4話 「失ったものと残ったもの」
「ふむ、確かに心臓は止まっているようだな」
1人の男が倒れている、ただそれだけのはず。ううん、心臓が止まっているというのならば死んでいると言った方が正解なのかな? でも
「何か言いたい事があるのならば言うがよい・・・アキよ」
その心臓の音を確認していた人・・・私の新しい主である冥王様が私の名前を呼ぶ声に心臓が飛び上がる様な気がする。それなのに
「いえ、なんでもありません」
なのになぜ私は何も言わなかったのだろう? あの男・・・リュウトが心臓が止まったぐらいで死ぬようなものでないことは私が一番よく知っていたはずなのに
「ならば、その剣を我に持ってくるのだ」
冥王さまがいう剣は間違いなく私がリュウトから奪った竜神剣。片膝をつき、うやうやしく剣を渡す。今までの私ならば、こんなことは女王の誇りなんて言うくだらない物の所為で出来なかったけど、今ならば何の問題もない。ああ、なんで今まであんなにこの人の支配を嫌っていたのかな
「・・・やはり、我に使われることは拒むか」
私の手から竜神剣を受け取った冥王様の顔が少々歪む。いえ、どちらかと言えば重そうにしている? 竜神剣は精神剣・・・だから重さなんて言う概念は存在しない。ううん、重さを0にすることも、物凄く重くなることもできるという事なんだけど
「まぁよい。我が真に手に入れるべき剣は別にある。その間はあの魔剣も十分に役立ってくれようしな」
けれど、そこはさすがの冥王様。竜神剣がご自身に使えないことなどに落胆の様子などお見せにならない。当たり前のように横に剣を差し出すと、そこにいた黒い影のような何かに剣をお渡しになる。きっと、あの人が冥王様の腹心なのだろう。心底羨ましいと思う
「厳重に封印をしておけ」
「封印・・・でございますか?」
使えるようにするでもなく、倉庫に放り込むのでもなく、封印をしておけとおっしゃる冥王様。それも厳重にと言われる。やはり、あの剣は特殊だという事なのかな?
「この剣が常時使っている改変の力は我の支配の力よりも上だ。持ち主がいない今となっては自身を守る程度にしか使えぬだろうが、我にこの剣を扱うことはおそらくできまい。だが、このまま放置しておけば呼び戻される危険はある・・・ゆえに厳重に封印を仕掛けておけ。くれぐれも『本来』の持ち主にも、今まで使っていた『仮』の持ち主の元へも呼び戻されぬように厳重にだ。如何に力を持とうと、それは剣だ。主の意思なくして使える力は微々たるもの。主の手なき今ならば、1億ほど結界を重ねがけすれば封印することは可能だろう」
そう言われて、私の方に視線を送る。今おっしゃられていたことを考えるに私が何故か言えなかったことも、この方はわかっておいでになるのだろう。だから、その視線に身がすくむような思いがする
「ふっ、気にすることはない。そのような思いなどいずれ消えてなくなる・・・だが、1つ聞いておこう。今のお前は奴のことをどう思っている?」
だというのに裏切りともいえる私の行動を冥王様は寛大にもお許しになさってくれて、そして情けなくも地面に横たわる男に視線をやりながら私に聞く
「あのような男の事など、どうにも思っていないに決まっています。一時とはいえあのような男に思いを寄せていたことは私の汚点でしかありません・・・この身は全て冥王様のためにのみ存在するものです」
何故、今までの私はあのような男に思いを寄せていたのか全く分からない。まして、1週間後の私の誕生日と同時に結婚しようとしていたなんて、理解不能どころか怖気が走るよ
「ふむ、良い返事だ・・・ならば、今はその涙は不問としよう」
「えっ・・・?」
涙? 私・・・泣いている? なんで? 悲しくなんて全くないのに、文字どおりに滝のようにあふれ出る涙は全く止まってくれなかった
「よろしいのですか?」
「深層部分のみとはいえ、よく抵抗していると褒めるべきだろう。あれほどの魔法抵抗のあるものはそうはいない・・・優秀な人材と思えど非難する理由はない」
「いえ、そちらではなく・・・」
「ふっ、奴の事か。それこそ、奴らの心を真に折るのに利用できよう? 今の竜神は四肢を失ったも同然、利用できるものはとことん利用するのだ。それに・・・奴にはまだやってもらわねばならんことがあるからな」
さて、まさに最悪な事態と言ってもいい状況。そう! この状況で誰をあとがきに呼ぶべきか、非常に困った事態です
レーチェル「私が来てあげたけど?」
そのまま回れ右をしてお帰り下さい
レーチェル「・・・どういうことかしら? 作者くん?」
いや、あなたが今回の騒動の一番の元凶じゃないですか! 情報を流しているのもリュウトたちを罠にはめたのも明確に貴方じゃないですか!
レーチェル「そこは色々と大人の・・・いえ、神の事情っていうのものがあるのよ」
神というよりはあなたの事情って感じですけどね。まぁ、リュウトたちがどうなるのか、レーチェルやそれに匹敵するあの2人たちがどう動くのかも是非見ていてくださいと言うところでしょうか?
レーチェル「ええ、そして、本当の意味でのすべての元凶たるあいつが果たしてからんでくるのかどうかもね」
シリーズ中、一番暗い第6部! けれど、その分重要な要素も盛りだくさん! ですので、ご贔屓のほどよろしくお願いいたします♪




