2話 「夢か幻か」
ふと気がつくと俺は見知らぬ荒野に一人でいた。・・・そう、一人でだ。近くにはアキもレミーも見当たらない。俺だけ転移のトラップにでも引っかかったのだろうか?
どぉぉぉぉん!・・・突然の轟音に反射的に音のしたほうを見ると黒煙・・・どころか火柱が上がっていた。どうやらよりによって戦場に転移してしまったようだ。
戦っているのは一人の剣士と漆黒のドラゴン・・・剣士の後方には傷ついた女性が見える。俺は・・・ただ傍観するのみだ。人にも善人もいれば悪人もいる。ドラゴンも同様・・・どちらを加勢するのが正しいかなど分からない。・・・というのも理由ではあるが、もっとも大きいのは戦う両者の実力が俺の介入できるレベルではないということだ。
「今日ここで決着をつける!・・・兄さん!」
剣士がそうドラゴンに言う。そういえば先ほどアキが言っていたな。純粋な竜族は人の姿も取れるのだと・・・。ではこれは竜族同士の争いなのか?
「愚かなり、我が弟・・・いや、ライオスよ。竜族の神といわれし我に勝てると思っているのか?」
竜族の神・・・竜神!? どういうことだ?・・・それにライオス? どこかで聞いた名だな?・・・そうだ! ライオス=アルバード・・・アキから聞いた先代の竜神の名だ! たしかに口調はまったく違うが、声はあの竜の石像と同じ! 確かに彼らの素性は知られていなかったがまさか竜神と邪竜神が兄弟だったとは・・・。ん? ってことはここは過去なのか?
「ライオス!私にも・・・私にも戦わせて!」
後方にいた女性がライオスに叫ぶ。どうやら彼女は先代の仲間のようだ。
「・・・駄目だ。レーチェル、君の傷は君自身が思うほど浅くは無い。それに・・・この戦いだけは俺の手で決着をつけたい。」
「貴様がたどる決着など一つ・・・我が闇の業火の中に消え去るのみ!」
漆黒のドラゴン・・・いや、邪竜神が放った黒い炎。アキの使う炎とはまったく異質の強力な炎・・・そうか! 闇と火、二つの属性を融合させているのか!
対する先代の構えるは緑色の刀身を持った細い剣・・・いや、あれは刀と呼ばれるもののはずだ。この距離から見ても神々しさが伝わってくるあの剣が俺の時代ではボロボロに朽ち果ててしまった魔剣なのだろうか?
「・・・いくぞ! 疾風閃!」
生み出されたのは巨大な風の刃。いや、注目するべきは巨大さではない。込められている力の大きさ、その密度、切れ味・・・全て俺の技などとは比べられるものではない。
ぶつかり合う技と技・・・それは両者を傷つけていく。
「馬鹿な! 何故・・・我が! 闇が傷つく!?」
「兄さんが・・・ダロン! あなたが闇であるように俺は光だ。光と闇の本質は同じもの・・・傷つけられない道理はない!」
俺が見る限り、受けたダメージは邪竜神より先代の方が大きい。だが、その目は少しも曇ってはいない。まっすぐに・・・ただ勝利だけを見ている。これが伝説の戦い・・・俺が力を貰った人と・・・俺が倒さねばならない奴か。
どれほどの時間が経ったのだろう。傷つき倒れたのは先代の竜神だった。レーチェルと呼ばれた女性が泣きながらライオスに近寄る。何故だろう? その姿はアキとダブって見えた。
「ライオス! ライオス!!・・・しっかりしてよ! 死んじゃ嫌~~~!!」
「・・・大丈夫。俺は・・・まだやれる! だからレーチェル・・・君は逃げるんだ。」
結果はすでに知っている。邪竜神は封印され、傷ついた竜神は自身の力をあの洞窟に封印する。・・・そのときにあの女性がどれだけ嘆き悲しんだか・・・そう思うと胸が痛いが、俺が知りたいのはここから! この状態からどうやってその結果を作り出したかだ!
「・・・力を・・・力を貸してくれ。」
力を・・・貸してくれ? 誰に言っているんだ?・・・!? なんだ? 視界が白く・・・まさか、現代に戻されようとしてるのか!?・・・頼む、もう少し・・・もう少しだけ・・・この戦いを・・・。
「リュウト! どうしたのだ!・・・しっかりしろリュウト!!」
目の前には心配そうなアキの顔。勿論レミーも近くにいる。・・・俺は戻ってきたのか?
「アキ?・・・俺はどうしてた?」
「あ、いや・・・どうと言うこともないのだが、1分ほど呆然としてたのでな。」
1分か・・・しかもアキの様子では特に消えていたわけでもないようだ。あれは真実なのか? それともこの場所が見せた夢幻だったのだろうか?
「あ~! リューくん、見て見て!!」
レミーの視線を追うと・・・祭壇に戻そうとしていた例の魔剣が俺の手の中でかっての輝きを取り戻していた。緑色の刀身の刀・・・やはり先ほど見たあの剣だ。違いと言えば、俺が気づかなかっただけなのか刀身の下の方に小さく彫られた竜の彫刻と・・・俺が見た過去のような神々しさは感じないと言うことだけだ。
祝!魔剣復活!!・・・ってあれ?
アキ「一つ聞こう・・・。」
あ・・・あのアキさん?真剣な顔で一体なんでしょうか?
アキ「過去の戦いはいいとしよう。・・・何かの伏線なんてオチはないな?」
・・・ななな、なんのことでしょう?
アキ「私の気のせいならいいのだがな・・・。もし・・・万が一があったら・・・覚悟しておくのだな。」
・・・作中のキャラに殺されるのって・・・保険きくのかな><




