギロッ)」


え、えっと~、そんなところで今回はお開きです。次回は・・・ああ、次回のあとがきは僕は生き残れるのかな?


レーチェル「それはあの子達次第ね。画面の前のみんなは次回もあとがきじゃなくて本編を楽しむのよ~♪」

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