1話 「代わりの剣と」
「さて・・・どうするかな?」
姉さんを見送って、早速行動と思ったところいきなりぶつかる壁。最終的にアキたちを助け出す、そのために竜神剣を取り戻す・・・目標は決まっているのに、そこにいたるまでの道筋が全く見えていないからなぁ
「そうだな、まずはエルファリアに戻るか」
俺が奴らならば、真っ先に占拠したい場所ではあるがまだであるのならば、そこは俺の拠点にできる場所であり、仲間がいる場所にほかならない。・・・天界という手もないわけじゃないんだが。今回のレーチェルの動きを見る限り危険そうなんだよな。もっとも、あいつが操られて敵に回っているならば、どうあがいても俺に勝ち目があるとは思えない。ここは、いつもの試練的なノリでいることを祈っておくか
「その前にしておくことはコイツだな」
まさかコピー能力をこんなことに使う羽目になるとは思ってもいなかったが、まずは奪われた竜神剣の代わりとなる剣を作成する
「ま、こんなもんかな? リュムのやつは文句言うかもしれないが」
なんの能力も持たないバッタもんだが、とりあえず見た目だけは竜神剣によく似た剣だ。確実に本人が見たら『この程度の剣を我の代わりなどとは・・・』とか文句を言うだろうが、形状だけでも普段使っている剣と同じというのは結構大きいものだ。まぁ、あいつの材質は特殊すぎるんで生成は不可能だから強度は比べるべくもない。これでも以前レーチェルに見せてもらった(※コピー能力は1度でも見たことがある原子分子しか生成できない)オリハルコンを使っているんだが、もともと刀っていうのは折れやすい品物。おそらく普段と同じ感覚で使うと簡単に折れることは間違いないだろう
「と、これで一応の格好は付いたかな? ・・・ん? 人の気配? そこの洞窟からか?」
いかに遮蔽物の多い洞窟内部の気配とは言え、素人の気配を読み間違えることはない。もちろん、今の状況ならばその素人が俺の敵でない保証などはありはしないのだが、耳をすませば聞こえてくる荒い呼吸音とこちらに向かって駆けてくる足音を聞く限りでは何らかのトラブルに俺が巻き込まれたのは間違いなさそうだ・・・トラブルではなく罠かもしれないがな
「あ・・・き、騎士様! お願いです、助けてください!」
出てきたのはまだ年若い村娘っていう感じだな。不意を突かれたところでどうこうということはなさそうなことを考えると俺の考えすぎか? まぁ、以前ルーンが化けたアイカに騙された身としては警戒しといて損はないのだろうが、あまり疑心暗鬼にとらわれるのも良くはないな
「落ち着け。助けてくれと言われても特に危険が迫っている感じはしないが」
もっとも、何かに襲われて逃げている途中で、追いかけている奴は諦めたかまかれたとか、自分以外の誰かの助けをという目もあるにはあるが、まずは相手を落ち着かせないと話にならないからな。俺は読心術や相手の記憶を覗き込むなんて真似はできないし
「あ、あの、助けて欲しいのは私の姉で・・・こ、この洞窟の奥で魔物に襲われて!」
「わかった。案内してくれ」
魔物か・・・正直それらしき気配は感じないのだが、ママナのような気配隠しが上手い奴なのか、それとも限りなく野生動物に近いレベルのやつなのか、どちらにしてもただの村人ならば恐るべき魔物であり助けを求めてくることに不自然はないな
「・・・この洞窟については詳しいのか?」
「え!? え、ええ、そうですね。この洞窟にはいい薬草が生えているのでよく摘みに来るのです」
随分と迷いなく歩く彼女に声をかけるとこんな返事が返ってきた。いい薬草か、無事に解決したら是非教えてもらいたいものだ。こんな洞窟でも生えるのならば栽培も・・・いや、逆に難しいかもしれないな
「つ、着きました。ここです」
ん? ここですと言われても特になにも見当たらないが? いや、厳密にはこれみよがしに口を開けた井戸がど真ん中にあるけど・・・まさかな?
「あ、あの、井戸の中に・・・」
引きずり込まれたか? それは少々まずいかもしれない。たとえ空井戸であったとしてもそんな場所に引きずり込まれて・・・ん? この井戸は何かおかしいな? そして、後ろの彼女が動く気配から言って、どうも俺を突き落とそうとしているしか思えないんだが? やっぱり罠だったかな。まぁどのみち、この井戸を調べずに放っておくことは危なさそうな気がする。ここはあえて突き落とされたことにしておくか
「・・・っ!」
冷たい水の感覚。落ちた距離はざっと10Mといったところだろうか? この程度の落下距離でどうこうなることはないが、思ってもみなかったのはこの広さ。まさか内部が巨大な地底湖になっているとは・・・これは少々探索は手間取るかもしれないな
「ガハッ!」
突然に首に巻きついてくる黒い影・・・やはりというべきなのか魔物自体はいたらしいな。だが、まだ気配を感じない? いや、こいつは
「!!!??」
「不思議か? 確かに普通ならば窒息・・・いや、溺れ死ぬところだろうが、悪いな、俺は呼吸ができないぐらいじゃ死なないんだよ」
これが竜族の特性なのか竜神の特性なのかは知らんが、俺の場合は呼吸も食事もしていたほうがややエネルギー回復が早まる程度でしかない。別に水中で首を絞められる程度でどうこうなることはないのさ・・・そして、いま相手が戸惑っているのは
「ふっ、声が聞こえるのが不思議か? またまた悪いな、これは音じゃないんだよ。直接的に思念波をお前に送りつけているだけだ」
俺たちレベルの戦いになると、音速じゃあまりにも遅すぎて意味をなさないからなぁ。そして、それを知らなかったことを考えるとそれほど強い奴とも思えないんだが・・・これが罠であるとすると、これで終わりということもないのだろうな。いや、最もコイツの正体を考えれば、こいつの存在自体が最悪の罠と言うべきなのかもしれないが。こいつ自身も俺もすべてを地獄に叩き落とす最悪のな
さてさて章が変われど、やっぱり孤立無援のリュウトですから、まずはこのへんのレベルの戦いからスタートと参りましょう。で、ゲストは誰にしようかな?
ママナ「はいは~い! 私が来てあげたよう」
・・・ママナか
ママナ「ブ~! なに、その反応! 今回ちゃんと本文中に名前出てきているじゃない!」
いや確かに出ているけど、本当に名前が出ているだけだし。それに、この状況だとママナの安否も・・・
ママナ「もう! 私はリュウトのお姉ちゃんなんだから! だから、きっと大丈夫!! ・・・たぶん」
とまぁ、このへんのキャラの安否も気にしながら、リュウトの新しい冒険を楽しんでいただければ幸いです。ではまた!




