2話 「拳、道を開いて」
1歩、その目の前にいる存在を打ち倒すべく俺が歩を踏む出すのとどっちが早かっただろうか? その巨大なスライムが自分の体を変形させて無数のパンチの雨を降らしてきたのは
「なるほど、厄介だな」
剣を振ること4度、飛ばした風の刃と合わせて30ほどの腕(?)を切り落とし、一先ずは自分と仲間の安全を確保しつつ切り込むべく走り抜けたのだが
「っ!? 本当に厄介だな」
後ろから飛んできたものに慌てて体を翻す。それはゆっくりと重力に従い落下していた切り捨てられたスライムの1部。まさか、切り離されても自由に動かせるとは思わなかった。そして、それはほんの数滴だけ俺の体を濡らし、本体へと戻っていく
「くっ、やっぱり酸か。普通の人間だったらこれだけで瞬時に跡形もなく溶けるかな? もっとも、俺を溶かすには不十分だが」
体液のかかったところがヒリヒリと痛む。勿論この程度の量ならば問題はないが、相手はあれだけの巨体だ。まともに受ければ大ダメージは免れないか。そして、それ以上に厄介なのは、普通に斬っただけでは効果らしい効果がないということだな
「ふむ、ならばこれならばどうかの? 『ブラッディクロー』」
カーミラが放ったのは名前のとおり血をイメージしたのだろう若干赤が混じった闇を爪から放つ技。部類としては俺の竜爪閃やアシュラの雷爪波と同じようなものなのだろうが、同時に5つを、それもひっかくようにすれば斬撃、突くようにすれば貫通と分けられるみたいだからより優秀か?
「ふむ、どちらも効かぬか。なかなかじゃのう」
その両パターンを試してみて効果がないというのにどことなく嬉しそうに笑うカーミラ。はぁ、彼女もどっちかというとアシュラタイプなのかもしれないな。だが、そんな余裕があだをなしたのか、スコ~ンとスライムが吐き出した何かを顔にぶつけられ
「つつ、少々油断が過ぎたようじゃのう・・・うぬ?」
恥ずかしげに顔を赤めながら、その吐き出されたものを見てカーミラが固まる。まぁ、あれは流石になぁ・・・ドロドロに溶けかけ、半分腐った生首っていうのは
「我にこのようなものを吐きつけるとは・・・ふざけておるのか!!」
あ、そっちのほうか。考えてみれば、その程度のものを怖がるような女の子らしい女の子はここにはいなかったな・・・っていくらなんでも放り投げるんじゃない! まぁ、これがレーチェルやメイあたりならばにっこり笑って踏み潰すだろうからまだマシか?
「何をしているのだ、お前たちは。こんなものはこうしてしまえばいいだろう。『妖氷の舞』!」
こちらはやはりいつの間にか裏に変わっていたユキ。舞を踊るようにくるくると移動をし、どうやら空間ごと凍らせているようだが・・・
「それも効いておらぬではないか」
「お前に言われる筋合いはない」
にやっと笑いながら話しかけたカーミラと自信満々だっただけに恥ずかしかったのだろう赤い顔のユキが強がりを言っているが、この2人はもともと知り合いだったみたいだから友人同士の軽口といったところだろう。だが実際問題として、このスライムの耐性はかなり厄介なことには変わらない
「それじゃあ、次は私ね!」
いや、姉さんはコイツの相手無理だろ?
「リュウトくん? その視線はなにかしら? あのね、お姉ちゃんにだってこういうことできるんだから! 『風の調べ』よ!」
・・・なぁ、姉さん?
「うぬぬぬ、なんかヌルヌルしていてつかみにくわね」
「ウナギか何かではないのじゃがのう」
姉さんが風属性なのは分かっていたけどさ、なんで風を操ってすることが相手の体を風で羽交い絞めにすることなんだ? っていうかよく、不完全ながらにスライムにかけているなぁ。だが、どう考えても決定打にはならない。実際に相手は不定形だから押さえ込まれていても他の部分を変形させて攻撃してきている。となると
「アイ、頼む」
「えっ、ぼぼぼ、ボク!? で、でもボクは・・・」
アイの武器は基本的に素手で殴ることだ。雷を飛ばすこともできなくはないが、おそらくはラインボルトを除くと出力的に効かないだろうことは想像に難くない。そして、いくらなんでも強酸のスライムを素手で殴れは無理な話だ
「ああ、だからコイツを使ってくれ」
ポンとアイに手渡したのはガントレットに当たる武器。いま即席で作ったのだが、すっぽりと手を覆い隠すオリハルコン製のこの武器ならば殴っても大丈夫なはずだ
「リュウト、これ・・・うん!」
なんか受け取ったアイがものすごく嬉しそうなんだが、アイも武器が欲しかったりしたのだろうか? だったら、早めに作っておくべきだったな
「スライムの懐までは俺が運ぶ。乗れ!」
「うん!」
アイが機嫌よさげに俺の背中に飛び乗ったのを確認して、スライムに突撃する。どうやら、こいつは本能的に自分に近寄ってくるものを優先して攻撃するみたいだな。明らかに今までよりも攻撃の頻度が高い
「アイ! お前は攻撃だけに集中していろよ」
「大丈夫、リュウトのことは信じている!」
あのときと同じように・・・続くアイの言葉に暖かいものを感じながら、攻撃をなぎ払っていく。今度は戻っていく体液にも十分に注意を払いながら
「アイ! 今だ!」
「任せて! ラインボルト・・・ラン!」
一撃、アイが攻撃を叩き込んだのを見て、バックステップで距離を取る。そこをすかさずアイが拳でマーキングした場所に電流を流す。さぁ、これでどうだ!?
「アイちゃん! リュウトくん、これって・・・」
「効いておるようじゃの」
「雷か・・・」
不定形にグニョグニョと動くことは変わらないが、その動きに今まであったような目的が感じられない。普通に考えればダメージに悶えているようだし、そうでなくても体を動かす障害になっていることは間違いない
「当たりだな。コイツの弱点は雷というわけだ」
俺の弱点が地属性であるように、殆どのものは1つは弱点となる属性を持っているもの。とりあえず、このメンバーが使える属性で助かったが
「今回は小娘に頼るしかなさそうじゃのう」
「小娘いうな! でもまっかせておいてよ! ボクだって・・・戦える!」
そうだ、みんなで戦えばいい。それぞれにできることを最大限にやるだけ。いつだって俺たちはそうやって勝ってきたのだから。今回だって、このメンバーだって同じことだ!
「さぁ、行くぞ! アイ、サポートは俺たちに任せろ!」
多くのRPGにおいて定番の雑魚スライム・・・けれど往年のファンタジーでは結構な強敵なんですよね
カーミラ「物理攻撃が効きにくいからのう。血も吸えぬし」
後半はあまり関係ない気もしますが。上位の方は魔法耐性があるケースも多いですし、武器だろうが鎧だろうが溶かして・・・R指定がつく作品だととんでもなことになることもありますが、この作品ではそんなことにはさすがにならないのでご安心を。もしくはそんな期待はご勘弁を
カーミラ「当たり前なのじゃ! 我たちがそんなことになるわけがなかろう。は、裸を見せるのは我が君にだけなのじゃ」
そこらへんの努力はそれぞれにやってください♪ まぁ、リュウトの裸を見た奴は多くても、リュウトに裸を見せた奴はたぶん・・・
マリア「私は見せたことあるわよ? お風呂に乱入したこともあるし」(HPの番外パラレル学園編より)
・・・寝ているリュウトを裸にひん剥いて軒下に吊るしたことがある人だからなぁ。そのぐらいのことは・・・って!(同じくHPの番外編 リュウトに突撃取材 及び 幸せのユートピア より)
カーミラ「ほほう? やはり、そなたとは決着をつけねばならぬようじゃのう」
マリア「いいわよ。お姉ちゃんだって強いんだから!」
あ~、巻き込まれないうちにお開きにしましょう。では、次回もよろしくお願いします~




