1話 「雪山を行く」
「ねぇ、そういえばなんだけどさ・・・バンパイアって日に当たっても大丈夫なの?」
バンパイアの里を目指して歩くこと数刻。そんな頃に姉さんが言いだしたこんな質問に
「まさに今更じゃのう。陽光程度で灰になるのは最下級の者共ぐらいじゃ。我程度になれば、さしてどうというほどのことでもない・・・見れば分かるであろう?」
「そうは言ってもね。ねぇ、リュウト君?」
「まぁ、今はな」
答えに対して振られた言葉に正直苦笑しか返すことができない。いや、別にカーミラが光にあたって苦しそうとか厳重な防御体制をとっているとかというわけではない。実際に大丈夫なんだろうしな。ただ・・・
「これだけ吹雪いていたら太陽光どうこうって話にはならないよなぁ」
そう、俺たちの周りはただいま絶賛猛吹雪中。幸いにしてひよっこ竜1匹にバンパイア1人に幽霊3人だから遭難するということはないが、普通の人間だったら5分と経たずに動けなくなること請け合いだな。まぁ、今まで発見されなかったバンパイアの隠れ里だ。結界の1つや2つは覚悟していたが・・・いや、この吹雪もある種の結界みたいなものになっているのかもな
「むぅ、確かにのう。しかし、この山は確かに標高は高く、今の時期ならば少々吹雪くことは日常茶飯事なのじゃが・・・こうまで吹雪いたことは我の記憶にもないのう」
姉さん達は『そうなんだ~』とでも言いたげな顔だが俺はそう軽く受け止めることはできない。これが平時にピクニックにでも来ていた時ならば運がなかったなで終わりだが、このタイミングとなるとそんな簡単な話ではないのだ
「カーミラ、つまり・・・」
「うむ、そう思っておくのが無難じゃろうな」
魔法というのは使えば必ず魔力がこもる。無論、それをわかりにくくする術というのもあるにはあるのだが、ある程度の実力者に至ったものに隠すのは非常に大変なことなのだ。・・・だが、魔法はどこまでを魔法と取ることができるのだろうか?
「姉さん、少し警戒レベルを上げたほうがよさそうだ」
「ん? でもこの吹雪は自然由来のものに見えるけど?」
姉さんはこういった冒険とは縁遠い人だったからピンと来ないのはわかる。というよりも魔力がこもっていないことに気がついていただけでも及第点をあげたいところだ。だが魔法というのはそこまで単純なシロモノでもないのだ。例えば、アキの炎を例に取ると、その炎の余波はどんどん周りに波及していき、最終的には世界すべての温度を上げることになる。実際にはアキは余波までコントロールをし、余剰魔力は拡散しないうちに自分の中に戻しているのだが、それをしなかった場合、発生する熱量はそれこそ世界の果てのほんの微々たる熱量の変化すら魔法足り得るのか? ・・・まぁ、アキが撃った場合は微々たるどころか世界を焼き尽くしてしまうが、それはそれだしな
で、その答えはというと当然否になる。魔法はその術者が狙った(多少のズレはあっても)特定範囲に最大効果を生み出すものだ。そこから派生した余波は単なる自然現象に過ぎない。つまり
「ようするに、どこかでもっとすごい吹雪を作っているかもしれないものがいるってこと? でも、何のために?」
何のために・・・か。鈍いようで本質をズバリと言い当ててるって感じだな。カーミラが経験したことがないということは普段、少なくても常時必要な何かというわけではないだろう。単純に考えるならば俺たちに対する攻撃なんだが
「山の外には影響を与えないようにコントロールしながらこの出力・・・はっきり言って俺たちに与えるダメージよりもやっている奴の消耗の方が大きいだろうからな。まぁ、相手がレーチェルみたいな化物だったら話は別だが」
そんなレベルの相手が俺たちに害意をもって攻撃しているならば、普通に攻めてきたほうがはるかに効率的だろう。はっきり言って1分まで持たずに終わるだろうからな。他には視界不良による時間稼ぎあたりは考えられるが
「なるほどのう、消耗か・・・それならば1人、この雪山でならば可能な奴がおるが、はて? あやつにこんなことをする理由が見当たらぬの?」
「そいつが操られているとかは?」
「絶対とは言わんが、そう簡単に操られるような奴じゃないのう。まぁ、やつの方ならばともかく、もう1人の方が黙ってはおらんじゃろう」
ん? やつ? もう一人?? つまり2人組の何者かということか?
「2人いるならばその操られてもおかしくない子が操られてて、もう1人が脅されているとかないの?」
「いやいや、あれはそういうものではなくてじゃの・・・!?」
姉さんの疑問に答えていたカーミラの表情がこわばる。殺気というには妙だが、確かにこれは敵意・・・って足場が崩れて!? ならば風で飛行を・・・って雪崩付きかよ!?
「しまった。しくじったわ、落とすつもりはなかったんだけど、あの位置だと余計に・・・あの子が泣くと面倒なのよね」
崩れた崖の上で忌々しそうに氷のような美しい顔を歪める美女。彼女の存在がこのあと物語の方向性を少しだけ変えることになるのだが、そんなことはまだ誰も知る由がないのであった
さて、謎の美女の正体はいかに!? って章タイトルが全てを物語っている気もしますがw
カーミラ「うむ、これで分からぬ者がいたらそちらのほうが見てみたい気がするのう」
まぁ確かに(汗)とまぁ、種族はバレバレの彼女ですが結構重要なキャラの1人なのです♪
カーミラ「新しく出てくる女というだけで嫌な予感はするがのう。じゃが、あやつは一筋縄ではいかんぞ?」
だからこそ面白い・・・とまぁ、それは置いておいてこの章はほんのちょっと暗さが軽減されるのでお気楽に楽しんでみてください
カーミラ「我の活躍もちゃんと見るのじゃぞ?」




