6話 「夜まで休憩(前偏)」
「さてと、さっさと出るとするか。ここに居る奴らを皆殺しにしていく趣味は無いしな」
我が君はそう笑いかける。本当はもっと辛いはずだし、ここにいる人間もリデアっていう子をその・・・お、犯した連中もまだまだいるはずだし、それこそ殺しても晴れないぐらいの怒りも溜め込んでいるだろう。それでも、無理にでもこうして笑えるところが我が君らしい
「じゃが我が君、砦を出たら少し休憩をするとしよう」
「ん? なにか問題でもあったか?」
「我が君よ、そなたバンパイアの王都に真昼間に尋ねるつもりか?」
力あるバンパイアならば昼でも問題なく活動できるとは言え、意味なく昼に活動している者はいない。足の遅いアイを私か我が君がおぶっていけば、王都などすぐ目の前じゃ。ここは夜まで休んだほうがよかろう。それに
「あ~、確かにそうだな。なら、砦を出たところでよさげなところを探すか」
我が君の手足はまだ凍りついたままじゃ。きっと、私たちを心配させまいと平気なふりをしているだけで、本来はとかし治療するほどの力さえもないほどに疲弊しているのじゃろう。まったく、そんな気を使われた方が私たちは心配するというのに
「・・・っ!」
見るがいい。そんな無理ばかりしているから凍った部分が裂けて・・・ああ、なんていい匂いなのじゃ。ポタポタと床に垂れる赤い液体。もったいないのじゃ。あれ一滴だけでも飲めればどれほど甘美な味がするのじゃろう
「ど、どうした? カーミラ??」
はっ!? わ、私としたことがつい我が君にすがりついてしまった。な、なんてみっともないことを・・・
「そ、そのじゃな。わ、我が君の血を飲んでみたいのじゃ。垂れてくる分だけ、垂れてくる分だけで良いのじゃ!」
「あ、ああ、そうか。カーミラもバンパイアだしな。だが、俺の血はかなり特殊らしいんだが、大丈夫か? その、何らかの副作用があるとか」
「だ、大丈夫じゃ! 我もバンパイアの一員、どんな血であろうと・・・あ、いやよほど質が悪かったり鮮度が悪かったりすれば腹を壊す程度はあるじゃろうが、こんな素晴らしい血でどうこうなることなどないのじゃ!」
血に特殊な力がある種族などかなりの数があるが、バンパイア族がそのような血を飲んで異常をきたしたなどという話は聞かぬ。それにじゃ我が君には言えぬが、これほどの血であればバンパイア族ならば少々の異常があらわれようとこぞって飲みたがるじゃろうな・・・誰にも渡す気は毛頭ないが
「ま、まぁ、問題がないならば俺は構わないが・・・舐められたぐらいじゃ眷属化はしないだろうし」
噛んだところで私がその気でなければせんがな。我が君を眷属にする気はもうないし、そもそもおそらくやろうとしたところで出来んじゃろうしなぁ。じゃが、それよりも
「本当か!? 本当じゃな!」
今はこの血を味わうことが先決なのじゃ。うう、こんなにも旨い血がこの世にあるとは思わなかったのじゃ~~!
な、なんだろう、あれ。普段はキリッとしていて、少し怖いぐらいのカーミラさんの顔がフニャフニャになっている。だからってボクはリュウトの血を飲みたいとは思わないけど。っていうか飲んだり食べたりするならリュウトの作った料理の方がずっといいし
「あ~、とりあえず気にしないでやってくれ。俺もよくわからん」
「そ、そうだね・・・ところでさ、話は変わるけどリデアってあんなに簡単に罠に引っかかるタイプだっけ?」
正直ボクとリデアの仲は悪い。だって、リデアはボクのことペッタンコって馬鹿にするし! でも、けして弱いとか単純とかっていうふうには思えないんだよね
「いや、普段のリデアだったらあそこまでは引っかからないだろうな。アレは俺がいろいろ小細工していたからだ」
「小細工?」
どっちかというとリュウトも力押しタイプだから、あまり小細工をって感じには見えないんだけどなぁ
「・・・なんか失礼なこと考えてないか? 俺だって結構見えないところで罠張っているんだぞ?」
「あはは、なんのことかな~。で、どんな小細工したの?」
ボクの言葉にほんのちょっとリュウトは考える。たぶん、ボクに言えるかどうかじゃなくて、ここに居るかもしれないママナやコーリンさんの偵察部隊を気にしているんだと思う
「そうだな、まぁ、これぐらいならば大丈夫だろう。俺の技にな、神気開放っていうのがある」
「神気開放?」
「内容的には名前のとおりさ。効果は脅しみたいなものか? 神属性の気で相手を一時的な恐慌状態に落とせるわけだ。特にリデアのように俺のサポート神なんて立場だったら効果的だろうな」
え~っと、要するに
「つまりは、それを断続的に使って罠に気がつかないようにしてたわけ? それに、最後のパニック状態を演出したのも」
「正解。あの時言ったようにあれがリデアの弱点であることは間違いないんだが、普通にしてたらあれぐらいじゃあそこまで動けなくなることはないさ。それに、予想外のできごとに動けなくなるのはリデアばかりの弱点じゃない。俺だってアイのとき・・・悪い」
リュウトは最後に口ごもって、謝った。ボクのときにリュウトが動けなくなったというのは、あの時のこと。ボクがリュウトの敵として出て行って、それを見てリュウトが動きを止めたのが決定的な隙だった
「あはは・・・そ、その、ボク水汲んでくるよ!」
ちょうどその時に耳に入った音。たぶん、近くに川でも流れているんだろう。ボクらしくもなくいたたまれなくなって、都合のいい言い訳でその音の方に駆けて行ったんだ
「お、おい! 水だったら俺がつくれば・・・まぁ、どう考えても俺のせいだよなぁ」
だからね、リュウトのそんな声にも気がつかなかったし、それに
「うわ~、川じゃなくて泉かな? ん、冷たくていい水。これなら今使う分ぐらいは本当に汲んでいってもいいかも・・・って、えっ?」
こういう時ってやっぱり注意力散漫になるのかな? いい水を汲もうとして上流に歩いて行って・・・足を滑らせて、ボクは泉の中へ・・・って、まずいよ~~~! ぼ、ボクは泳げないんだから~~! ああ、あんなに拷問受けて、そこからようやく立ち直って、これからはまたリュウトと一緒に旅を・・・罪を償えるかと思ってたのに、こんなところで溺れ死ぬなんて
「アイ! 大丈夫か?」
「えっ? リュウト・・・なんで?」
いくらボクの足がみんなに比べて遅いって言っても、ボクが1分かかるってことは普通の人ならば2時間は歩くぐらいの距離だよ!? 音なんて聞こえるわけが・・・
「あのなぁ、声も音も聞こえなくても、姿が見えないとしても、こんな近くにいる仲間の危機を見逃すほどほうけているつもりはないぞ。まぁ、ちょっとカーミラには悪いことしたかもしれないが」
クスッ、きっとまだリュウトにくっついてペロペロしていたカーミラを弾き飛ばしながら来てくれたんだろうね。ま、カーミラだって本当はとっくに止まっているはずの血をリュウトがわざと流していたことを気がついていて、なお舐めていたんだからお互い様だよね。・・・でもリュウト、やっぱりボクのことを仲間って躊躇せずに言ってくれること、すごく嬉しいよ
リュウトのための休憩のはずが、肝心のリュウトが全く休めていないのはこれいかに
カーミラ「わ、我は悪くないぞ? りゅ、リュウトの血が旨すぎるのが悪いのじゃ! ・・・ちょっと調子に乗りすぎたのも事実じゃが」
アイ「ぼ、ボクだって泳げなかっただけで悪くなんてないよ! ・・・少しドジしちゃったけど」
うん、さすがにリュウトに迷惑をかけた負い目があるから、こっちに被害が来ない。いいことです^^
カーミラ「しかし、今回のことが前偏ということは・・・」
アイ「やっぱり、後編はあの2人が・・・」
ということになるのでしょうね、やっぱりw
カーミラ「旅が終わるまでに我が君が干からびねばいいのぉ」
アイ「ホント、そうだよねぇ」
ま、そこらへんは気に立ち次第ということで♪ では、次回もよろしくお願いしますね~




