2話 「予想されていた最悪」
翌朝比較的まだ早い時間、たどり着いたのは1つの小さな砦。別に中を見る必要なんてないし、本来ならば上空を飛んでいけばいいだけの話だ。そう、本来ならば
「ふむ、上空に結界が張ってあるな。なんとも迷惑なことだ」
カーミラが少々面倒げに言う。おそらく天界で見た結界やレーチェルが使っていたという双六の中の結界を真似したものなんだろうな
「そんなにすごい結界なの?」
「ん~、どうだろ? 私もよくわからないけど」
「そうですね、お兄ちゃんやカーミラさんならば無理やり突き破っていくことも出来ると思いますが、結構痛いのではないでしょうか」
疑問を呈したアイとわかってもいないのに返事をした姉さん、そして的確な回答を返したユキだが・・・3人とも、いやカーミラを含めて4人とも分かっていないこともある。もっとも、これに関してはこのメンバーの中では俺しかわからないのが当然だろう
「もう1つ、ここにはリデアが・・・俺の妹がいるな」
カーミラは300年ほど前に1度(※実際は2度だがリュウトは知らない)会っているが気を覚えているはずもないだろうし、アイは1度会っているし向こう側にいた頃には普通に接していたのかもしれないが、この距離の気配をよむのを彼女に求めるのは厳しいだろう。だが、いずれにしても面倒な話だ
「お、お兄ちゃん、私の他にも妹いたんですか?」
い、いや、ユキ? その何とも言えない目で見られても困るんだが・・・。血の繋がらないだったらレミーの奴もいるし、リデアに関しては実の妹だからなぁ
「リデア? ああ、そういえばリュウト君の持っていたペンダントに書かれていた子ね。やっぱり、妹だったんだ」
「おお、そういえば前に我が君と話した時に横におったのう。どこかで感じた気配じゃと思っておったが、その時の小娘じゃったか」
「リデア・・・ボクは彼女苦手だよ」
うん、まぁ思い出した姉さんとカーミラはいいとして・・・リデア、お前はアイに何をしたんだ?
「リデアの飛行速度は俺よりも速いし、空中戦も俺よりは得意だ。早い話が上空の結界を破壊して行っても痛いだけだな」
どっちみち追いつかれて相対時しなければいけないのならば、わざわざ痛い思いはしたくないものだ。もっとも、竜神剣がない今の状態でどうやってリデアとの戦いを終わらせるかというのは非常に頭の痛いところではあるんだが
「行かなければ何も始まらないのも事実だしな。みんな、警戒だけは絶対に怠るなよ」
元々この砦はほとんど打ち捨てられた砦だ。中も外見と同じように荒れ果てている。いるのだが、それ以上に目立つのは
「嫌な臭いね」
そう、姉さんの言う通り鼻につくこの臭い。いや女性、ましてここに居るような未婚の女性ならば、この正体に気がつかなくて当然なのだが、男としてはこれの正体がよくわかるゆえになおさら不安になる
「我が君よ、あまり言いたくはないのじゃが、この臭いは・・・」
「そう・・・だろうな」
カーミラたちバンパイア1族は夢魔の特性も併せ持っているから知っていてもおかしくはないのか。一般に栗の花なんて呼ばれる匂い、この砦に確実にいるリデア、普段のあいつならば心配なんてしない・・・いや、心配はするだろうが信頼もしているが、今のあいつならばと思うと不安しか感じない。頼むから無事でいてくれよ
「あ、ほんとにいやがったか」
「嬢ちゃんが兄さんが来たとかなんとか言ってやがったから、見に来たが本当に邪魔が入るかよ」
「おい、そこのお前ら、怪我しねぇうちにさっさと帰りな。お、そこの嬢ちゃんたちは残ってもいいぜ。俺たちがたっぷりと遊んでやらぁ」
出てくるなり勝手なことを言うおそらく人間だろう兵士たち数人の言葉に最悪を認めてしまう自分がいる。同時にまだ希望にすがりたがっている自分も・・・だが、兄さんが来たというセリフから発言元があいつだというのは疑う余地がないだろう。そして
「一応聞いておく。お前ら、リデアに何をした?」
「リデア? ああ、あの嬢ちゃんの名前がそんな感じだったか。へへ、名乗ったのは聞いてたんだがよぉ、名前なんてくだらねぇもんは記憶に残ってなかったぜ。だがよぉ、俺たちもこんな辺鄙なところに飛ばされて女っけもなかったから仕方ねぇだろ。てめぇを加えてやる気はねぇからさっさと・・・」
嫌がおうにも想像させられていたこと。どうやらそれが真実だとわかってどこか頭の線が切れた気もするが、とりあえず、こんなやつの言葉なんて聞いてやる意味もない。別に冥王の命というわけもなかろうし、あいつの洗脳は性格までは変えん。同情の余地は一片も感じんな
「な、なぁ、俺の足どこだよ。お、俺のあ・・・し・・・・・・」
横を歩き抜けるついでに切りつけておく。随分と血が出たな。こんな奴の血で靴が汚れるのは気分が悪い・・・できれば大人しく死んで欲しいモノだが
「嫌ねぇ、床が汚れちゃうじゃない」
「リュウト、遠慮しないでやっちゃっていいからね」
ああ、姉さんとアイも今の会話で分かったらしいな。そして、彼女たちの同情も買えなかったらしい
「とりあえず私が凍らせておいたが・・・凍っていてもこんな奴の血など触れたくもないな」
いつの間にか裏の方の人格に変わったユキだが、こっちもなかなか辛辣だ。まぁ、裏のユキが辛辣なのはいつものことだが
「しかし、我もそれなりに生きてはおるが、これほどまでに食指が動かん血も初めてじゃ。頼まれても飲みたくないのぉ」
バンパイアのカーミラにまでこの評価か。だからといって同情する気は全く起きないのだが。そう、この程度のことでリデアが汚れたとか汚いとかはけして思わないが、あいつが正気に戻った時にショックを受けそうだ。トラウマになるかもしれない傷を妹に残された兄としてはこの程度の怒りは当然だよな?
「て、てめぇ何をやりやがった。っていうか、いつの間にそこに移動しやがった!? ま、まさか噂に聞く転移魔法とかいう・・・」
転移? 何を言う、俺はまだそんなものは使えないさ。しかし、あれが見えなかったんならば俺と戦う資格はなしだな。俺は少々早足気味とは言え、普通に歩いただけだ(とはいえ、マッハ100程度は出ているが)
「なに、見えていないのならば、知らないほうがいいだろ? とっととあの世に行って来い」
返事など聞かない。聞く気など毛頭ない。だから、そのまま剣を振るい
「兄さん、一応ワタシはこいつらを傷つけるなって命令されているんだけど、これはどういうことかしら?」
え~、今回はいかにしてR指定がつかないレベルに話を押さえ込むかで結構悩んだ回でした・・・きっとこれならば文句は来ないはず><
リデア「文句あるわよ! 大アリよ! 大問題よ!!!」
あ~、そっちからの苦情はその・・・仕方がない範囲ということで?
リデア「仕方がなくな~~~い!! わ、ワタシその大事なものを・・・いやぁぁぁぁぁあああ!!」
あ~、結構リデアも女の子ですからね。失ったものの大きさにショックがあるようです。そして、今回はリュウトもかなり怒ってますね。彼が殺すということにこれほどまでに淡々としていることは極めて珍しいです。まして人間相手には
リデア「うう、兄さんが、兄さんが怒ってくれるのはすごく嬉しいけど、けど・・・うわあぁぁぁああん」
あ~、これ以上ここに居ると攻撃が飛んでくるかもしれないので、ここら辺で失礼します。次回はリュウトとリデア、2人がどう対峙するのか、お楽しみに~




