2話 「被害拡大?」
リデアがエルファリアを脱走する少し前、迷いの森のママナの家
「ん~、よく寝た~」
ベット・・・なんていう高級なものは勿論私の家にはないけど、寝床の上でう~んと体を伸ばす快感。太陽はもうだいぶ高くなっちゃっているけど、レミーとかに比べればまだ早起きだから問題なし! だよね
「あれ? これ何かなぁ?」
ポヨンとお腹の上・・・の空中に浮かんでいた箱。そう言えば以前の誕生日にお腹の上に直接おいていたのはコーリンさん・・・その、お母さんとレーチェルさんだったから、これも? でもなんでわざわざ浮かしているんだろう?
「う~ん、でも私がなんともないということは敵意があるとも思えないし・・・」
そりゃあ、私なんていつでも倒せると言えば倒せるんだろうけど、これの中身が危険物ならば眠りこけている私を殺していった方がずっと手っ取り早いわけで・・・自分で考えていて悲しくなってきたけど
「ん~、とにかく開けてみないと始まらないよね?」
カポッとあけてみると中に入っていたのは・・・お饅頭? なんていうか、ちょっと意外だよ~。べ、別に毒とか入ってないよね? ま、まぁレミーじゃあるまいし、贈り物のお饅頭に毒を入れて毒殺する位ならば寝ているうちにだし・・・
「うん、食べちゃお! それにちょっとぐらいの毒ならば平気だもん」
これでも私だって悪魔なんだから。そ、それに森の中で暮らしていると甘いものなんて貴重だし
「ん、美味しいよ~・・・あれ?」
なんか意識が・・・や、やっぱり毒? だ、駄目、私が死んだりしたら・・・リュウトがきっと悲しむ。最後に浮かんだのは悲しげな顔をする大切な弟の顔
ぱっちり目が開く。えっと、私はどうしたんだっけ? ここは確かに迷いの森で一番大きい木の枝に作られた私の家だけど、葉っぱを敷き詰めた寝床の上じゃなくて、木の枝がむき出しになっているところ。私は寝床から転がり出るほど寝相悪くないはずなんだけどな。
「あれ? これは・・・ん?」
私が見つけたのは箱の中に入ったお饅頭。まだ7個も入っている・・・じゃなくて! 今、私の声変じゃなかった? そういえば、お饅頭を食べたら気絶したような気が・・・命にかかわる毒じゃなかったみたいだけど、声を変える毒でも入ってたの!? ぶ~、それはそれで困るけど何のためにそんなことしたのよ~!
ピチリ・・・そんな感じの音が私の耳に届く。その音が何かを考える前に体の方が理解しちゃう。つまり・・・服がきついというか。なのに最近少し膨らんできた胸はものすごく余裕があって。っていうかアキなんかと比べたらずっと大きかったはずなのに今はぺったんこ。あれ? なんかこういうのってどこかで聞いたことあるような?
「えっと、たしかアキが・・・それにリュウトがレミーからの贈り物で性転換した苦しめられたとかいう話を聞いたことがあるような?」
そう、あれはエルファリア宮殿に遊びに行ったとき、アキどころかリュウトまで病気で出てこれないなんて言う話を聞いておかしいと思った。だってリュウトは、竜神は病気にかからない存在だから。メイさんすら困った顔で誤魔化しをしていたから、その後にあったリュウトに問い詰めたところ赤い顔をして教えてくれた
「やっぱり、お姉ちゃんに隠し事する気~!? は有効だったみたいね。じゃなくて」
もしもレミーの仕業(?)だったなら、彼女の性格として絶対に自分とわかるような何かがあると思うんだけどな? 彼女のことだから本当にただの贈り物のつもりだろうし
箱の裏にもなんにもなし、箱の中にもお饅頭しか入ってない。ひょっとしてレミーじゃない? いや、その方が私にとっては問題があるかもしれない
「あれ? この箱・・・2重底になっている?」
無意識に触れた箱の底が少しだけ動いた。なんとなく嫌な予感がしながらも私はそこを開けて・・・
「何を考えているのよ~~~レミーは~~~!!」
そこに入っていたものを見た瞬間に叫んだのはきっとおかしなことじゃないと思う。本当になんなのよ、この『えへへ、この箱面白いでしょ? 頭のいいまーちゃんならきっとこの紙、見つけられるよね』っていうのは~~~! はぁ、レミーからの贈り物だってわかっていたら絶対に食べなかったのに。そりゃ~、その可能性を無視していた私も悪いんだけどさぁ
「とにかく、これはレミーが送ってきたもので確定。ってことはリュウトが教えてくれたお饅頭であるということでほぼ決定。つまりは私はおと、男になっているってことで・・・グスッ」
声に出さないとどうにかなってしまいそうで、声に出して確認していると悲しくてどうしようもなくて、自分が変えられるって本当に怖い事で・・・たぶんレミーは全くわかってないけど。ひょっとしたら、ううん、まず間違いなくこのお饅頭の効果もわかっていないのだろうけど
「大丈夫、リュウトもアキも元に戻っている。つまり、元に戻る方法はあるってことで・・・」
本当にそう? リュウトは竜神で、アキはエルフの女王様で・・・2人とも私よりもずっと強くて。私は元に戻れる? 本当なら、すぐにでもリュウトのところに行って話を聞くべきなんだろうと思う。でも
「こんな姿見られたくない。それにリュウトやアキは私が私ってわかるのかな? もしかしたら・・・ううん、たぶん入口で追い返されるか・・・」
殺される。たぶんそうなると私は思う。今まで宮殿に入れたのはアキが私を友達としていたから。2人やメイさんなら気づいてくれるかもしれないけど、兵たちがわかるはずもなくて、3人には事後報告はいくかもしれないけど、宮殿に無防備に近寄って行った下級悪魔の末路なんて1つしかない
怖い、誰にも気が付かれないの? 私がママナだって誰もわからない? 何も持っていないと思ってた。それがリュウトと出会って大切なものが出来て・・・たった100年だよ。長い長い魔族の一生、まだ精々5分の1も生きていない5700年の私の時間のうちのたった100年ぐらい。その間に私が手に入れたものってこんなに大きかったんだ。失うってこんなに怖い事だったんだ。リュウトが失うことを恐れる気持ち、よくわかるよ
「と、とりあえず今の私の姿を確認してから・・・よね? ひょ、ひょっとしたら、あんまり変わっていなくて普通にリュウトたちに会えるかも・・・」
いくらそう思っても、気持ちを落ち着けようと思っても・・・うう、涙が止まらないよ。で、でもまずは動かないと。ここら辺で私の姿を確認できるところはというと・・・森の泉かな?
さて、今回の犠牲者はママナ。まぁ、さすがにメイやコーリンは知っていますから、あれを食べることはないので今回の犠牲者はこれぐらいですね
ママナ「うう、なんでレミーは私にまで送ってきたのよ~」
いや、レミーのことだから『前回の時にはうっかり忘れちゃったの。今回はまーちゃんの分もちゃんとあるからね』って感じだろう?
ママナ「有難迷惑だよ~。それに2重底の箱ってなんなの~~~! あれが無ければ回避できたかもしれないのに~~!」
たぶん、レーチェルの神殿で見つけたんだろうなぁ~。レミー風のサプライズだったんだろ?
レミー「ぶ~! なんでそんなことをするのよ・・・」
まぁ、レーチェルのサプライズに比べたらかなりおとなしいだろう。・・・あいつだったら同時に毒と遅行性の解毒剤も混ぜておくぐらいのことはするぞ
ママナ「・・・え、えっと、私はそれについてはノーコメントで・・・」
なんでだ? この機にため込んでいるものを・・・
ママナ「わ、私、もう帰るね! じゃあ!」
? どうしたんだ、一体?
レーチェル「私から見ればあなたが進歩ないわねよ、作者くん。さ、ゆっくりとお話しするとしましょうか?」
あ、あははは、ふ、普通、お話って剣と魔法で脅しながらするものじゃないですよね? た、た~す~け~て~~!!




