5話 「再び」
「うぬ・・・これが秘宝を守るガーディアンだと言うのならば楽なのじゃがな」
ふと足を止めたカーミラが漏らした一言。確かに実力という面で見れば楽だろうな・・・俺としてはけして相対したいやつではないのだが
「そうだな。さて、もともと俺たち相手に隠れていられると思っているわけでもないんだろ? 出てこいよ」
個人的な思惑で言えば、出てこないでそのままいなくなるなり見送ってくれるのが最良なのだが・・・そうことにはまずならないだろうからなぁ
「ちぇ、影からブスリで終われば楽だと思ったんだけどなぁ。やっぱりボクじゃ無理か」
ゆらりと空間が歪んで・・・いや、気殺を解いたが故にそう見えるその場所から現れたもの、それは想像どうりアイだった
「久しぶり・・・今回もそう言うべきなのかな」
「そうだな、前回の時はろくに話などできなかった」
ちくりと胸を刺すものがある。前回の出会いなど、戦いなど思い出したいものではない。だが、それでも逃げることは更に許されない。・・・これは俺にも大きな責任があることなんだから
「話し? 今更どんな話があるっていうのさ」
「例えば・・・君の国はどうなった?」
「!? それこそ、今更だよ! ボクの国は滅んだ・・・それはリュウトだって知っているはず! リュウトが、リュウトが遅かったから滅んだんだ!」
そうだ、間違いなくな。襲われた経緯自体に俺が絡んでいたのかは正直わからない。だが、俺の遅さが助けられなかった要因の1つであることは間違いがない。・・・けどな、かつての君はこう言ったんだ『まだ生き残っている人もいるかもしれないし、土地と民が残っているならば、まだこの国は死んでいないよ。だからボクが逃げるわけにはいかないんだ』と、君はそれも忘れてしまったのか? それは君自身の誇りであったはずなのに
「いまさらリュウトは何をしようっていうのさ! この300年の間だってボクは何度も助けてって叫んだ! でも、リュウトは助けに来てくれなかった」
「ああ、そうだな」
1歩、また1歩とその距離を縮める
「助けが来ないのならば死んでしまいたかった! でも、ボクには死ぬことさえもできなかった!」
「ああ、アイは今も間違いなく生きているさ」
300年、本来ならば人が生きることはできない年月・・・俺も人としての時間感覚が抜けきれていないからなんとなくだがわかる。その間の拷問に次ぐ拷問がどれだけ彼女の心を歪めるに足るものなのか。もっとも、あくまでもなんとなくだ。これを分かるなどと豪語しようするならば、ここでアイに殺されるが妥当だろうな
「そうだよ! 本当ならばボクが今、生きているはずなんてないんだ! それなのにボクの体は成長も老いることすらもできなくて、心だって狂うこともできないのに恐怖と恨みばっかりが増えていって・・・ボクはどうすればいいのさ!!」
その叫びは文字どうり俺の心をえぐっていくナイフだ。だが、後ろからアイに対して殺気を飛ばしながらも行動は自制してくれるカーミラに感謝しながらも俺はさらに距離を詰める。・・・そして、俺たちの距離はほんの半歩もない距離になる
「あ、あああ・・・」
「どうした? ブスリと刺すならば簡単にできる距離だぞ?」
以前戦ったときは拳だけで戦っていたアイだが、あんなことを言ったならばナイフぐらいは持ってきているのかもしれない。まぁ、そうだったとしてもそう簡単にアイの実力ならば刺されることも実はないし、そもそも防御に集中していればアイの力で俺の皮膚に刺すのはよほどの力を持った武具でなければ無理だろう。とはいえ、本当に刺してくるのならばおとなしく刺されてやる気にもなっているのだが
「そ、それはその・・・」
「アイが刺さないというのならば、こっちから」
はっ! と身構えたアイを当然逃がす訳もなく・・・俺はアイを軽く胸に抱きとめる
「え、なんで? ボクは敵なのに・・・」
「アイを敵だと思ったことはない。これまでも、今も、そしてこれからも」
それが甘いというのはよくわかっている。だが、俺には仲間に向ける剣はない。それは自分が生き残るために他者を傷つける覚悟を決めても、仲間を傷つける覚悟だけは生涯持たないだろうな・・・だがなんというか、さっきまでアイに向けられていたカーミラの殺気が少し異質なものになって俺に向けられているのは気のせいなんだろうか?
「そこまでにしてもらいましょうか、アイさん。そして、リュウトさん」
突然聞こえたその声にアイの体はこわばり、そして離れていく。まぁ、俺としても予想はしていたことなんだがな
「リュウトさんは驚かれないようですね」
「そりゃあな。俺だってこの洞窟のことはさっきまで知らなかったんだ。そこに俺が来ることを知って待ち伏せていたっぽいことを考えれば、予想がつくことだろう? コーリンさん、そしてママナ」
「ブ~、私のことも分かっていたなんて~」
普段だったら可愛らしいと表現していただろう頬を膨らました顔で出てくるのはママナ、そしてすました顔で出てくるコーリンさん。誰かが情報を流したことは確実だった・・・まぁ、レーチェルと言う線も多大にあったんだが、普通に考えたら情報収集に一番適しているのは俺が知る限りこの2人だ。まさに敵に回すと嫌な相手って感じだな
「そうですね、それに関してはご明察と申し上げておきましょう。しかしアイさん・・・あなたは冥王様をお裏切りになるわけではありませんね?」
「そ、そんな・・・わけ・・・」
「結構です。では今日のところはここで帰るといたしましょう。私たちで止めることはかなわないでしょうから」
返事なんて聞かなくてもわかっているとばかりに、いや実際に分かっていたんだろうコーリンさんは俺から離れたアイを・・・
「アイ・・・待たな!」
「!?」
300年前のあの時もこういって俺たちは別れた。あの時考えていた『また』とは随分と形は変わってしまったが、また会えたことには変わらない。だから次だって必ずある
アイが返事をしようとしていたのかはわからない。だが、その前にコーリンさんはアイを連れて影に身を隠した。たしかコーリンさんたちの隠密は自分以外に効果がなかったはずだから、いつもの悪魔族特有の闇の通路というやつなのだろう
「よかったのか、あれで?」
「ああ、今の所はあれでいいさ。アイは操られているわけではなさそうだ・・・ならば、言葉も行動も届くかもしれないだろ?」
竜神剣を取り戻して操りの糸を斬れば終わりのほうがいいのか、言葉や行動により説得や謝罪が通じる方がいいのかはわからない。だが、今はできることを1歩ずつやっていくしかなさそうだからな
アイとの再開再び・・・という言葉的には少々おかしいですが、大事なイベント回でした。とりあえず、敵に回っている仲間のうち竜神剣無しで再度仲間に戻せそうなのはこの子だけですしね
ルーン「そうねぇ。でも竜の坊やも天然のガールズハンターぷりが上がっている気もするわぁ・・・もったいないわね、お姉さんのお任せすれば手とり足とり女の子を落とす方法を教えてあげるのに」
あれで本人は全く意識していないから恐ろしい・・・っていうかルーンの『落とす』は冥王の洗脳以上にタチが悪そうだからけして教えないでください>< あと、あなたはお姉さんというような歳じゃ・・・
ルーン「何か言ったかしらん?」
いや、現在作中でぶっちぎり最年長が何を言って・・・
ルーン「な・に・か・いっ・た・か・し・らぁ(怒)」
・・・いえ、なんでもありません。というわけで次回は秘宝とのご対面ですね。いろいろとフラグが乱立している第6部、先の予想とかしてくれると少し作者が喜ぶ・・・じゃなくて何かと面白いかもしれません
ルーン「私のことも忘れちゃ嫌よぉ、じゃあ、バ~イ」
ってかつてにしめの言葉を・・・ってやっぱり幕が閉じているし~~! なんで作者よりも・・・




