2話 「嵐の前の」
アイと知り合って1週間ほどが経ち・・・今度という約束だったアイを乗せて空を飛ぶのが日課になりだしたころ
「ん? そろそろ戻らないといけない時間だな」
「・・・嫌だよ」
へっ? アイは目を盗んで俺と一緒にいるから、勉強の時間とやらになるといつもは渋々ながらに帰っていくんだが
「そうは言ってもな。アイが俺とこうやってあっていることがばれるとお互いに困るだろう?」
まぁ、どうもこの国には秘密はありそうだが危険はなさそうだから俺とすればばれたら帰ればいいだけだからさほど問題はないんだが・・・アイはそうもいかないだろう。
「ぜっっっったい嫌だ! ボクはもっとリュウトと一緒にいたいんだ!」
こ、こら、暴れるな! 一応ここは空の上なんだぞ? まぁ、落ちたら落ちたで風でアイ自身を浮かせればいいだけなんだが・・・そうだな、今は誰もいなさそうだし
「な、何、勝手に降りて・・・嫌だぞ。ボクは絶対に帰らない!」
「・・・そろそろ落ち着いたか?」
「最初から落ち着いている!」
リュウトがボクを連れて来たのは城の近くの泉・・・近い場所なのにボクはここに来たことはない。今までだってリュウトは空を飛んでいただけで地面に降りたことはなかったし
「そうか・・・なぁ、どうして今日に限って」
「だって・・・だって!」
まるで小さい子をあやすように、優しい顔と声でボクに語りかけるリュウト。でも、ボクだってわかっているんだ
「リュウトは・・・この国の人間じゃない」
「・・・ああ」
ひょっとしたら人間ですらないのかもしれないけど、そんなことはどうでもいいんだ。リュウトと一緒にいると楽しかったんだ。それはひょっとしたら空を飛んだドキドキだったかもしれないし、リュウトが教えてくれる他の国の物語だったのかもしれない。・・・これは恋なんかじゃないのかもしれない。でも、ずっと傍にいてほしいっていうのは本当なんだ。
「この国の人間じゃないからいずれは出ていく」
「・・・ああ、そうだな」
それがいつ? なんて聞けない。リュウトが何のためにこの国に来たのかは知らない。けれど、ボクと会っている1時間弱以外はずっと自由にしているんだ。こうやって誰にも見つからないようにしているんだ。いつ出て行ってもおかしくない・・・もしも、もしも聞いて『明日』なんて答えられたらボクはどうなっちゃうんだろう?
「ボクは・・・それは嫌だ。初めてなんだよ。ずっと、ずっと傍にいてほしいって思える奴にあったのは」
「俺はそんな大した奴じゃないぞ?」
「それを決めるのはボクだ! リュウトにも他の誰にも決めさせはしない! ボクは姫である前にアイという人間だ! 傍にいてほしい人くらいボク自身が決める!」
誰が何と言おうともそんなの関係ないよ。どうして・・・どうしてボクばっかりがしたい事も出来ずに、傍にいたい人とも離れなきゃいけないのさ! ボクは・・・ボクは・・・
「リュウトが何のためにここに来たのかはボクは知らない。そんなことは知らなくていい。でも、リュウトさえ望んでくれれば、ボクの隣の席を用意できるんだ。絶対にボクが用意して見せるんだ」
本当はそんな簡単なことじゃないってわかっている。ボクは自分の相手すらも自分で自由に決められない立場だってこと痛いほどわかっている! でも、でも・・・このわがままだけは押し通したいんだ
「大丈夫、安心しろ」
ポンポンと頭を軽くたたくように撫でながらリュウトは言う。あ、安心しろって・・・そ、その了承してくれるってことだよね?
「距離が離れていたってずっと俺はアイの『友達』だぞ?」
・・・そ、そもそも伝わって無かった。リュウトが鈍いことはこの1週間でなんとなくわかっていたけど、ここまで鈍かったなんて
「そ、それじゃあ嫌なんだ!」
本当は友達なんかじゃ嫌だと言うべきなんだと思う。でも、そこまで言うのはなんか恥ずかしい気がして・・・本当に困ったような顔をしているリュウトには悪いけど、ボクにだってそれは譲れないんだ
「ごめんな。俺はここに残るわけにはいかないんだ・・・それに俺がここに来た目的はもう果たされている」
迷いなくいいきられた言葉。ああ、振られちゃったな・・・きっと、明日はもうリュウトはボクのところに来てはくれない
「だが、それでも俺たちは友達さ。・・・俺に会いたくなったらこの笛を吹いてくれ。まぁ、俺もいつも体が空いているわけじゃないから絶対とは言わないが、可能な限り会いに来る」
そう言いながらリュウトがボクに渡したのは小さな銀の笛・・・笛が鳴ったらやってくるってやっぱり人間じゃないんだろうなぁ
「ねぇ、最後に1つだけ教えて・・・君はいったい何者?」
「俺はリュウト、リュウト=アルブレス・・・人は俺を竜神と呼ぶな」
あっさりと、まるで急に吹いた一陣の風にかき消されたようにその言葉を最後にリュウトはボクの前から消えた・・・竜神、竜の神様? 空から降ってきたヒーローは待ち望んでいた白馬の王子様よりもずっとすごい人で・・・うん、きっと物語はまだ始まったばかり。今はまだプロローグ部分が終わっただけだとそう自分に言い聞かせたんだ
リュウトとアイの物語。どうもこいつは特殊な環境にある女性を縁が強くて惚れられる宿命にあるようで
アキ「それというのもリュウトが誰彼問わず優しいのが悪いのじゃ!」
おっと、この章では出番のないアキさん・・・いやいや、落ち着いて。一応メインヒロインはあなたのはずですから
アキ「う、うむ、それならばよいのじゃが・・・」
まぁ、リュウトが誰彼問わずというのは正解ですが・・・元々、アキが惚れるきっかけもその誰彼問わずで助けられたのがきっかけですから人のことは
アキ「わ、私はいいのじゃ! そ、それにフリーの時はともかく、私という恋人がいるのに他の女に優しくするんじゃないのじゃ!!」
まぁ、あれは死んでも治らないでしょうけどね。さてさて、リュウトは帰って行きましたが、まだまだ波乱が待ち受けていそうなこの国での物語、是非次回もお楽しみください
アキ「うむ、私の代わりにリュウトをばっちりと見張っておいてほしいのじゃ」




