3話 「崩壊の足音」
「姫様! 姫様はどこにおいでなさりますか!」
そうしてやってくるのはいつもどうりの日常。あの後気が付いたらボクは自分のベットの上にいた。放心状態で1人で戻ったならば衛兵に気が付かれないわけがないから、リュウトが戻してくれたんだろう。ううん、本当は全部夢だったんじゃないかって、そう思ったことも1度や2度じゃなかったんだ。
「爺・・・ここにいるよ」
「姫様またそんなところに・・・最近、お元気がありませぬな?」
いつもと同じように屋根の上にいたボクに呆れ顔の爺。だって、リュウトとはここで出会ったんだ。ここにいたらまた会いに来て・・・そんなに元気がないように見えるのかな今のボクは
「なんでもない、なんでもないよ」
「しかし、ここ1か月ほどは食欲も・・・いえ、これは過ぎたることを」
1ヵ月、それはリュウトがボクの前から姿を消してからの時間。その間確かにボクの食欲は減ったと思うんだ・・・だって、爺が10人前ぐらいしか食べてないって心配した位だもん。でも、主である(正確には爺の主はボクの父さんだけど)ボクがなんでもないという以上はどんなに怪訝に思ってもそれ以上言うのは不敬。だから爺はそれ以上は言ってこないんだ。
「では、今日もお勉強頑張って下されですじゃ」
「・・・うん」
正直勉強なんて頭に入ってこない。リュウトに会うまでなら楽しいと思っていた屋根の上の昼寝もちっとも楽しくない。リュウトがいないだけですごく寂しい。はぁ、これってやっぱり恋なのかなぁ・・・本当に夢みたいな時間だった。夢みたいに突然やって来て、夢みたいに突然終わった。でも間違いなくリュウトが現実にいたと言える証拠がここにある。
「ねぇ、リュウト。ボクはこれを吹いてもいいのかな?」
あの後気が付いたらベットにいたボクが握りしめていた銀の笛。リュウトはこれを吹いたら会いに来るって言った・・・でも、何故かな? ボクはお姫様なのに、わがままなんてさんざん言ってきたのに、リュウトの迷惑になるかもって思ったら会いたくてもなかなか吹けないんだ。
「姫様、入りますよ」
「あ、うん!」
先生が部屋に入ってくるノックと声にボクは慌てて笛を机の引き出しにしまう。ボクが持っているものは当然みんな国が入念に調べたもの。当然、ボクが何を持っているかなんて知られつくしている・・・だからこの笛が見つかったら何を言われるかわからない。最悪取り上げられてしまうかもしれない。これが今ボクとリュウトを繋ぐ唯一の絆だとしても
「・・・で、ありますから、わが国では・・・姫様? 聞いておられますか?」
「あ、うん・・・聞いてる」
「それは失礼しました。では続きを・・・」
この国の歴史・・・うん、それが大事だってことはボクにもよくわかっているよ。でも、面白いとは思わない。リュウトが語ってくれたよその国の物語は本当に面白かった。ドキドキでワクワクの冒険の物語たち・・・今から思えばそれはリュウト自身の物語だったのかもしれないけど
「では、今日はこのぐらいに・・・では姫様失礼します」
「・・・うん」
こうしてここのところのボクの日常は過ぎてゆく。ううん、本当はこういう日常が続けばよかったんだよね?
「はぁ、リュウト、やっぱりボクは君に会いたいよ・・・えっ!?」
いつものように屋根の上で横になっていたボクの目に飛び込んできたのはいつもと違う光景。突然崩れる民家に響き渡る悲鳴。正直、ここからじゃ何が起きているかはわからないけど、何かしらの異常事態が起きているのは間違いがなくて
「姫様! ここは危険です! さ、こちらに!!」
「爺! 一体何が起きて・・・」
「詳しいことは存じませんが何やら怪物が現れた様で・・・そんなことよりも早く避難を!」
怪物? あんな・・・家をまるで粘土細工のように破壊しているような? あ、そうだ! こういう時こそ・・・きっとあいつならば助けてくれる! だって、あいつは
「ちょ、ちょっと待って! 笛! ボクの机の引き出しに入っている笛を・・・」
「姫様! そんなものを持っていくような暇はありませぬ! 早くご避難を!」
ち、違うんだ! あれは、あれはただの笛じゃなくて・・・衛兵! こんな時ばっかり早く来なくたって!
「わっ! ボクは荷物じゃないんだぞ! 担いで運んでいくな~~~!!」
じたばたと暴れてみても、屈強な衛兵たちは全くビクともしない。あの笛はただの笛じゃないのに・・・でも衛兵にとっては命令は大事。今、言ったのは爺でも、実際には父さんからの命令だろうからボクじゃ撤回できない。あの笛さえあれば、この国を救えるかもしれないのに・・・ボクはやっぱりお姫様にすぎないの? ボクはボクという個にはなれないの?
『俺が知っている女王様は結構勝手やっているけどな。でもわがままだと思っているものはいない。女王にふさわしくないと思っているものもいない。それは彼女が彼女らしく、それでいて国と国民のために動いているからだと思う。アイはアイらしいお姫様でいればいいんじゃないかな?』
そうだ、リュウトは確かそんなことを言っていた。ボクはボクらしいお姫様で良い、爺に言われるみたいに、父さんが言うように衛兵に守られながら震えているお姫様でなくてもいいんだ! ボクがボクらしく、国のために出来ることは震えながら待っている事じゃないよね!
「言うこと聞かないっていうならこうだ! ガブッ!!」
まぁ、実際問題としてボクの机の引き出しに入っている笛を吹いたら、この状況を何とかしてくれるかもしれない救世主が来てくれるなんて信じてもらえるはずないよね。だからこそ、ボクがいかないといけないんだ! さすがに思いっきり噛まれたのは痛かったみたいで慌てた衛兵の隙をついて・・・えへへ、そんな重い鎧なんか着てたらボクに追いつけるもんか! ・・・リュウト、ボクはこれでいいんだよね?
訪れた争乱、アイも読者様も何が起きたのかまだわかっていないでしょうが、そこら辺は次回以降のお楽しみということで
アイ「とにかくボクの大活躍だぞ~」
・・・ま、まぁ、間違ってはいないか。リュウトも結構余計なお世話なこと言っているのですが、今回に関しては当たっているんですよね。この異常事態で一見ただの笛を取って来ようと言う人はいないでしょう・・・いくらお姫様の言だと言えども
アイ「うん、まぁね・・・だからこそボクがやらなくて誰がやる!」
本来ならばお姫様がやってはいけないことですけどね。お姫様が1人で危険地帯を走っているなんてどれだけ迷惑がかかるか・・・絶対にリュウトが言うアキが女王様としては特殊すぎると思いますが。そもそも人でなくてエルフですしね^^
アイ「むう~、と、とにかく次回はボクの大活躍なの! ボクが無事にリュウトを呼べるかどうかみんな注目していてね!」
ということで次回もよろしくお願いいたします~♪




