4話 「鬼ごっこの行方」
「り、リデアぁ~、本当に大丈夫なの~?」
心配そうにママナが言う。その顔は今にも泣きだしそうにも思える・・・ってそんな顔しないでよ。わ、ワタシだって本当は心配だし怖いんだから!
「だ、大丈夫よ。いくら兄さんと竜神剣の気配察知が凄まじくても、それは知っている相手だから認識できるわけだし・・・今の気配が変わったワタシたちを他の子と区別することはなかなか難しいはずよ、うん」
それにワタシの手元にある神剣レキュオスは兄さんの竜神剣の位置を常に把握し続けるし、レーチェルから受け継いだ竜神のサポート神の地位は竜神である兄さんの位置を把握し続ける。追いかけっこ・・・いえ、鬼ごっこのような今の状況に置いて、ワタシ達だけが一方的に相手の居場所を察知できるのはこれ以上ないアドバンテージのはず
「で、でも~、私の隠密使っても竜神剣の能力使われたら発見されちゃうよ? リデアはもっと見つかるだろうし・・・」
う、うるさいわね、ワタシだって隠密ではあんたに適わないことなんて百も承知よ! でも、そうね・・・ワタシが兄さんの立場だったら・・・
「今のところ兄さんが竜神剣を使った気配はないわ。でも、あんたの現状は知らなくても何か知っているかも程度にあんたを探すことはあり得るし、見つからなければ竜神剣を使うこともあり得るわね。だから、むしろ隠密は使っちゃ駄目よ」
この森の中に常時いる存在で、兄さんの探索に引っかからないのなんてママナぐらいのもの。隠密を使って気配が消えたり現れたりを繰り返したり、竜神剣を使って隠密中の気配を発見されたりしたら、それがママナだとばれる確率が高いわ。それはつまり今の状況がばれるということでもあるし、そこまで行かなくても隠密なんて使っている知らない気配を兄さんが調べに来る確率はこれまた高い。森の生物なんて数えるのが馬鹿らしいほどいるんだから、姿さえ見られなければ堂々としていた方が多分見つからないわ・・・まぁ、問題はワタシは勿論のこと、ママナもこの森の中限定ではかなり強者で気配からそれがばれる恐れがあるってことだけど
「そっか、結構リデアって色々考えているんだね~」
そんなママナの言葉で思考を中断させられる。あのね、ワタシだってもう大人なの! そりゃ、生きている時間は魔族のあんたよりずっと短いけど、おこちゃまに負ける様な頭はしていないつもりよ! ・・・まぁ、メイやレーチェルどころか実はアキにも劣っているんじゃと思うことは何度かあったんだけど
「失礼ね! あ、でも気配を薄くすることはしておきなさいよ。実力隠ししていないとそれでそれで怪しんだから!」
慌てて気配を薄くするママナに一安心・・・アシュラクラスならばママナが気配を薄くしても実力に気が付くでしょうけど、今の兄さんのレベルならばまだ誤魔化せるはず。それにママナが普段は隠密の方を使っていることを考えれば、余計疑われにくい。
「じゃあ、早速転移陣に行くわよ・・・慎重にね」
ワタシとママナが転移陣を目指して歩き出して早3時間・・・はっきり言えば普通に動けるのならばワタシで5分、ママナで15分、空を飛べるのならば2人とも1分でつくだろう距離にあるのだけれども、どうにも体が大きくなったことで服がきついし、何故か兄さんによくニアミスするし・・・ワタシたちが運が悪いというよりも兄さんの運が良すぎる気がする
「な、なんだってリュウトはああも運がいいわけ~~~!」
「し、知らないわよ! ワタシの方が教えてほしいくらいだわ!」
単純な運だけが作用するもの・・・道をどっちに進むかの2択3択・・・どころか確率的には1%もないような選択肢だろうが100%ワタシ達がいる方向に歩いてくるいうのはもはや運とかいう次元じゃない気がするわ(※リュウトは本人も気が付いていないが、3部で助けたカーバンクルたちの祝福で強運に恵まれています)
「と、とりあえずあの道の先が転移陣だから・・・」
「こ、こんなところにあったんだ・・・知らなかった」
はっきりいうと転移陣はママナの家のすぐ近く。少なくても彼女の家からエルファリアまでよりもずっと近い。とはいえ、水飲み場でもなく食べ物があるわけでもないその周囲はママナには立ち入らない場所だったのね・・・ひょっとしたら神聖な気配に無意識に避けていたのかもしれないけど
「それじゃあ元凶に・・・あれ?」
いつもならば黄色っぽい光を放っている転移陣が光を失って黒く・・・作動してない!?
「レーチェル・・・ここまでやってくるなんて・・・ん? これってブザートラップ!?」
突然なりだすブザー。転移陣を作動不能にするためには管理者本人が現地に来なければいけないからレーチェルが小細工したのだろうけど、あの女がこんなブザーに頼る必要はないということは・・・
「よっと、ようやく捕まえたぞ。やっぱりママナも被害に遭っていたか」
あはは、やっぱり兄さんが仕掛けていたのね。ワタシも兄さんからこの場所を聞いたんだから兄さんが知っていて当然。そして当然兄さんが真っ先に調べに来るのはここに決まっているわよね・・・ブザートラップなんて一番簡単な魔法トラップだし
「これでよし・・・初めから俺を頼っていればいいものを」
さっそく竜神剣で薬の効果を斬って元に戻してやったところ2人揃って呆けられた・・・お前ら、俺が何とかできるとは思ってもいなかっただろ?
「リデア~、りゅ、リュウトがどうにかできるならば逃げる必要なかったじゃな~い。そりゃ、リュウトに男の姿見られるのは恥ずかしかったけど」
「わ、ワタシだって兄さんにそんなことができると知ってたら恥を忍んでも頼んでたわよ!!」
いや、仮にできなかったとしても逃げることはないだろう逃げることは
「だがな、ママナも今回は人のこと言えないぞ? その姿でエルファリアに来ると危ない? お前ならば隠密使えば俺たちの部屋の前までは来れるだろうに」
「あっ!?」
そうだったとばかりにママナが唸る。さすがにアキやメイ、リデアの結界までは誤魔化せないかもしれないが、そこまでくれば対処するのは俺たちだ。話をする程度の余裕はある。・・・まぁ、2人ともそれなりに動転していただろうから無理はないか。俺だって竜神剣でどうにかなるということを自分の時は気づかなかったしな
これで騒動は終わり・・・だったらよかったんだが
さて、鬼ごっこも終わりを告げて、無駄な徒労をしていた両者も何とか事態の解決に・・・だったらよかったんですけどね
リュウト「まぁ、ママナはともかくリデアだからなぁ。だいたい、あいつが何をしでかすかは想像がつく」
お、結構お兄ちゃんをしているようなリュウトですね。・・・の割には肝心なところは気が付かないわけですが
リュウト「何か言ったか? まぁ、これでも兄だからな・・・あいつのことは守ってやらないといけないし、知ってやらないのは怠慢だろう?」
少なくても仲間の大部分からはシスコン気味だと言われているから・・・アキあたりが不満を漏らしていそうだという懸念もw
リュウト「怖いこと言わないでくれ・・・俺にとっては一番怖い相手だぞ」
ま、そんなこんなで次回がこの章の最終話・・・そして次章がこの部の最終章でもあります。もうしばらくは、ほのぼのをお楽しみください




