7話 「夜まで休憩(後偏)」
本当、何やっているのかしらね?
「そ、そのすまぬな。ついあまりの旨さにの・・・」
「気にするな。そんなに気に入ったなら、また飲ませてやるさ」
とか
「あ、ありがとうリュウト。その、ボク泳げないから・・・」
「気がついてよかったよ。ただ、あんまり心配かけさせないでくれよ?」
とか、あれって絶対本人分かっていないのよね。あんなことをあんな笑顔で言われた女の子の気持ちとか・・・まったく、どこでリュウトくんの教育失敗したんだろう。こんなことならば、私しか目に入らないようにしておくべきだったかしら
「リュウトくん、ちょっといいかな~?」
「な、なに? せ・・・じゃなくて姉さん」
ちょっと! 今、先生って言いかけたでしょう? なんでこのタイミングでそれが出かけるの! 生前から先生って呼ぶな! ってあんなに言い聞かせてたのに・・・先生じゃなくて、本当はあの頃から姉さんでもなくて、きっと名前で呼んで欲しかった
「ん~、リュ~ウ~トく~ん? 今、先生って言いかけなかった? 前から言ってたよね? 私はあなたに先生って呼ばれる歳じゃな~~~い! 私のことはお姉ちゃんって呼べ~~!」
「うわっ! 言ってない! まだ言ってないないから! ギブ! 本当にギブ!!」
今回は未遂ってことでCコースのチョークスリーパーだけにしてあげようかな? で、ちょっとだけ胸を当ててみたり、きゃ! ・・・うん、でもなんか懐かしいな。まだ、リュウトくんがちっちゃくて、危険な場所・・・には行っていた気もするけど、それでもあの私たちの家の周りで一生懸命木の棒振り回していた頃。アレ? そういえば・・・
「あ、あの、マリアさん?」
「ん? なにかな、アイちゃん」
もう、せっかく久しぶりにリュウトくんとスキンシップを取りながら、しんみりと昔を思い出していたんだから邪魔しないで欲しいな
「そ、それ以上やるとリュウト・・・死んじゃわない? 首も曲ちゃいけない方向に曲がっているような?」
「え? なんで??」
ほら、元気にパシパシ地面叩いているし、大丈夫よ。昔どうりならばもう少しすると、リュウトくんはスキンシップの嬉しさのあまりカクンと気を失うから、そこで終わりかな?
「あ~、なんていうか、リュウトの不死身の耐久性の秘密がわかった気がするよ」
穏やかな森、暖かな日差し。なんていうか世界が生きているって感じがします。すべてが死んでしまっているような真っ白な世界とは違って
「こんな世界もあったんですね。でも、ここに私がいてもいいんでしょうか?」
私は雪女。すべてを白い世界に覆い尽くす雪の化身。本当はこんな場所にいてはいけないのかもしれません
「キキッ?」
「あら、この子は?」
甲高い声に気づいて視線を下げるとそこにいたのは、茶色っぽい手のひらサイズでふさふさのしっぽをフリフリと動かして、可愛らしく小首をかしげながら、それでも一生懸命木の実をカリカリかじっている動物。私がいた、あの1年中雪に覆われたあの山にはこんな子はいなかったと思います。いえ、そもそもあそこには私以外の動くものはいませんでしたね
(・・・悪い、少しだけ交代してくれないか?)
「え? あ、はい。いいですよ」
珍しいことに、もう1人の私が交代を望んできました。でも、最近はお兄ちゃんと話をするときはたまに交代を望んでくれますから、ちょっとだけ嬉しいんです。だって、ずっと彼女は戦って私を守る以外には・・・あ、そういえば彼女には1つだけ趣味がありましたね。きっと、今回も
「ふふ、お前は可愛いな。もう少しだけ、動かずにいてくれ」
私は戦うことしかできぬ女。だが、それでも女ではあるからな。その、可愛らしいものは嫌いではない。せっかく見つけた可愛らしい珍しい生き物だ。この1度しか見られぬのではもったいない
「もう少し、もう少しだ。ふむ、なかなか可愛らしく出来たな」
強度を高め間違っても溶けぬようにしたために、氷の象にしては透き通ってはいないが、光の屈折さえも計算して色も本物らしく付けてみた氷の彫刻だ。ふふ、本物をそのまま凍らせたといっても信じる者がいそうな出来だ
「すまなかったな。では、私は戻る」
「もういいんですか? もう少し表で遊んでも良かったですのに・・・えっと、この作品はちゃんとコレクションボックスに入れておきますね」
いままでは花とか木とかたまにやってきて私たちを攻撃してきた人間さんの中から見た目だけは彼女好みの男性とかをモデルに作っていた氷の彫刻に新しいコレクションができたみたいですね。彼女は『私らしくない』なんていいますが、とっても素敵な趣味だと思うのです
「ん? ユキ、こんなところにいたのか? あんまり離れると危な・・・えっと、それは?」
「あ、お兄ちゃん! これがどうかしましたか?」
少しみんなと離れた場所にいたから、お兄ちゃんに心配をかけてしまったみたいです。でも、普段はお兄ちゃんが私たちに心配をかけているのですから、おあいこですよね?
「いや、まさか、生き物を・・・? あはは、そ、そんなわけないよな?」
「??」
でも、お兄ちゃんは何故か青い顔してお腹のあたりを抑えながら、フラフラと戻ってしまったのです。なにか悪いものでも食べてしまったのでしょうか?
「あれ、リュウトくん、どうしたの?」
気絶から覚めたリュウトくんはちょっと風にあたってくるって私のそばから離れて・・・何故か、余計に青ざめた顔で帰ってきた。そもそも、ここも屋外なのに、どこに風に当たりにってたのか知りたいところだけど
「あ、えっと、気にしないでくれ」
・・・リュウトくんにしては珍しく口ごもったわね? まぁ、いいわ。その代わり、さっき疑問に思ったことを答えてもらおうかな?
「ところでリュウトくん・・・あなたなんで本気で戦っていないの?」
「・・・あはは、姉さんにも気づかれたってことは、他のみんなにも気がつかれているかな?」
リュ~ウ~トく~ん? それはどう言う意味かな~? 確かに私は戦いはまだ慣れていないけどさ~
「だが、レーチェルの時と同じように戦ったらリデアが死んでしまうだろ? あれだって、結構気を遣いながらいろいろ試していたんだ。あ、もちろん、レーチェル戦の時の最後に使った力は俺も正体不明だから使えないんだが」
・・・へっ? いやいや、そんなところじゃなくて! 確かにリデアちゃんとの戦いの時に使っていた力って随分抑えられていたけど! そうじゃなくて!! ふぅ、ひょっとしたら本人も気がついていないの? そんなことってあるのかしら? だとしたらよっぽど
「あの竜神剣とかいう剣。剣としての相棒以上にリュウトくんには大切な存在ってことなのかな」
やだな、剣にまで嫉妬しちゃうなんて。だってリュウトくん・・・ずっと左手で剣を振ってた。リュウトくんの利き手は間違いなく右だったというのに
え~、やっぱり後編はこの2人。そして、やっぱり後編でも全く気も体も休まる暇のないリュウトでした
マリア「お姉ちゃんは普通にスキンシップしていただけよ! リュウトくんだってきっと昔を懐かしんでいたわ」
ユキ(裏)「私は可愛らしい生き物をモデルに氷の彫刻を作っただけだ」
・・・まぁ、たしかにユキのケースはリュウトの勘違いなだけなんですが、マリアの方は
マリア「あのぐらいに日常茶飯事だったわよ」
えっと手元の資料によれば・・・リュウトがマリアによって『心停止』に追い込まれた回数3000回超、10年間ですから確かにほぼ毎日のようにだったみたいですね(汗)
ユキ(表)「お兄ちゃんが昔言っていたっていう『人間は心臓が止まったぐらいじゃ死なない』っていうのは真実だったんですね。お兄ちゃんにとっては・・・」
毎日のように臨死体験していたわけですからねぇ・・・そりゃ、そのぐらいじゃ死なないという認識にもなるというものです。もっとも、竜族の力を得た今となっては本当にそんなことじゃ死なないんですけどねw さて、そんなこんなで次回はというと・・・
マリア「いつもどうり最後は向こう側の様子みたいね」
ユキ「あ、あのアキさんって方も次回は久々に出るみたいですよ」
というわけで次回も見ていただければ幸いです♪




