1話 「師弟の会合」
森の中を走り抜ける。嫌な予感というには甘すぎる確かな予測があった・・・普通に考えれば、この時点でエルファリアが無事であるはずがないのだ。それでも捨てきれない希望が、ひょっとしたら間に合うのではないかという思いが俺の足を速める
「・・・さて、何の用かな?」
だが、不意に感じた気配に足が止まる。ほんのわずかな希望とそれ以上に気配を濃くした絶望が入り混じり、ひょっとしたら俺の目は懇願するようなものに見えていたのかもしれない
「まさか、そんな気配隠しで俺を欺けるなどと思っているわけじゃあるまい?」
返ってこない反応にさらに声を重ねる。この時点で半ば答えは決まったようなものだが・・・それでももしかしたらを捨てきれないあたり俺も相当に女々しいのだろうな
「師匠・・・お迎えにあがりました」
道を少し外れた草むらから出てきたのは、俺の弟子でもあるヤマト。もっとも、今では名実ともにエルフ族1の剣士で新設された剣士小隊の隊長でもあるわけだから、そろそろ俺の弟子という称号は外すべきかもしれないがな
「他の奴らは?」
「周囲で警護させています・・・師匠ならばお気づきなのでは?」
「・・・まぁな」
どうやら引っかからなかったらしい。これで、自分1人でやってきていて隊の者は鍛錬をさせているとでも言ったならば確定だったのだがな。もっとも、その確定が出なくてほっとしているのかどうかは自分でもかなり怪しいのだが
「ならば、早く帰るとするか。伝えなければいけないこともあるしな」
嘘ではない。もしも、本当に間に合っていたのであれば、早急にメイに伝えなければいけないことがある。だからこそ、俺はヤマトに背を向けて先へと進む
「はい、師匠。ただ・・・ご案内するのはあの世にですが。ッ!?」
言葉が言い終わる前にはその手に握られている剣を叩き落す。予想していたこととは言え、こうもはっきりと突きつけられると・・・辛いな
「な、何故?」
「何故もなにもあるまい? どんな馬鹿だって、これぐらいのことは予想するぞ」
と、自分で言いつつもレミーだったら無警戒で騙されそうだなとも思ったが、まぁそれはそれということにしておこう
「だいたいお前に剣を教えたのは俺だぞ? お前の癖など知り尽くしているさ。それに俺の属性は風、背を向けていようとも空気の流れで筋肉の動き程度見て取れる」
相手が動いてから動くのでは遅すぎるのが俺たちの戦い。だがレーチェルあたりならば『相手が考えるよりも前に相手の思考を読みなさい』程度のことは言ってきても全くおかしいとは思わないけどな
「さて、お前がその状態で隊のメンバーが無事ということはないだろう? どうする? この場で俺と真っ向から勝負してくるか?」
同時にメイも、そしてエルファリアも無事ではないだろうな。やる気になれば強行突破してエルファリアに行くことは容易い。だが、行ったところで意味もない。後方の憂いを断つために皆殺しにしていくという選択ができるほどに俺はまだ絶望してもいなければ、狂ってもいない
「さぁ、どうする?」
だからこそ、言葉とわずかに開放した神気で威嚇をする。このまま引いてくれるのが俺としては最良の結果だ。逃げることは可能だが、この人質めいた手段が有効だと相手に確信を持たれたら竜神剣を取り戻すまで面倒なことが続くことは間違いがない。戦術的に考えるならば、この場でヤマトたちだけでも皆殺しにして去るのがいいのだろうが、やはり俺にはそれはできない。引くことを促している時点で有効だということを半ば言ってしまっているようなものだが、俺としてはここまでがギリギリ選択できる落としどころにほかならないのだ
「師匠・・・あなたらしくもない。何を恐れているのですか?」
だが俺がヤマトを知るように、ヤマトもまた俺を知っている。それは当たり前で当然のことだ。そして、隊員たちは隊長であるヤマトを知る・・・か。特に合図も指示もした様子もないのに集まってくる隊員たち。これが平時だったらよくここまでと褒めてやるところなんだが。もしも、俺のここまでの行動を読み切って先に指示をしていたならば、なおさらだしな
「今更この程度の神気で恐れをなすようならば、師匠の弟子はやってられません。無論、私の隊員たちもです」
ああ、さんざん実践に慣れさせるために神気で脅しかけたりしたもんなぁ。そう言う意味では成果が間違いなく出たわけなんだが、まさか自分が味わう羽目になるとは思わなかった。ヤマトが自分の意思でエルファリアやアキを裏切ったというのならば、師匠のけじめとして俺が斬ってやるところだが、今回はそうもいかないしな
「本当に師匠らしくない。今の間合い、師匠ならば私の首がまだ付いているのは不自然ですが」
無防備に俺の間合いの中に入ってきたかと思えば、意外とものは考えているか。弟子の成長は嬉しい限りだが、この状況は芳しくないな。こういう時にレミーやレーチェルがいれば幻影でどうにかできるんだが・・・まぁ、いないやつを頼ってもしょうがない。問答無用で殺しに行くだろうアシュラがいないだけマシと思う方がいいな
「そうだな、ならば実戦訓練と行くとしようか。お前とこんな勝負をするのはこれが最後にしたいものだがな」
心の中で一言、死ぬなよと思う。殺すつもりはないが、持っているのが竜神剣ではない以上は万が一の事故がないと言い切れんところがある
「くぅ!?」
驚愕に顔を歪めながらも、しっかりと俺の剣を受けてきたヤマト。隊長としてなかなかに立派になったものじゃないか!
「どうしたヤマト! 俺に剣を向けておいてこの程度で済むと思っているわけじゃないんだろ? ・・・!?」
絶対に勝てない勝負であり、そして負けない勝負でもある。だからといって、油断していたわけではない。だが不意をついて飛んできた攻撃は威力こそなかったが、完全に俺の認識の外から行われたのだ
「俺に気配を感じさせずに攻撃してくるだと? ・・・ああ、いたな。この森には確かに。どうやら最悪というのには底はないらしいな」
今度の相手は空白の300年のあいだに随分と成長していたヤマト! そして、あの子の存在も最後に少し出てきていますね
マリア「う~ん、私としてもあの子はちょっと複雑ね」
な、なんとも珍しい発言が!?
マリア「どう言う意味かな~? あのねぇ、私だって直接の面識はないけど、あの子とは関わりあるのよ?」
まぁ、たしかにそうですけどね。とこれ以上言うともともとバレバレだった正体がさらにバレバレになるのでこの辺にするとして
マリア「とりあえずリュウト君! わからず屋たちは全員叩きのめして帰ってきなさい!」
どこら辺が心配しているんですか!? それ!
マリア「ん~? 私、心配だなんて言ったかしら?」
いや、確かに言ってないけど・・・とまぁ、次回は彼女とのお話が主になるといったところで今回はお開きです。これからどうなるのか楽しんでいってくださいね~♪




