6話 「誇りのありか」
相手は2人。これが一般的な人間だったら100兆いようとも無傷で倒せる。1人ほど例外もいるが、大天使以下のクラスの天使1兆が相手でも敵ではないだろう。だが今回の相手は竜神だ。力を譲り渡している関係上、パワーだけならば俺が上かもしれないが、経験まで含めたら格上と思われる。それが2人・・・か。うだうだ考えていてもしょうがない! こういう時は下手に小細工をするよりも
「竜神流・・・刹那飛翔閃!」
単純な速度による攻撃。単純であるがゆえに防御法もそれなりに単純にならざるを得ない。それがゆえに
「てめぇ、俺たちを舐めてやがるのか? 経験豊富な技巧者には下手に小細工するよりもいいっていうのはわかる。俺たちの実力を図るための最初の一手だってぇ言うこともな。だがよ! いくらなんでもそんな遅ぇ振りじゃ話になんねぇだろうがよ!」
ハザドはその2本の指で俺の剣をしっかりと挟みとっている。真剣白刃取り、それは見た目ほど容易な技ではない。度胸は言うまでもないが、剣速を見る目もタイミングを図る経験もそれを正確に行う技量もいる。そして、相手の剣速を押さえ込むだけのパワーもだ。俺も竜族の血を引くものとして純血種ほどではないが、攻撃速度は移動速度の倍数で決まる。今の攻撃ならば光速の1500倍程度の速度は出ているはずなんだけどな
「ほらよ。甘さを思い知った駄賃だ、受け取っていきやがれ」
小細工なしには小細工なしでお返しとでも言うのか、なんの変哲もないストレートパンチ。おまけのように一応は顎をえぐるようには打っているが、そこらへんは俺も人間とは身体構造が違うからさして問題はない。もっとも単純な威力の方は一撃で惑星どころか銀河系を消滅させられるレベルでそこそこに痛い
「っ! 竜神流・・・竜爪閃!?」
殴られ、吹き飛んだ力をそのまま利用して、というよりも力をわずかでも別方向に逃がすための10mほどの軽いジャンプ。そのまま間髪いれずに攻撃に移ろうとしたんだが
「遅すぎますよ。せめて吹き飛びながら攻撃するぐらいはして欲しいものです」
飛んできたのはフェルナの強烈な尾の一撃。純血種は人の形も取れるとは知っていたが、どうやら一部を竜や人に変化させるということもできるらしい。普通、そんなことをすれば重心のバランスが崩れて戦いどころではない気もするんだが、俺を含めて竜族の重心は常に体の中央にある。便利だとは思っていたが、どうやらこの変形機能を効率的に使うために培われた能力だったみたいだな
吹き飛ばされながらも体を反転させ、壁を蹴って飛ぶことでかろうじて叩きつけられることは回避する。本当だったら、その前に空気をけって抜け出したかったところだが、そこまで贅沢を言っていられる状況じゃない。壁を蹴ったときに足首の関節が壊れたようだが、その程度で動けなくなるようなやわな体はしていないし、その程度の痛みでどうこうなるようなやわな戦場も経験していない。だが
「攻め手が・・・ないか」
どんな攻撃をしても全てはじかれる気がする。しかし、何故だ? 竜神本体の力を持っていたはずの邪竜神はもっとずっと弱かった。奴が1万年の封印で弱体化したというならば、この2人はもっと長いブランクがあるはずだ・・・まさか!? いや、いま考えることじゃないか。いま必要なことはこの2人が俺以上の強者であるという事実とそれを打ち破る手段と・・・覚悟だけだな
「まさか、今更卑怯なんて言わねぇだろうな?」
「戦いに卑怯なんて概念があるのか? あるのは俺が勝つか、それとも負けるか、2つに1つ。ただそれだけだろう?」
「ふふ、確かにその通りです。そうでなければ竜神は名乗れません」
竜神が竜神として戦う場は試合じゃない。そして、戦争ですらありはしない。その戦いはそのまま世界の命運をかけた死闘だ。勝つのか負けるのか、生き残るのか滅びるのか。答えはそこにだけしかなく、竜神を名乗る以上はそれを覚悟しなければならない。歴代の先人がそれをやってきたように・・・今、2人が確かにその魂をかけているように! 俺もその全てをかける覚悟が確かに必要なんだ
「竜神流・・・風奏刃」
これで十分かと言われれば間違いなく不足している。だが、臆している暇はないんでな。奇策は不意をつけてこそ意味がある。小細工をするにしてもまず一撃ひるませるぐらいはしておかないと意味がない
「ふん、1つ教えておいてやる。てめぇの剣は軽い。それはな、てめぇが剣に込めている思いが軽いからだ。てめぇも竜神名乗るならば、もっと気合入れてかかって来い! てめぇはなんのために戦う! てめぇの誇りはどこにある!」
その一撃はまともにあたってなおハザルにろくにダメージを与えるに足りなかった。カウンターの一撃で吹き飛ばされつつ思う。俺はまだ小細工に頼っていたみたいだなと
「ふん、動けねぇか。どうやら、出来損ないのクズだったようだな」
「確かに、あの程度で倒れるようでは竜神の名を名乗るには力不足がすぎるようですね」
うつ伏せに倒れた俺の頭を踏みつけているのはおそらくハザドの方だろう。フェルナの呆れたような声も聞こえるが少し待てと言いたい。まだ、俺は死んではいない。生きている限りはこの戦いは負けではないはずだ
「リュウトが! リュウトが負けるもんか!」
「そうだな。わたしもあいつは存外にしぶといと見ているが」
「ふむ、我もそう思うぞ。たまに我が君はアンデッドではないのかと疑いたくなる時があるからのぅ」
「リュウトくん、遠慮はいらないわ・・・やっちゃいなさい!」
はは、4人とも勝手なことを言ってくれる・・・嬉しいじゃないか! くだらないとばかりに離れていこうとするハザドの足を右腕を伸ばして掴む。伝わってくる感触からして、驚愕の演技ってところかな? そっちだって狙ってやっているだろうに
「はっ! その死に体でまだ戦うか? 一応聞いておいてやる。てめぇはなんのために戦う? 何のために覚悟を決めた? その誇りはどこにある!」
決まっている。俺の戦う理由なんて、初めて剣を持った時からなんら変わっていない
「仲間を守るために戦う! 仲間を守るために死ぬ! 何があっても仲間を守りきる思いこそが俺の誇りだ!!」
竜神の試練の前半部分、お楽しみいただけたでしょうか? さすがにかつての竜神相手となると一筋縄ではいかないようです
アシュラ「ククク、なかなか面白そうなことになっているな。そろそろオレの出番も近そうだ」
う、まぁ、確かに。基本的に戦いが苛烈になればなるほど楽しいのがアシュラだし・・・コイツの場合は単純にタイミング待ちというか・・・
アシュラ「ふん、どうせ戦うのならば死をとした楽しい戦いでなければつまらんからな」
相変わらず妙なところで意地っ張りというか・・・
アシュラ「それ以上くだらんことを言うと」
僕もこれ以上危険人物を増やしたくありませんので>< というわけで、次回はお久しぶりの本気モードのリュウトです。竜神剣がなくともやる時はやります主人公!
アシュラ「どの程度強くなったのかオレも楽しみにしておくとしよう」
では、皆様も引き続きリュウトの戦いを見守っていただけるようお願い申します




