4話 「名と使命」
「そして・・・あなたの力はまだ必要ではありません」
そうだ、俺はまだ何もなしてはいない。安易に前人の力に頼れば、いつか本当に危機に前に進む手段を失ってしまう気がする。それに俺ははるかな過去から受け継がれたという竜神の使命など受け継いだ覚えはない。・・・確かに名前と力はついだが、ただそれだけだ。いつかそれを受け継ぐ時も来るのかもしれないが、少なくても今俺がしたいことはそれとは無関係だろう。ならば、今安易に力をもらっていくわけには行かないんだ
「あなたの力と使命、いつの日か受け取りに来ることもあるでしょう。ですが、その時までは、俺は俺として・・・300年ぶりに竜神としてではなく1人の男、リュウト=アルブレスとしてあがいてみたいのです」
どれほど歪んでいびつであっても、ひょっとしたら平和と呼べるのかもしれないものを破壊しようと言うんだ。今の俺に竜神を名乗る資格はきっとない。そして、その名を持って戦いに行くことは今回はきっとない。だから、竜神の名だけで力を持っていくのはきっと違う。そう思って踵を返そうとした時に
「ん? これは羽? 持っていけということか?」
見落としていただけかもしれないが、今まではなかったはずの赤い羽。そうだな、これがただの羽ならば別に何の問題もなく、もしも97代目の意志の残滓が持っていけと送ってくれたものならば、それさえも断るのはむしろ傲慢か
「では、これは今日ここに来た証に確かに受け取っていきます」
もう、この場にいる理由はない。だが、この場にはもう1つ出口らしいものがある。より地下への階段は力を受け取る場だとしても、上に向かう道はどこか別の場所につながっていると思うのだが・・・調べてみるか
「ここは・・・水の洞窟!? まさか、こんな場所に出るだなんて」
随分と長いとは感じたが、地下水路というか水の中をひたすら進んだ結果出てきたのは俺の神殿・・・あの孤児院があった場所の近くにある洞窟の中。この洞窟の水は尽きることなくこんこんと流れでるとは聞いていたが、こんな秘密があったとはな
「さてと、現状どこに行くという明確な指針もないわけだが・・・ここに出たのならば姉さんに会いに行かないと姉さんは怒るだろうなぁ。無論、そのあとであそこも見に行かなければいけないのだろうが」
姉さんと会うのは長年あっていなかったこともあり気後れする面もあるが、嫌なわけじゃない。だが、もう1つの方・・・エルファリアの様子を見に行くのは怖いな。見たくないものを見ることになる確率があまりにも高いから
「だが逃げて問題が解決するわけでなし。むしろ、逃げたら悪化するだけなんだ・・・最悪を胸に、もしもそうでなかったら助けられるという気持ちで行かないとな」
精神的にも戦力的にも厳しい戦いになるのは当たり前。最悪俺は1人で全世界を相手にしなければいけないと分かっていたことじゃないか。だから・・・今はただ前だけを見て進むんだ
「さて、とりあえずは服を乾かしてから行くか? このままいくとまた姉さんにからかわれそうだしな」
風吹きつける高台、ここに姉さん達の墓がある
「姉さん・・・ここに居るのか?」
「あら? 意外と早く来たわね~。そんなにお姉ちゃんに会いたかった?」
俺の呼びかけに応じてなのか姿を現す姉さん。竜神剣を持っていないとは言え、どうやって俺から気配を隠しているのだろう? そういえば、竜神になる前とは言え生前も姉さんの気配を察知できたことはなかったような
「いや、近くに来たついでだよ」
「こ~ら~、そこは嘘でもお姉ちゃんに会いたかったっていうところでしょうが」
ちょっと不機嫌というのを全身で表現する姉さん。まぁ、このレベルならば大丈夫だ。姉さんが本気で怒っていたら、口より先に手でも足でもなく必殺コンボが入るからな・・・本当に変わっていないな
「リュウト君・・・やっぱり?」
「いや、変わっていないと思っただけだ。あ、いや、そう! このあたりは全く変わっていないな~と」
あの時から400年、流石に全く変わっていないというのは成長していないという感じでまずかろうかと誤魔化してみたんだが
「ふう、そんなことをごまかすんじゃな~い! それにね・・・」
「リュウト兄ちゃん! 男は本当に辛い時以外はないちゃいけないっていったのは兄ちゃんだよ!」
呆れ顔の姉さんの言葉を遮るように聞こえたのは
「ケンタ! それにハナも!」
姉さんと同じく2度と会えないと思っていた2人。いや、本来ならば不自然にこんな時間の彼方であっていいはずもないのだから、喜んでいいのかは微妙なのだが
「リュウトお兄ちゃん・・・よかった、元気そう」
「ほらね? こんな小さい子にまで心配をかけているじゃない! リュウトくんはお兄ちゃんなんだからしっかりとする!」
いつかもあった気がするこんなやりとり。失ったはずのものがもう一度この手に・・・ひょっとしたら狙って励ましてくれているのかもな
「ありがとう、3人とも」
「あのね、私たちはあなたの足かせになるために留まっていたんじゃないの。支えてあげるわよ、いつまでも・・・可愛い弟のためだからね」
「「負けないでよ、リュウト(お)兄ちゃん!」」
心に・・・そう、心にギュッっと力が入る気がする。俺にはまだ希望があると、まだ負けてはいないのだと、そう思える
「ああ、行ってくる!」
だから行こう。そこにどんなものが待ち受けていようとも・・・だが、俺も今この時にそこで地獄が展開されているとは思いもよらなかったんだ
今回のところはリュウトのパワーアップはお預け。でも、少しだけ精神的に前向きになって強くなった?
メイ「リュウト殿の力は精神状態に大きく作用されるところがありますからね。・・・しかし、リュウト殿がこれから行くのは私もいるエルファリア。そこで地獄が展開されているとはどういうことでしょうか?」
あ、いや、その・・・っていうかなんでこのタイミングでゲストがメイ?
メイ「このタイミングだから・・・ではないでしょうか? さて、お答えください、作者殿? 無論、お答えによっては」
い、いや! それは完全に脅迫!? っていうかそんなことを言われていうわけが・・・
メイ「そうですか・・・つまりは言えないような状況だというわけですね。わかりました、ではこちらへ・・・」
ちょ、ちょっとどこに連れて行くつもりで?
メイ「いえ、しばらくは私もここにお邪魔できない状況になりそうでしたので、今後の分まで含めて念入りに拷問・・・こほん、お話し合いをさせていただこうかと」
いや~~~~!! それは絶対に話し合いとは呼ばない~~~~!!
メイ「静かにしてくださいね? では、読者様、ここから先はシークレット。次回の幕が上がるまでしばらくお持ち頂けますようお願いいたします」




