5話 「正道と邪道」
そうだな、ならば考えることは
「『誰』、がわからないのならば、『何故』を考えるべきだな」
「そうじゃな、確かにそれも疑問じゃ」
俺の言葉にアキがすぐにうなずき返す。アキも普段は俺以上の切れ者だからな
「ちょ、ちょっとどういうことよ!? 何故って、こいつとワタシ達を会わせるために」
「愚か者。我たちを会わせてどうするのか・・・そういうことであろう?」
反面リデアはちょっと頭脳労働には向かないのか? 兄としてはやや悲しくもあるが・・・まぁ、もう1人の妹に比べればずっとましだから良しとしよう。そしてカーミラもやはり気が付いているか。まぁ、夜の貴族たるバンパイアの中でもそこそこのランクとなれば当然なのか?
「そう言うことだな。俺たちがカーミラの居場所を知って、もしくはカーミラが居場所を発見されて、『そいつ』は果たして何を得たのかだ」
今までの話を総合するとそいつが光に属していようと闇に属していようともカーミラに気が付かれずに結界を外すのは相当な手間と労力なはずだ。そこまでしてそいつが何を得たかったのか・・・まぁ、それを苦ともしないとんでもない実力者の目もあるが、そうだとしたら何故そんな回りくどい方法を使ったのかだな。まさか、気まぐれにというわけでもあるまい
「・・・その前にこいつの意見を聞いておくか」
「うむ? この場には我ら以外にはいないと思うが?」
はは、さすがのカーミラもこいつの存在には気が付かないか。いや、普通はわからなくて当然だな。だからアキとリデア? そんなに勝ち誇った顔するなって
「俺の大切な相棒さ。で、どう思うんだ? リュム」
「・・・そなたは剣の意見を求めようというのか?」
呆れたように言うは無論、竜神剣であるリュム。というかお前は聞かなければ基本的に話してくれないだろうに
「剣である前に仲間で相棒だからな。お前に制約がかかっていることはなんとなく察してはいるが、話せる範囲で何かないのか?」
俺は憮然とした感じのリュムも唖然としているカーミラも無視して話す。おそらくは知識量・・・こういうことで言うならば一番知っているのはこいつのはずなんだが
「相手が何者であろうとも知っているものに聞けか。真理ではあるが、そのような知恵よりも戦う力を身に着けてほしいものだ」
「貴様! いくら我が君の相棒と言えども剣の分際で!」
そして、なぜそこでカーミラが怒るんだ? おまけにこいつがこういう奴だと知っているはずのアキとリデアも機嫌が悪いし?
「憤るな、バンパイアよ。我は教えぬとは言っておるまい? 確かに我は此度のことをたくらんだであろうものを知っている。だが、そいつは表にはまず出てはこまい・・・奴にとってはリュウトは元よりレーチェルとて取るに足らぬ小物。だが、数少ない娯楽だとも思っているだろう」
「娯楽か・・・それは厄介だな」
俺なんかは小物扱いでもわかるが、レーチェルまでというのは確かに怖くはある。だが、それ以上に目的が娯楽というのが何よりも厄介だ
「うむ、目的が娯楽というのは何とも予想がつきにくいのう」
「ようするに面白くなるとそいつが思うことならば、何でもしてくるってことでしょ? 予想なんてできるわけないじゃない!」
まさにアキとリデアの言う通りだろうな。ん? カーミラ
「なるほど、その剣の制約というのがどれほどのものかは知らぬが・・・我にも心当たりがある。だとするならば、これから先の我の行動もまさにそいつの予想どうりか。面白くはないが仕方あるまいな」
「何か知っているのか? ならば・・・」
「すまぬな、我が君よ。これは我が一族のある種の制約での、軽々しく話すわけにはいかぬ。じゃが、我に任せておいてほしい。なに、悪いようにはせぬ」
情報は無しか。ならばあとはカーミラを信じるかどうかだが・・・ふっ、俺らしくもない。この2択ならば答えは初めから決まっているだろう?
「わかった。頼むぞ、カーミラ」
「なっ!? わ、我を信じてくれるのか?」
「? 当然だろ?」
「こやつはこういう奴なのじゃ」
「ま、兄さんのことだからそういうってわかってたけどね。わ、ワタシは信じたわけじゃないし、不満だけど兄さんの方針だから我慢してあげるわ」
少々とげが刺さった気もするが、共に歩む気のある奴を否定していてもしょうがないだろ? 俺の望む道はその先にあるのだから
「じゃあ、後のことはカーミラに任せて俺たちは帰るとするか・・・とりあえずの収穫はあったみたいだしな」
「いや待つのじゃ、我が君よ」
帰ろうとする俺たちにかけられた声・・・それ以前に我が君ってなんなんだろうな? それ言われるたびにアキとリデアの機嫌が悪くなるんだが
「どうした?」
「いや、一言言っておこうと思ってな。・・・我が君よ、そなたは光の者だ。ゆえにそなたが歩く道は正道なのだろう。だが、世というのはな、正道だけでは先に進めぬ。そなたに汚れが似合わぬのならば、それは我らに任せると良い。我らは闇の者、邪道こそが表の道を歩けぬ我らの生きる道よ」
清濁併せのむ・・・か。確かにそれは必要だろうが、ちょっぴり勘違いしているかな
「確かに俺の属性は光だが、だからと言って俺の行動の全てが綺麗なわけではない。また、闇の行動の全てが汚いわけでもない。だから共に歩いてほしい・・・光も闇も平等であるべき。そんな世界をつくるための方法に、意味もなく2つを分ける必要もないだろう?」
だが、ありがたいとも思う。俺の中の漠然とした思いが固まる気がするから。卑怯と言われることも時として・・・そんな覚悟が決まった気がする
「そなたは我らも共に歩く仲間だと・・・ふっ、ならばその期待に応えて見せねばな」
そして、そんな言葉と共にカーミラは闇の中へと姿を消す。・・・しかし、なんとなく赤い顔をしていた気がするのは気のせいなのかな?
「ふむ、とりあえず一件落着はしおったが・・・リュウトはお仕置きだな」
「ええ、ワタシも手伝うわ、アキ」
何故だ!? ちょっとまて、2人ともその笑顔は本気で怖い。というか本気の魔法詠唱はさすがの俺も痛いというか死にかねないんだが! だ、誰か助けてくれ~~~~!!
というわけで本編ではいつもどうり鈍い男が1人嫉妬を受けておりますが、今回の全てはこの話にあり! カーミラが気が付いたこと、そしてこれから起こす行動がある場所で重要な意味を持ってくるのです!
カーミラ「ふふふ、我こそが真のヒロインであるとこれで証明できたであろう」
まだヒロイン争いしてたんですね。(一応ヒロインはアキのはずなんだけど)まぁ、それはともかくとして次章の予告をお願いいたします
カーミラ「うむ、よかろう。これもヒロインの務めというものだ。どうやら学習能力のない天使の手によってトラブルというのは何度となく繰り返されるらしいぞ。次章竜神伝説第5部6章『恐怖再び!? 性転換饅頭』だ。怪しげなものは食うでないということだな」




