5話 「2人の関係」
「・・・あれか?」
「ユキに見覚えがないのならば、おそらく」
俺たちの眼下、というか崖の下をドシドシと歩いているのはゴーレム。あの半透明の色合いからしてクリスタルゴーレムとか言う奴だろうか? まぁ、なんにしても気配を感じなくて当然だな。奴らはそもそも生きていないし
「あのようなものなど、この山で見たことない」
「ならば、当たりか」
ゴーレム種というのは聞いた話だと作り手の技量と魔力、そして材料に比例して強くなるのだという。そして、あのクリスタルという素材は魔力媒体としてはミスリル銀に次ぐレベルだし、強度もかなり高い。それに加えて、もしもあれが冥王の手の者の作品ならば、それなりの技術を持っているものが作っていると見ていいだろう。俺だったら、今の段階は手当たり次第ではなくて優秀なものを選んで仲間に・・・というか奴の場合は洗脳してまわるからな
「あれは弱いのか?」
「ん? なんでだ?」
「いや、お前の声が安心したというようだったからな」
ユキの言葉になるほどと思う。あのゴーレムの強さはけして弱くはないはず。むしろ、冥王の狙いがなんであれ、かなりの強敵であることは疑いようもないだろう。だが、同時に確かに俺は安心しているな。操られた俺の仲間でないどころか生きているわけでもないゴーレム・・・これ以上に俺が全力を出しやすい敵はいない
「弱くはないだろうな。だが、俺としては戦いやすい相手でもあるということだ」
「よくわからんが・・・まぁいい。ならば、遅れるなよ」
なっ? 言うのとどっちが早いかという速度で俺の背中から飛び出していくユキ。・・・以前俺もやったことがあるが(第1部8章)確かにこれはアキが文句を言うはずだ
「この山に来たことを後悔し魂の芯まで凍りつくがいい! ダイヤモンドダスト!」
だが、それ以上にまだ敵と決まっていない相手に先制攻撃を仕掛けるなよ! まぁ、俺たちに対しても同じことをやったことから予想しておかなかった俺も俺だが
「む? これは・・・」
あいにくクリスタルゴーレムには寒さを感じるような機構はついていない。おまけにもともと鉱物だからな、凍った程度で動けなくなるような存在でもない。ある意味、ユキにとってはもっとも相性の悪い敵だ
「ユキ!」
だから走る。何も考える必要などない。俺はいつだって、守りたいと思ったものを守るだけなのだから
「なっ!?」
今度驚愕の声を上げるのはユキの番だ。もっとも俺としては大したことをしたつもりはないのだがな、ただ、ユキに殴りかかってきたゴーレムの一撃を代わりに受け止めただけだ。まぁ、剣が竜神剣ほど頑丈じゃないから折れやしないかと少し不安だったが・・・これを折ったらカーミラから怒鳴られたりするのかな? 一応、バンパイア族の秘宝を取り込んでいる剣なわけだし
「お前は一体何を考えて生きておるのだ」
「そこまで呆れられることじゃないだろう? ユキは多分後衛向きの能力だろう? 俺は前衛だからな、攻撃を受け止めるのは俺の役目だ」
何にも不思議なことはない。いつもどうりの俺なのだが、どうも俺を見るユキの視線は信じられないものを見るような視線で
「やはりお前は馬鹿だ。ふん、どうせ私に良くしておけば好感を持たれるとかいう下心なのだろうが、あいにく私はお前など・・・」
「いや、別にそんなことは思っていないが? 仲間を助けるなんて当たり前のことだろうが? って顔が随分赤いが大丈夫か? 雪女だとかなり危険そうな色なんだが」
ユキの気性から言って、いくらゴーレムにとはいえ殴られかかった程度で背筋を凍せるということはないと思ったし、雪女ならば体温は低い程良さそうだから問題ないだろうと思っていたのに・・・なんで顔が赤らむほどに体温が上がるんだ!? あれか!? 戦いの高揚感で体が熱いぜ的な! アシュラが言ったならば納得がいくんだがなぁ
「な、何を馬鹿なことを! わ、私がそんな顔色をするわけないだろう! こ、このとおり、芯まで凍えきっている!」
「とてもそうは見えないが、まぁいいや」
「そ、そんなことよりもさっさとそいつを倒してしまうぞ!」
確かにそうだな。攻撃を仕掛けたのがこっちからというのが若干引っかかるが・・・額の紋章。ゴーレムの弱点である文字ではなく、おそらく制作者側の趣味で付けられたあの紋章は冥王の鎧にも付けられていた紋章だ。何のためにここにいたのかはともかくとして、こいつが冥王に関わる何かである確率は極めて高い
「そうだな、確かにさっさと倒してしまうのが良さそうだ。ユキ、お前は・・・」
「わかっている。やつの関節部分を狙う。それで良いのだな」
コクンと頷き返すことを返事とする。直接的な冷気で動きを封じるということはゴーレム相手にはなかなか厳しい。だが、奴とて関節を凍らされればその動きは悪くなる・・・まぁ、この手のやつはすばやさで翻弄してくるということはまずないのだが
「さて、初手としてはこんな感じかな? 竜神流剣術 刹那!」
昔、ゴレームたちを斬った時のように高速突撃の斬撃をするが、どうも耐久力でこっちの剣の方が落ちるらしい。危うく折れそうな感触に剣を振り切ることができなかった。これも竜神剣に頼りきっていた弊害かな? 刀である以上はどうしても耐久力は仕方のない部分だし
「竜神・・・だと?」
「ん? どうした・・・ああ、そうか」
そういえば、言っていなかったな。と唖然とするユキを前に思う。だが、それは・・・はぁ、どうにも俺はこの手のことを呼び込みやすいらしい。もしくは、よほど俺がうかつなのかだな
え~、今回はこの一言が全てでしょうか? 天然ガールズハンター再び! いや、2回や3回どころじゃないんですけどね
カーミラ「むぅ、我が目を離している隙に別の女を落としているとは、いくら我が君とはいえ、これは許してはおけぬぞ」
・・・そういうあなたもアキが目を離している隙にリュウトが(無自覚に)落とした女性の1人なわけですが^^
カーミラ「わ、我は良いのじゃ! 高貴なる我こそが我が君に相応しき女なのだからな! しかし、我が君はどうも竜神の名が示す意味を分かっておらぬようじゃのう」
ええ、なんて言っても竜神の歴史を全く知らないですからね。ですが、次回ほんの少しだけ出てくるでしょう。竜神の宿命とその名が示すもののことが
カーミラ「あまり伝わっている話はいいものではないのじゃがな、竜神という存在の本質は」
と、これ以上は次回分とはいえネタバレですね。ということでこのお話は次回のお楽しみということで♪




